まったり公園デート
もちろん俺は、背後にいる柊木ちゃんのせいで全然眠れなかった。
と、思っていたけどいつの間にか結構熟睡していたらしく、いい匂いで目が覚めた。
まだ時間は朝の七時。
俺が目をこすりながらキッチンに行くと、柊木ちゃんが何か作っていた。
料理をしている女の人の後ろ姿は、なぜかぐっとくるものがある。
「あ。起きた。おはよう、誠治君」
ちゅ、とおはようのキス。
「ちょっと、朝から……」
「三回も四回も一緒一緒♪」
柊木ちゃんの機嫌はかなりよさそう。
「朝ごはん?」
「ううん。お弁当。ドライブで、誰もいないところに行くから」
誰もいないところ? どこのことだろう。
朝ごはんはもう出てるから、と言われてテーブルを見ると、トースト、目玉焼きとサラダが用意されていた。
「あ、先に歯磨きするタイプ? よかったら、これ使ってね」
ごそごそ、とスーパーの袋の中から新品の歯ブラシを取りだした。
何でもう俺の歯ブラシ買ってきてんだ。
もしかして、俺が泊まりに来るってことを見越して、昨日かそれよりも前に買ってたんじゃ……?
「悪い先生だ」
「今日は先生じゃないもん♡」
もう柊木ちゃんは朝食や何やらの準備は終えていたらしく、俺がご飯を食べて歯磨きを終える頃には弁当も出来あがり、すぐに柊木ちゃん宅をあとにした。
丸っこい軽自動車に乗り込み、ドライブ開始。
「ええっと、ええっと……」
信号待ちの合間にナビをイジる柊木ちゃんに代わって、俺が行先をちゃちゃっと入力した。
行先は、県外の緑いっぱいの森林公園。
「誠治君、ナビの操作上手だね!」
本当の俺は、ナビ付きの車を持ってる、なんて言えない。
「あー……機械関係は、得意だから」
「頼もしいっ。……あたし全然ダメで。あはは」
ナビの操作程度って思うけど、柊木ちゃんにそう言われると、まったく悪い気はしないのである。
二時間ほどのドライブは、控えめに言ってかなり楽しかった。
あの先生がこうで、ああで、という各先生の裏側を柊木ちゃんが愚痴っぽく暴露したり、好きなロックバンドが一緒だったりと、ともかく盛り上がった。
やってきたのは森林公園。
結構山の中にあり、そのせいか、駐車場に車は全然いなかった。
「あ、あれぇ……」
バックで駐車を失敗しまくる柊木ちゃん。
「春香さん、もしかして下手な人?」
「へ、下手じゃないってば! 苦手なだけだもん」
「いや、それほぼ一緒……学校に通勤したときはどうしてるの?」
「用務員さんにやってもらってる」
この人マジかよ。
キーを預けて駐車してもらうって、セレブ感あるけど、実態はただきちんと駐車できないだけ。
「代わって」
「え。誠治君できるの?」
「まあちょっと」
はあ、と呆気にとられた柊木ちゃんだったけど、周りには俺たち以外誰もいなかったからか、運転を代わってくれた。
いや、言い出しておいてあれだけど、柊木ちゃん、これ、ダメじゃね?
免許を持ってない高校生に運転代わっちゃダメじゃね?
まあ、先生と生徒が付き合うっていう禁忌を犯しているんだから、焼け石に水みたいなものかもしれない。
「頑張って!」
と、言い終わるのと同時にきちんと駐車した。
「何で!? こんなにあっさり……」
「ええっと……あ。ゲーセンの運転するゲームあるでしょ? あれで」
「へえええ」
レーシングゲームは、駐車なんて地味なことはしないけど、とりあえず納得してもらえた。
本当の俺は運転免許持ってるからできる、とは言わないでおいた。
「内緒だからね? 高校生に先生が車を運転させたなんて」
「いや、そもそも俺たちの関係が内緒でしょ」
「あ、そうだった」
ちろっと舌を出して笑う柊木ちゃんはやっぱり可愛い。
弁当を持って歩くこと二〇分ほど。
ちょっとした高台にやってきて、俺たちはベンチに座った。
遠くには小さくなった街が見えて、その奥には海が見えた。
「いいところだね」
「春香さん、来たことあるの?」
「ううん。前調べて、今日遊ぶ候補のひとつにしてんだよ」
……飲み会の二次会断ったって言ってたから、柊木ちゃん、俺と今日遊ぶ気満々だったんだ。
「で、これ、何?」
ベンチで俺を横にさせた柊木ちゃんは、俺に膝枕をしている。
「イヤだった?」
「イヤじゃないけど」
「じゃあオッケーじゃん」
この先生、俺に何もさせない気だ。親鳥みたいにどんどん俺の口に弁当を箸で運んでくる。
「春香さんと一緒にいると、どんどんダメになっていきそう……」
「なっちゃえ、なっちゃえー♪」
「いいんかい」
「うん。卒業したら、あたしがずぅっと養ってあげりゅ♡」
柊木ちゃんは、男をダメにする女の人だった。
「じゃあ……お願いします」
「りょーかいっ。それまで、バレないように頑張ってコソコソ付き合おうね♡」