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空き巣事件その2


 空き巣ですって紹介されたら、もう「空き巣です」って言うしかなかった。


 他に紹介の仕方もないし、いやいや違うでしょって突っ込んでも、そのあとどう処理すればいいのか、俺にはわからない。


 だから、今の俺は、空き巣である。


 さっきの「空き巣」っていう単語に引っ張られてとっさに出ちゃったんだろうけど。


 ほら。

 すでに「あ、どうしよう……」って顔を柊木ちゃんがしている。


「は、春ちゃん……さっき知り合った人に……キスしたりするの……?」


 矛盾点いっぱいでてきたぞ。どうするんだよ。


 妹の夏海ちゃんは、不安そうに柊木ちゃんを見つめている。


 っていうか、空き巣っていうパワーワードは無視するのかよ。


 だらだら、と汗を流しながら柊木ちゃんが顔を背ける。


「す……するけど? キスくらい。さっき知り合った人でも」


 強行突破だ!!

 あとに引けないからビッチ発言!


 俺は空き巣で、柊木ちゃんはビッチになった。


「ウチの知ってる春ちゃんじゃないっ!?」


 でしょうね。たぶん本人すら知らないよ。


「今まで、ずうっと隠してたけど、夏海が知らないだけだから」


 俺も含め、全員 (どうしよう……)って顔をしている。


「と、とりあえず、座りませんか……?」


 さっき知り合った空き巣こと俺が、夏海ちゃんにソファをすすめる。


 俺と柊木ちゃんが付き合ってるのを隠そうとしたら、初対面の空き巣とビッチ先生と純粋な妹ちゃんという謎のトライアングルができあがった。


 ど、どうすんだよこれえええええええ。


「あたし……お買い物した食材、冷蔵庫に入れるから。お昼ご飯の準備もしないと……」


 スーパーの袋を掴んだ柊木ちゃんが逃げた。


「あのう……空き巣くんは、誠治って名前なの?」

「あ、はい……。さっき、そこでばったり、お姉さん……先生に出くわして……」


 空き巣しようとしたところを先生に見つかり、事情を聞くという名目でお昼を食べさせてもらうという話になった――っていう、穴だらけの作り話を語る。


「そっかぁ」


 信じた!?


「誠治君は、今いくつ?」

「十七です」

「ダメじゃん、空き巣なんてしちゃあ! もしやってたら警察沙汰だよ」


 柊木ちゃんのビッチ発言が衝撃だったせいか、俺と柊木ちゃんの関係の怪しさは吹っ飛んだらしい。


 ともかく、結果的にビッチ発言は今のところファインプレーだった。


「はい。柊木先生が、このアパートに住んでると知らず……。おかげさまで、未遂でとどまりました」


 申し訳なさそうにしょげておく。

 俺は柊木ちゃんのことを知っているけど、柊木ちゃんは俺を知らないってことにしておいた。


「春ちゃんがあんなに尻軽女だったなんて……」


 やっぱり、柊木ちゃんのビッチ発言は、結構ショックだったらしい。


「だいたい、夏海がいきなり来るからおかしなことになったんでしょーっ!?」


 聞こえていたらしい柊木ちゃんが、キッチンから顔を出した。


 すごい不機嫌そう。


 そりゃそうだ。

 昨日の晩は、今日のお好み焼きパーティをすっげー楽しみにしてたっぽいから。


 柊木ちゃんの言うことはもっともだった。

 来るなら来るで、ちゃんとアポ取ろうぜっていうのは、大人のジョーシキだ。


「ウチは、春ちゃんを驚かそうとしただけだったのに……ちゅ、ちゅーしはじめるから……出られなくなって……」


「み、見られてたんだ……」


 顔を赤くした柊木ちゃんはすぐにキッチンに戻っていった。

 ウブウブな反応はとても可愛いけど、ビッチっていう設定を忘れないでほしい。


 柊木ちゃんがホットプレートを持ってくる。重そうなので、持ってあげた。


「あ、誠治君……ありがと」

「ううん。いいよ」


 テーブルの上に置いて準備をしていると、じいっと夏海ちゃんに見つめられた。


「何ですか……?」

「春ちゃんち、はじめてじゃないでしょ?」


 何でわかったんだよ。


「そんなこと、ないですよ? は、はじめてですが」

「コンセントの位置、確認しなくてもわかったでしょ? 迷わなかったから」


 うげ。探偵かよ。


「ちょうど目に入ったので」

「そう……?」


 んんん……。まだ若干疑わしいのか、じろーり、と見られている。


 手強ぇ……。

 紗菜よりも的確にこっちの痛いところを突いてきやがる……!


 むーん、と不審そうに俺を見て、奥にいる柊木ちゃんの背中に目をやる夏海ちゃん。


 それから、すぐに大きなボールを抱えてきた柊木ちゃんがホットプレートで人数分のお好み焼きを焼きはじめた。


 できあがったお好み焼きは、あつあつでウマウマだった。


「春ちゃん、相変わらず料理上手だね」

「でしょー? 夏海も練習すれば彼氏できるかも」


 こら、柊木春香。チラってこっち見るのをやめなさい。


「考えとく」


 はぐはぐ、とお好み焼きを食べていく夏海ちゃん。

 おっとりしてそうな柊木ちゃんとは、性格は反対のような気がする。


 お好み焼きを食べて食休みを終えたあたりで、俺は早々に帰ることにした。


「今日はありがとうございました。ご飯もいただいて」


 柊木ちゃんがしゅん、としている。

 二人でいた時間は、スーパーとそこまでの往復の時間だから一時間もなかった。


 寂しそうな顔で、柊木ちゃんは残念そうに手を振っている。

 そんな顔をされると俺も切なくなる。


 名残惜しいけど、今日は退散。


「ねえ、空き巣くん」


 俺が駐輪場においた自転車にまたがると、上から夏海ちゃんがのぞいていた。


「本当に空き巣してたの?」

「かもしれませんね」

「もう、どっちよう」


 タイミングがまずかっただけで、夏海ちゃんが悪い子じゃないのは十分わかる。

 俺は適当に手を振って、自転車を漕ぐ。


 あとは、柊木ちゃんが上手いこと、グレーゾーンに俺たちの関係を落としてくれることを願うだけだ。


◆柊木夏海◆


 空き巣くんを見送って、春ちゃんちに戻る。

 そしたら、春ちゃんが椅子の上で膝を抱えていた。


「どうかした?」

「どうもしないよ……ただちょっと……うん……」


 どう見てもヘコんでいる。


 ご飯を一緒に食べているときの感想を言わせてもらうなら、少なくとも、春ちゃんは空き巣くんに好意を持っていることは間違いなかった。


 可愛い弟に接するような感じに近い。


 姉はウチの知っている姉でしかなくて、ビッチみたいな発言したのは、勢いがついただけなんじゃないだろうか。


 空き巣くんはよそよそしい態度を終始崩さなかったから、何を考えているのかはわからない。


 あれ、演技だったら素直にスゴイと思う。


 食事中や家に帰ってきたときと比べて、春ちゃんのテンションは急降下中。


 お昼ご飯の後片付けもしないまま、ふにゅーん、とテーブルに突っ伏している。


「知らなかったっていうのは、実は嘘で、実は好きなんでしょ? 空き巣くんのこと」

「ウソジャナイヨ。違う……違うもん……」


 あれ? じゃ、ウチの勘違いだったのかな?


「空き巣くんは、学校でよく見るの?」

「んーん。全然。むこうはあたしを知ってたみたいだけどねー」


 ふむふむ。やっぱり春ちゃんからすれば、初対面みたいなものなのか。


 春ちゃんの学校とウチが通っている学校は遠いから、確かめようがないな……。


 キスは……ウチの見間違いだった、とか……?

 テンパってたから、そう見えちゃったのか?


「夏海も彼氏作んなよ。楽しいよー? 毎日が」


 つまらなさそうに春ちゃんは言って、ごろん、とソファに横になり携帯を触りはじめた。


 さっきまでシャキシャキしてたのに、怠け者の猫みたいにだる~んってなった。


 あの空き巣くん、何者なんだろう……?


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