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秘密の筆談


 翌日。

 俺はさっそく、午前中の逢引を行使しした。


 逢引っていっても、ただ俺が職員室に柊木ちゃんに会いにいくっていうだけのことだ。

 中に入って柊木ちゃんのデスクを見ると、そこに姿はなかった。


 おかしいな。いつ会いにいくとは言っていなかったから、空席なのも仕方ないのか?


「わ!」

「ぬわっ!?」


 びっくりした……。後ろを振り返るとマイエンジェル柊木ちゃんがいた。

 授業帰りのようで、手には世界史の教科書と資料集を持っている。


 先生というよりは、二四歳の女子って感じのいたずらっぽい笑顔をしている。


 ……くそ、可愛い。


「驚いた?」

「はい、そりゃもう」

「『わからないところ』があるの?」

「えっと、そんなところです」


 入って入って、と自分の部屋に入れるみたいに言って、柊木ちゃんは自分のデスクのそばに俺を座らせる。

 世界史の教科書を開いて、個人授業を開始した。


「21pのところは――」


 適当に教科書をなぞって説明しながら、手元のプリントの裏に何か書いている。


『ドキドキするね』


 こら。二四歳。昼間の職員室で何ドキドキしてんだ。抱きしめるぞ。


「ああ、なるほど」


 俺も適当に相槌を打って、メモを取るフリをして返信する。


『今日はスカートなんですね』

「横文字だから、地名や人物名って覚えにくいけど――」


 口では真面目に教科書を説明する柊木ちゃんは、ボールペンで別の文章を書く。


『似合ってる?』

『可愛いです』

「もう、ちょっと、そういうのズルいってば……」


 小声でぼそっと言って、本気で照れる柊木ちゃんは口元をゆるめた。

 俺の腕を軽く小突く。


「また不意打ちして……もお」


 冗談ぽく怒ってみせて、下の引き出しから饅頭を出した。


「また饅頭出てきた!?」

「え。好きじゃなかった? 昨日、嬉しそうにしてたから、買ったんだけど……」

「いえ。好きですよ」

「よかった」


 柊木ちゃん、俺を甘やかす気満々だ。この調子じゃ、また明日も饅頭が出てくるぞ。


 むかいのデスクにいる先生が俺たちをじっと見ていた。


「えっと……坂井先生もいかがですか?」


 柊木ちゃんが、俺の担任、坂井にも饅頭を差し出した。


「すみません。ありがとうございます」


 数学担当で、黒縁眼鏡をかけた三〇代後半くらいの男性教師だ。


「真田もお礼言っておけよ? 饅頭も個人的な授業のことも」

「うーす」

「ねえ、柊木先生。こんな美人教師に教えてもらえる機会なんて滅多にないんだから」


 あ、あはは、と柊木ちゃんはオッサン特有のお世辞とご機嫌取りに、愛想笑いを浮かべた。


『坂井のこと苦手でしょ?』

『あ、バレちゃった?』


 目が笑ってる柊木ちゃんは、口だけの嘘授業を再開した。

 するり、と柊木ちゃんが、膝の上にあった俺の手に手を重ねた。


 こら。二四歳。何職員室でこっそり生徒の手を握ってんだ。抱きしめるぞ。


 俺も手のひらを上にむけて、握り返す。


『ドキドキするね』


 いけないことをしているドキドキとバレるかもしれないドキドキ。

 あと、好きな人と手をつないでいるドキドキ。


 色々混ざりすぎて頭の処理が追いつかない。


「顔、赤いよ?」


 くすっと小悪魔みたいに笑って俺をからかう柊木ちゃん。

 自分もちょっと赤いくせに!!


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