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翌朝の一幕


 翌朝。

 図らずもお泊りすることになってしまった俺は、柊木ちゃんがせっせと作ってくれた朝食をダイニングでいただいていた。

 トーストとサラダ、あとは目玉焼きという簡単なものだった。


「誠治君、コーヒー淹れるけど砂糖とミルクどうする?」

「無くていいよ。俺ブラックで飲むから」


 会社もブラックだったからそれに慣れちゃってね。

 なんつって。……全然面白くもねえ。


「大人だね、誠治君」

「そう?」

「そうだよ」


 コーヒーを運んできた柊木ちゃんは反対側に座って、俺が食べているところを楽しそうに見ている。

 頬杖をついているせいか、ゆるんだ首元から見える鎖骨がセクシー。


 穏やかな朝って感じでとてもいい。


「高校生っぽくないよね、誠治君。落ち着いているし」

「そ…………そ、そうですかねえ」


 そりゃそうだ。中身は十歳も年食ったアラサーなんだから。


「年下なのに頼りになるから、キュンってなるの。たまに。ギャップ萌えってやつ」


 実際、俺の中身より柊木ちゃんのほうが年下だから、頼りになるように見えるんだろう。


「先生は、酔っぱらうと甘えん坊になるよね」

「先生じゃなくて春香さんでしょー?」


 もう、と怒ったフリをしてみせる柊木ちゃん。ポンコツ化は解除されたらしい。


「昨日の夜はゴメンね。あたし、何か変なこと言った……? 記憶にある限りでは大丈夫だと思うんだけど」

「うん、大丈夫だよ。ただ、紗菜のことを俺に訊いてたかな。どうしてそんなことが気になるの?」

「あ……」


 何かを思い出すようにして、一度柊木ちゃんは口をつぐんだ。


「……誠治君は、禁忌に惹かれる性質があるってわけじゃないよね? たとえば、先生と生徒は恋愛禁止でしょ? やっちゃダメって入われると余計にやりたくなるっていうか」


「そんな性質ないよ。そうだったら俺は、年頃の女性教師は全員恋愛対象ってことになるでしょ? 俺は春香さんだから好きになったんだよ」


「もっ、もおおおおお、誠治君はすぐそういうこと言ううううううううう!」


 頬を染めながら、ぺしぺし、とテーブルを叩く柊木ちゃんは、かなり嬉しそうだった。


「そういうところあるよね、誠治君は! もう、イタリア人かって感じっ。イタリア人見たことないけどなんとなくっ。もう、キスする」

「はあ」


 ちゅ、と無理やり唇を奪われた。


「おっぱい揉む?」

「揉まねえよ。何の流れだよ」

「ご褒美的な。あれ、ご褒美にならなかった?」


 くっ……なるよ!


 いかん。このままじゃ、朝っぱらから揉むか揉まないかの話になる。

 話を戻そう。

 落ち着くために、コーヒーをひと口飲む。


「……で、禁忌がどうしたの?」

「ううん。禁忌が好きかどうかの確認。好きだったのは、禁忌じゃなくって……あ、あたしが、好きだったんだよね」


 恥ずかしそうに言って、テーブルの下で脚を絡ませてくる。


「そういうこと」

「じゃあ…………たとえば……紗菜ちゃんが、本気で告白してきたらどうする?」

「紗菜が? ないない。あり得ない」

「う~。たとえ話だから。どうする?」

「どうするって、色んな理由があるから断るよ。春香さんと付き合ってるし、あいつ妹だし、貧乳だし、一人称自分の名前だし」


「最後のやつ関係あるの!?」

「それがどうかした?」


「え……? いや…………。紗菜ちゃん、彼氏いないのかなって思って」


 紗菜に彼氏……そういや、現代でも一度として聞いたことがない。

 紗菜が誰かと付き合っている、付き合っていた、なんて話。


「紗菜ちゃん、告白くらいされるでしょ?」

「らしいけど、全部断ってるって。たまに俺が代理で返事させられるくらいだし」

「あちゃー。じゃあ重傷だ……もう重傷っていうか致命傷かも……」


「何が?」

「女の影がお兄ちゃんに見え隠れしはじめたから、紗菜ちゃんは自分の気持ちを理解したって感じなのかな……?」

「? だから何が?」


「おたくの妹さんは、致命的なブラコンってこと」

「紗菜が?」


 柊木ちゃんからするとそう見えるらしいけど、俺にはどうしてそうなるのか全然わからない。


「あ、あとこれ。誠治君にプレゼント」


 柊木ちゃんは、俺の手をぎゅっと握って、手のひらに固い何かを押しつける。

 見てみると、鍵だった。


「ウチの合鍵。好きなときに来ていいからね」

「これが噂の、『恋人から家の合鍵渡されるイベント』か……フィクションの話じゃないんだ」


 俺が感激している間、柊木ちゃんは食べ終わった食器を片付けてくれた。


 今日は何をするか、という話になり、ちょうど柊木ちゃんが借りてきていたDVDを観ることになった。

 恋愛映画と、半年くらい前に話題になったアクション映画。


 午前と午後に一本ずつ観ることになり、俺たちはまったりと家デートを楽しんだ。


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