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47-2. エピローグ SIDE 勇者

 異相境界を抜け元の世界に戻ると、金城さんがオレのもつ魔石を確認したあと、すぐに装置を停止させて異相境界を閉じた。

 消えていく異相境界を見ながら、これで魔物の被害がなくなると思うと感慨深いものがあった。

 

 あれから、1年の歳月がたった。

 都心部の復興は着々と進み、放棄された地区を順に立て直していった。

 寸断されていた交通網も復活し、人や物の行き来も活発となり、以前と同じとはいかないまでも、にぎやかさを取り戻していた。


 マナ欠乏症にかかった人々に対しては、金城さん主導の下、人工の魔石とでもいうべきマナの容器を開発した。榎本の魔石に残っていた大量のマナを人工魔石に移すことで、不足したマナを摂取するための特効薬の開発に成功した。

 開発には紬も参加し、自身に残っていた大量のマナを使うことで開発がスムーズに進んだそうだ。

 開発した特効薬によって、マナ欠乏症の患者数は減っていき、これで魔物による被害の爪痕もなくなると思えた。

 

 魔物の発生がなくなった世界でギルド局のあり方も変化を遂げ、いまでは能力の使用方法の指導や、魔石の管理を行うようになった。

 世界でも魔石への認識は危険なものであるものとして、回収し廃棄することが国連で決議された。


 開発した特効薬と引き換えに、日本が中心となって各国が保有していた魔石の回収を行っていった。

 しかし、全ての魔石を素直に引き渡した国は少なく、多くの国は未知のエネルギーを秘める魔石を手放そうとせず、隠しもっているものが多数いた。


 魔物発生の原因となる魔石を保有することは、自らのうちに毒を抱え込むのと同様であるが、それでも使おうとするのは人間の業なのかとため息が出る思いだった。

 

 そして、現在オレは、アメリカのとある研究施設に忍び込んでいる。


 『こちら結城、現在第二区画まで進んだ』


 『その先を進んだ実験室に大きなマナの反応あり。実験室にむかわれたし』


 『了解』


 無線越しに聞こえる声は未成熟な女子のものだったが、指示は的確でこの声に幾度も助けられてきた。

 

 日本以外にも回収任務にでることが増えて、保有する能力《千里眼》を生かして紬が回収部隊の指揮をとるようになった。

 

 指示に従いまっすぐ通路をすすんでいくと、分厚い扉の前に銃を構えた警備員二人が立っているのが見えた。

 オレは腰にさげていた金城さん特製の閃光手榴弾をとりだし、警備員たちの前に転がした。


 あふれだした光に目を焼かれた警備員たちは目をおさえながら、銃口を適当な方向に向けていた。


 オレはすばやくかけより、片方の腹をなぐり、ぎょっとした顔のもうひとりの顎をなぐりつけて昏倒させた。

 倒れた二人をしばりあげて無力化させたあと、物陰に隠しておいた。


 扉の横のタッチパッドに暗証キーを打ち込み認証音の後、分厚い扉が横にスライドし扉が開いた。

 慎重に様子をうかがいながら、部屋の中に足を踏み入れた。

 実験室の中には鎖につなげられた魔物が何体も檻の中にいれられていた。そして、同じ部屋にボロをまとった少年や少女が檻のなかに閉じ込められていた。


「ちっ、胸糞わりいな」


 事前に得ていた情報によると、売り飛ばされた子供に魔石をあたえて魔物化させる実験をしているときいていた。

 実際に、おびえた表情の子供たちをみると胸がむかむかしてきた。

 オレは無線で目的の物の報告を行った。


 『魔物の存在を確認。これらを証拠として持ち帰る』


 『了解。すぐに帰投されたし。待って、実験室に3人がちかづいてきている。やり過ごして』


 入手していた情報では、警備員の交代時間には早いはずだし、おそらく研究員がきたのだろう。


 部屋のなかにあるテーブルの陰に隠れて、入ってくるであろう人間を待った。

 やがて、扉がひらき警備員二人にはさまれた白衣姿の男が入ってきた。


「どういうことだ、なぜ警備員がいない!!」


「はっ!! 現在確認に向かわせています」


「しっかりしてくれ。ここのことがばれたらまずいことになるのだから」


 男は神経質そうに眼鏡のつるを抑えながら、警備員の男に話していた。


「今日の実験は披験体056を使用する。連れて来い」


 男があごで合図すると、警備員の一人が子供たちが入っていた檻にむかっていった。


「やめろ!! 先にオレをつれていけ」


 檻の鍵をあけて子供を連れて行こうとしたところで、中にいた年長の男の子が、警備員の前に他の子をかばうように立ちはだかった。


「うるさい、どけっ」


「ぐっ」


「お兄ちゃん!! やめてよぉ」


 警備員は裏拳で男の子を殴り飛ばして、奥にいた小さい女の子の腕をつかんで無理矢理ひきづっていった。


「くそっ、返せよ!!」


 殴られた男の子は再び閉められた檻の扉をガシャガシャといわせながら、警備員にむかって叫んでいた。


「ん~、返してやるさ。あんな風に、ちょっと姿形は変わるだろうけどなぁ」


 白衣姿の男は、檻に入っている魔物を指さしながら嘲けりの笑みを浮かべていた。


「本部が早く成果を提出しろってうるさいからな。次の実験でだいたいのデータがそろうはずだから、さっさと取り掛かるぞ」


 男たちは絶望を顔にうかべる少女をつれていき、部屋からでていった。

 扉が閉まり警備員たちがいなくなったのを確認してから、オレは立ち上がった。


「くそっ、くそっ」


 子供たちが入っていた檻にちかづくと、さっきの男の子が悔しげに顔をゆがめていた。


「おい」


 オレが声をかけると、ハッとしたように顔をあげてこちらをみた。


「なんだよ、おまえもあいつらの仲間か?」


「ちげーよ、あいつらなにしに女の子をつれていったんだ」


 男の子は警戒を強めながら俺をにらみつけてきた。


「得体の知れないやつに、なんで教えなきゃならないんだ」


「あっそ。まあ、オレとしてはおまえらがどうなろうとしっちゃこっちゃねえ。これからひと暴れするから、お前らは勝手に逃げろ」


 オレは背中に背負っていた六角棒を持ち上げて、檻にたたきつけた。

 鉄でできた檻の格子は焼き菓子のように、バキバキと折れて、原型をとどめていなかった。

 その様子を、なかにいた子供たちはポカンと口をあけながら驚いていた。


「じゃーな」


「ちょ、ちょっと、まってくれ」


「んだよ、オレはいそがしいんだよ」


 男の子はオレにすがりつくように話しかけてきた。


「さっきつれていかれたのは、オレの妹なんだ。この部屋からつれていかれたヤツは、みんな魔物になって戻ってくる。助けてやってくれ!!」


「妹ね……」


 オレの脳裏に、いまは異世界にいる妹の姿がちらついた。


「連れてきてやるから、お前らはさっさとこの建物から逃げろ。入口の近くにオレの仲間がいるはずだから、声をかけろ」


「で、でも、オレも一緒に…… いや、わかった。絶対助けてくれよ、にーちゃん」


 男の子は着いてきたそうにしていたが、自分の立場を理解したように逃げることを選んだ。


(けっ、ガキのくせに、自分のなすべきことをわかっているなんて、オレよりよっぽど頭いいじゃねえか)


 かつての何も考えずに無鉄砲に動き回っていた自分を思い出して、恥ずかしい気分になった。

 

 扉を開けて、子供たちは出口方向に走っていき、オレは建物の奥にすすんでいった。

 歩きながら無線で連絡をとった。


『緊急事態だ。人命保護のために、これからヤツらに攻撃をしかける』


『なんとなくこうなることはわかっていたので、すでに応援を向かわせています』


『う、助かる。それとガキたちが、そっちにいくと思うから保護してやってくれ』


『了解』


 無線をきると、アイツには全部お見通しかと苦笑がうかんだ。


 通路を奥にすすんでいくと、警備員の人数が増えてきた。このまま見つからずに進むのは難しそうだったので、突っ込むことにした。


「上等だ。いくぜ、おらぁ!!」


 突っ込んできたオレの姿を見つけた警備員は、仲間たちに声をかけて、すぐにこちらに銃口を向けてきた。


「侵入者だ!! 迎え撃て」


「ははっ、鬼のおっさん力かりるぜぇ」


 手に持った《ジェネレーター》を起動すると、両手の筋肉が肥大し、表皮が炭のような黒い色に変化した。

 両手で体をかばうように進むと、腕にあたった銃弾は腕ではじかれた。

 銃弾がきかず焦る警備員たちのもとにたどり着くと、両手でなぐりとばし静かにさせた。


 通路を奥に進んでいくと、扉の上に赤ランプが点灯している部屋の前に到着した。


「ここか…… よっこいしょぉーっと」


 固く閉じられた扉の前にたつと、六角棒を両手で構えて全力でたたきつけた。


 『ドガァァン』


 大きな音をたてながら扉は吹っ飛び、部屋のなかにすっとんでいって壁にあたってようやく止まった。


「なんだ、貴様は!!」


 部屋の中には、さきほどみかけた白衣姿の男が目を見開きながらこちらをみていた。

 部屋は手術室のようになっていて、ベッドの上にはつれていかれた女の子が寝ていた。


「オレはギルドの勇者だ」


「そうか、ギルドの連中か。各地の実験施設に現れては魔石奪っていくというウワサを聞いてはいたが、ここにくるとはな、くそっ」


 男は悔しげに口元をゆがめると、奥の扉にむかって逃げていった。


「とりあえず、この子助けるか」


 ベッドに縛り付けられた女の子の拘束を解いたが、どうやら麻酔で眠らされているようで、おきそうもなかった。

 男を追うべきか悩んでいるところに、部屋の中に入ってきたやつがいた。


「まーた、アンタは!! 勝手につっこんでじゃないわよ」


 目をつりあげながら怒鳴り声を上げているのは赤井だった。


「お、ちょうどいいところに、こいつ預かっててくれ。オレは逃げたやつ追っかけるからよ」


「は? え、ちょっと」


「たのんだぞー」


 戸惑う赤井に女の子を押し付けると、男が逃げた扉に向かって走っていった。


 扉を押し開けた先に通路をすすんでいくと、やがて巨大な部屋にでた。体育館なみの広さがあり、部屋の壁に縛り付けられた巨大な異形の姿が見えた。

 さまざまな魔物をむりやりつなぎ合わせたような姿をしていて、見ているだけで嫌悪感をもよおす外見をしていた。


「ちっ、もうきたのか。まあいい、キメラ、こいつを殺せ!!」


 男は魔物の拘束を解除し、オレを指差しながら魔物に指示を出した。

 魔物はゆっくりと体を起こすと、オレにむかってきた。


「ちっ、おもったより早いな」


 振り下ろしてきた丸太のように太い腕を、六角棒で受け流し距離をとった。


「この合成魔物“キメラ”はな、制御不能だった魔物をバラバラにして再びつなぎあわせることで、こちらの指示にしたがうように改良した魔物だ」


 男は自慢げに魔物を見ながら語りだした。


「さらに、様々な魔物のパーツをつかうことで、より強い魔物にすることができた。貴様ら勇者などものの数ではないわ!!」


 魔物のベースとなっているのはオーガのようだが、明らかにオーガよりも力や素早さという点で勝っているように見えた。


 男の指示をうけたキメラがオレを捕まえようと、両手を大きく広げながらドスドスと足音を立てながらむかってきた。

 しかし、キメラの手は空を切り、その中には何も残っていなかった。


「こっちだ」


 キメラはオレの姿を見失いキョロキョロとあたりを見回していた。その背中でオレは六角棒を振り上げていた。


「ダラアァァァ!!」


 六角棒が頭頂部振り下ろされ、あとには頭のない体だけが残っていた。


「な、な、なあ!? 一撃だと!!」


 倒れたキメラをみながら男は驚愕の声を上げていた。


「こちとら、何体も魔物とたたかってきたんだ。多少能力を底上げした程度のやつにまけるかよ」


「くそっ、能力者の力を見くびっていたか。おいっ、披験体053を連れて来い」


「しかし、アレはいまだに制御不能、拘束を解き放てば我々とてタダでは済みません」


「いいからっ、はやくやれ!! こいつらをどうにかしなければ我々は身の破滅しかないのだぞ」


 男は近くにいた警備員に声を荒げながら指示を飛ばしていた。

 警備員は奥にみえる頑丈な鉄製の扉で封印された部屋にむかっていった。


「おい、妙なマネをするんじゃねえぞ」


 オレが男に声をかけて止めようとしたとき、奥の部屋にむかっていった警備員が扉を吹き飛ばしながら部屋からでてきた。


「なんだぁ!?」


 奥の部屋を警戒しながら見つめていると、そこからでてきたのは人間の女の子だった。

 茶色い巻き毛にソバカスのちった顔をした十代後半ぐらいのどこにでもいそうな女の子だったが、その目はにごった赤い色をしていた。


「はははっ、こいつはな、ただの魔物じゃないぞ。魔石を埋め込むと通常の人間だったら魔物化するが、能力者に埋め込んだ結果、人間の姿をたもったまま魔物の能力を得ることができた」


 白衣の男は自らの成果を自慢するように語りだした。


「しかし、難点はキメラのように制御がきかず。周囲の人間をみさかいなく襲いだすことだ。まあ、今は貴様を殺すように仕向ければすむことだ」


 男はオレを盾にするように少女から走って逃げようとした。

 しかし、次の瞬間、少女の口から何かがとびだし、男の体を絡め取った。


「ひぃっ!?」


「これは、糸?」


 男に絡みついた物を極細の白い糸だった。しかし、その強度は男が逃げようともがいても、まったく千切れそうもないほどだった。


「くそっ」


 男に絡みついた糸に手をかけて、全力でひっぱるとようやくプツンと切れた。


「な、なぜ助ける?」


 男はオレを驚いた目でみていたが、返事をしている暇はなかった。

 少女は、糸がきれたことが気に食わなかったようで、ギラギラと殺意の染まった視線をぶつけてきた。


(これは、葉月のときと一緒か。あいつは途中で正気にもどったが、こいつももどせるかわかんねえな)


 少女をこのまま叩き潰していいか迷っていると、目の前で少女の姿が突如消えた。


「はあっ!? どこへ行った」


 目をそらしたわけでもなく、素早い動きで目の前から移動したわけでもないようだった。


「ふふ、やつが人間のときにもっていた能力は《隠遁》だ。さらに、埋め込んだ蜘蛛の魔石の力によって壁や天井から立体的に突然おそってくる。貴様の国にいるジャパニーズニンジャってやつだな」


「やっかいなことしやがって、それでてめえが襲われていれば世話ねえだろうが」


 男は窮地に立っているというのに、満足そうな顔をしていた。これだから、学者バカってやつは始末におえない。


 耳をすますと、時折ガサガサとなにかが這う音がきこえてきていた。だが、音はすれども姿は見えずどこから襲ってくるかわからなかった。

 やがて、背後から何かが飛来してくる気配がして、とっさに腕を前にかざしてガードした。


 腕に糸が絡みつき、その先には口から糸を伸ばした少女が立っていた。

 ちぎろうと力をこめるが、さらに糸を吐きかけ拘束は強固なものとなった。


 ずるずると引き寄せられ、背中から生えた8本の蜘蛛の足をオレに突き立てようとこちらに向けて構えていた。

 足の先端には鋭い爪を持ち、毒をもっている可能性もあり、このまま捕まれば命はないだろう。


「燃えろ!!」


 声の後に、糸は炎につつまれ一気に燃え尽き、拘束が解けた。


「うあっちぃ」


 炎はオレの手に絡まっていた糸にもひろがり、その熱さに顔をしかめた。


「感謝しなさいよ。やけどだけですんだのだから」


 そこには自慢げに胸をはる赤井がいた。


「あー、はいはい。助かった助かった」


「なによ、その投げやりな感謝の仕方は」


「親しき仲にも礼儀あり、お礼はキチンとするのが信頼につながるのです」

 たしなめる口調で話しかけてきたのは紬だった。


「なんで、紬まできてるんだ?」


「状況を確認して、お困りのようにでしたので」


 紬の言うとおりどうするか困っていたが、見透かされているようでどこか釈然としなかった。


「んで、あいつどうにかできねえか?」


 現れた二人に警戒するようにじっとこちらをみる少女を指差した。

 紬は観察するように少女に目をむけると


「元の魔石は無事なようですし、異界のマナだけ抜き取れば大丈夫でしょう」


「おし、それじゃあ、俺たちで抑えておくから、その間に頼むな」


 赤井に目配せすると、少女のほうに向きなおした。


「消えた!?」


 目の前で姿をけしたことに赤井が驚きの声をあげた。


「あいつは元は能力者らしくてな。姿を消す能力だそうだ」


「なるほどね。だったら」


 赤井の言葉のあと、急激に室内の温度があがってきた。空気がむわっとし、陽炎が立ち始めた。


「そこよ!!」


 陽炎に違和感を感じる場所があり、少女がそこにいるようだ。

 オレがまっすぐに向かっていくと、自分の居場所がばれていることを悟ったのか姿を現した。


『ギシャアアアァァ』


 鳴き声をあげながらオレを迎え撃ってきた。

 少女は背中から生えた足で攻撃を次々に仕掛けながら、時折糸を吐き出してきた。

 だが、その攻撃もだんだんと緩くなっていき、やがて地面に膝をついて動かなくなった。


「ふう、無事に全部抜き取り終わりました」


 背後から声がして振り向くと、赤い魔石を手に持った紬がこちらに近づいてきているのが見えた。

 少女の目はもとの青い色にもどり、背中に生えていた蜘蛛の足もぼとりと抜け落ち、また襲ってくることはなかった。

 

 その後、研究員の男から施設内にあった魔石の保管場所を聞き取り、すべて回収した。

 檻に入れられていた魔物たちはもう元の人間に戻すことができないため、苦しまないようにトドメをさして魔石を摘出した。

 

 研究所から出てくると、脱出した子供たちが待機していたギルド員たちと一緒にいるのを見つけた。

 例の男の子がオレの姿に気づいたようで、笑顔で近づいてきた。


「あ、にーちゃん、おかげで妹が無事だったよ。ありがとな」


「そいつはよかった」


 男の子の後ろで、女の子が不安そうな顔で兄の服の裾をつかみながらこちらを見ていた。


「ありがとう…」


「ああ、仲良くやれよ」


 女の子の頭をくしゃっとなでて、その場を離れた。

 

「ずいぶんと子供の扱いになれているのですね」


 さきほどのやりとりをみていたのか、紬が微笑みながら話しかけてきた。

 紬の体は再構成されて年恰好は中学生なのに、オレより年上らしく、いまだにこのギャップになれないでいる。


「あー、まあな。年の離れた妹がいたからな」


「葉月さんのことですか。そういえば、そろそろ定期連絡の時期ですね」


「そうだな。だいぶ魔石も回収できたし、あいつも喜ぶかな」


 葉月とは両方の世界で回収した魔石の交換を定期的に行っていた。


「んじゃ、日本に帰るか」


「ええ、2ヶ月ぶりですね」


 1週間後、飛行機を乗りつぎ、日本に到着した。

 ひさしぶりにみるギルド局の建物は2ヶ月ぶりだというのに、特になつかしさを感じることもなく、まるで実家に帰ってきた感じだった。


「よう、結城。帰ったか」


 中にはいったオレに気づいた敷島隊長が声をかけてきた。


「どもッス、隊長。昨日日本に戻ったところです。どうですか、新人教育のほうは?」


「あー、まあぼちぼちだな。おまえらのように個性の強いヤツラもいなくてスムーズだよ。というか、オレはもうお前らの隊長じゃないだろ」


 敷島隊長は、ギルド局の職員として能力者への教育を行っていて、現場から離れている。


「すいません、ついクセで。それじゃあ、神埼局長に挨拶してきます」


 敷島隊長に挨拶をしてから局長室に向かった。


「失礼します」


 ドアをノックしてから入ると、そこには机に向かって書類をチェックしている局長の姿があった。


「やあ、がんばってるようだねぇ。魔石も順調にあつまってるそうじゃないか」


 顔を上げて俺の方をみると、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら話しかけてきた。


「いえ、まだまだ全体の量からかんがえると微々たるものです」


「がんばるねぇ、まあ、キミのおかげで色々と情報も集まってきてくれて私もうれしいよ」


 榎本の騒動のあと、自衛隊の幕僚長の弱みを握っていろいろと暗躍しているらしい。

 あまり関わりになりたくない世界だったが、局長は嬉々として働いている。


 局長室を辞した後、今日の目的の場所である研究室のむかった。

 中にはいると金城さんが回収してきた魔石を箱の中に詰めていた。


「結構あつめてきたわね」


「オレも手伝います」


 オレも金城さんを手伝い箱の中に魔石を詰めていると、紬が扉を開けて中に入ってきた。


「お疲れ様です。準備手伝いますよ」


「大丈夫、ちょうど終わったところよ。結城君、箱をその上に運んでちょうだい」


 金城さんが指差す方向には、床の上に奇妙な紋様が描かれていた。

 床に描かれている紋様が、葉月への目印となっていて、ここが受け渡し地点となっていた。


 箱を紋様の中央に置くと、紬が近くに立って目を閉じながら念じ始めた。

 やがて、箱を包み込むように空間のゆらぎが生まれ、その姿を消した。


「無事に向こうに着いたそうです」


 紬がホッとした顔をしながら言ってきた。

 紬がもつ能力《千里眼》と《念話》をつかって、向こうの世界にいる葉月との連絡をとり、葉月に受け取ってもらっている。

 同時に、葉月とコミュニケーションをできる唯一の機会でもあった。


「なあ、葉月なんかいってなかったか?」


「いいえ特に、向こうで元気にやっているそうですよ」


「そ、そうか、それならいいんだ。うん」


「ふふっ、兄妹そろって同じこと聞いてますね。葉月さんも同じように亮介さんのこと聞いてきましたよ」


 紬は口元を隠しながらころころと笑っていた。

 

 前は一緒にいたのに葉月のことはまるでわからなかった。今は世界を隔てているのに、葉月のやりたいことを知っていて、一緒にがんばっていけている。

 相手の姿を直接目にできていなくても、どこかでつながりを持てているということに、安心感のような信頼感のようななんともいえない感情で心を満たされていた。

 

 そんなことをつらつらと考えていると、オレの顔をじっと紬が見ているのに気づいた。


「どうした?」


「亮介さん、いまとてもいい顔で笑っていましたよ」


 以前のような追い詰められたような感じはなくなり、余裕が出てきたのかもしれない。こんな生き方もできたんだといまさらながら気づかされた。


 後で両親の墓に行って、葉月の無事と自分のことを報告してこようと思った。いままでは、どこか後ろめたくおもっていたが、いまなら大丈夫そうだと思えた。


これで完結です。ここまで読んでくださった方ありがとうございました。

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