19. 蹂躙
オレたちは一旦とまり周囲をみわたすと、巨大な影がいやが応にも目に付いた。
「なんだありゃ!?」
赤い鱗に覆われた小山のような巨大な体を、丸太のような太さの四肢で支えてあたりを睥睨していた。体を起き上がらせると、一対のこうもりのような翼を大きく広げ、その魔物は空に向かって咆哮をあげた。
空気中がびりびりと震える中、敷島隊長が顔を青ざめさせながらつぶやいた
「あれは、ドラゴンだ…… まずいぞ、すぐに小隊02の応援に向かう!!」
焦った口調で敷島隊長が走り出し、オレたちは後ろに続いた。
走りながらおっさんがオレに話しかけてきた。
「なあ、ドラゴンってそんなにやばいもんなのか?」
「オレも戦ったことないが、敷島隊長が前に戦ったときはギルドの総力で当たっても勝てなかったらしい」
「んじゃあ、どうやって倒したってんだ」
「ドラゴンにミサイルを数十発叩き込んでようやく倒せたらしい」
そういえば、そのときドラゴンへの対処法をきいたが、なにも考えずとにかく逃げろといわれた。
小隊02にいる場所まで合流すると、ドラゴンの姿をみた人々が恐慌状態におちいり、我先にと走っていた。
「敷島!! きたか」
小隊02隊長の風間さんがこちらをみつけて駆け寄ってきた。
「風間、無事か」
「ああ、なんとかな。だけど、問題はあいつだ。こっちに気づかれる前に退避を終わらせるたい」
風間さんが顔をこわばらせながらドラゴンをみていた。
だが、その願いもむなしく、ドラゴンのにごった赤い色の瞳が慌しく逃げ惑う人々をとらえた。
ドラゴンが翼をはばたかせはじめた。そのたびに周囲に突風が荒れ狂い、かがんで身を低くし何とか倒れないように踏ん張った。
そして、ドラゴンが足をたわませてから勢いよく上空に飛び上がった。
「総員、あのデカブツを撃て!!」
自衛隊員たちが魔銃をドラゴンに向けて、一斉射撃をくわえた。
しかし、銃弾は表皮にすべてはじかれかすり傷ひとつおっていなかった。
「ば、ばかな」
ドラゴンは上空からこちらを見下ろすと、大きく口を開けた。
「全員、建物の陰に隠れろぉ!!」
敷島隊長の絶叫があたりに響いた。
そして、ドラゴンの口から巨大な炎の塊がこちらに向けて飛んできた。
オレはとっさに近くの路地裏に飛び込み、地面に身を伏せた。
次の瞬間、ドンという衝撃音の後に熱気があたりを覆いつくしたのを背中ごしに感じた。
「ぐうぅぅぅぅ」
熱気が顔の表面をチリチリと焼くのを感じながら、熱気が収まるまで耐えた。
そして、立ち上がり周囲を見回した。
家屋は燃えカスとなり、鉄筋コンクリートのビルだけがのこっていたが、それも半ばからへしおれていた。
まるで爆心地のようにあたりの景色が変わっていた。
「なん、だってんだよ……」
当たりは煙が立ちこめパチパチと燃える音と、何かが倒壊する音を聞きながら、無事な人間がいないか探した。
「結城、無事だったか」
煤にまみれた敷島隊長がこちらに近づいてくるのがみえた。
「隊長、ほかのみんなは……」
「わからん」
敷島隊長は苦しそうな顔をしながら首を横に振った。
上空ではドラゴンが旋回しながら周囲を見回していた。
「いまは、市民の避難が優先だ。いそぐぞ」
「くっっ、はい……」
逃げていた住人たちがいたあたりにいったが、そこもひどい有様だった。
列の後ろのほうにいて炎の余波をうけた人は、顔の判別もつかないような消し炭のようになっていた。そのほかにも衝撃によってふきとばされて、うめき声をあげながら転がっている人が大勢いた。
「ううう…いたい、いたいよぉ」
「うちの子供はどこ?」
「死にたくない、もういやだ」
転がっている人たちを助け起こし、動けないものを背負って移動を始めた。
しかし、ドラゴンが逃げる人々の列をみつけたようで、翼をはばたかせながら、こちらに首をもたげた。
そして、進路を大きく変えると、こちらに向かって急降下してきた。後ろ足を前にしながら、周囲のたてものを破砕しながら突っ込んできた。
突っ込んでくるドラゴンをみながら、人々が我先にと必死の形相で逃げようとするが、突っ込んでくる速度にかなうはずもなく、足の爪によって蹂躙されそうになった。
「盾よ、防げ!!」
そこに、ドラゴンの進行方向をふさぐように巨大な鉄の盾が出現した。
「ぐううぅ、くそったれがあああ!!」
盾をささえるように鬼のおっさんが両手で盾を後ろから抑えていた。
バキンという音をたてながら、爪のあたった部分から盾が抉り取られ、支えきれずに鬼のおっさんが盾ごと吹っ飛ばされた。
「はぁ、はぁ、はぁ、さすがにきっついぜ」
吹き飛ばされた鬼のオッサンが、荒い息を上げながら立ち上がった。
「オッサン、生きてたのか」
「ああ、とっさに隆二が盾を張って炎を防いでくれたからな。柊ともうひとりの子も助けといたぜ」
そう指差すと、遅れて柊さんと赤井が走ってくるのがみえた。
そこに横から声をかけてくるものがいた。
「ようよう、オレたちもいきてるぜ」
そういいながら歩いてきたのは、着ている服がところどころ焦げている小隊02のメンバーだった。
風間さんの能力で自分たちを周りに、暴風を発生させることで炎を何とか防いだそうだ。
住民のうちで重症をおったひとを柊さんが治していき、他のけが人の手当てをしていった。
ドラゴンは様子をうかがうように上空で旋回を繰り返していた。
「さて、あいつどうする、このまま上空から炎吐かれてたらどうしようもないぜ」
鬼のオッサンが疑問をだしたが、誰にも答えることができなかった。
そこに急に横から声をかけられた。
「ずいぶんと大変な状況みたいだな」
「金剛!? なんでおまえらがここにいるんだ」
そこには小隊01のメンバーが立っていて、敷島隊長が驚きの声をあげていた。
「ああ、俺たちの担当方面の住人避難が完了したからな。あとは自衛隊の連中にまかせてきた」
「いや、それにしても到着がはやすぎないか」
避難区域は10km四方に広がっていたため、車をつかっても30分以上かかるはずだ。
「それなら、彼女に助けてもらった」
そういって、指差した方向には、ローブのようなだぶだぶの服を着てフードを深く被った小柄な姿が立っていた。
「おまえは!? フード野郎」
「………」
どうやら、あいつの能力でここまで渡ってきたようだ。
「お、嬢ちゃんアッチの方は片付いたみてえだな」
フード野郎にむけて鬼のオッサンが親しげに声をかけたので、いぶかしげに視線を送った。
「オレたちも、お前たちのところまで嬢ちゃんに送ってもらったんだよ。嬢ちゃん大丈夫だったか? あっちの方はかなりの数の魔物がいたみてえだけど」
「……だいじょうぶ、全部たおした」
オッサンの言葉をきいて、フード野郎はコクリとうなずいた。
「ひとまず、ここから住人たちを避難させるのが先決だ。すまんが、また移動をたのめるか」
「……わかった」
金剛さんがフード野郎に頼むと、住人たちのほうに進んでいき、空中にむけて手のひらをむけた。
「……開け」
フード野郎がつぶやくと、空中に空間の揺らぎができた。
「ここをくぐれば、遠くまで一気に移動できる。急いで住民たちをこっちに連れてくるんだ」
「了解しました。みなさん、列になってひとりずつ入ってください」
金剛さんの説明をきき、警官たちが空間のゆらぎの前に住民たちを誘導させ始めた。
列にならんだ住民たちは、恐々と空間のゆらぎをみていたが、上空に見えるドラゴンを見て次々と入っていった。
「隊長、まだ重症なかたがいるのでいっしょについていってもいいでしょうか」
「そうか、柊、まかせたぞ」
さっきの攻撃で傷をおったひとを柊さんがみていたが、まだ残っている重傷者に柊さんがついていくことになった。
「あとは、全員が避難できるまでしのぎきれば、オレたちの勝ちだ」
金剛さんが、上空のドラゴンをにらみつけた。
住民たちが脱出のために移動を始めたが、それをみたドラゴンが上空で咆哮をあげた。
空気がビリビリと震え、ドラゴンからの殺意が伝わってくるようだった。まるで、人間すべてに対する憎しみをもっているようだった。
(なんで、魔物はここまで人間を殺そうとしてくるんだ……)
ドラゴンが口をあけて、力をためるように首をたわめると、炎の塊が連続で吐き出された。
「うそだろ!? あんなこともできるのか!!」
炎の塊が高速で近づいてきているのを見ながら絶望感を感じた。
そこに住民の前で空間のゆらぎを作っていたフード野郎が、横目でこちらを見た。
「……返す」
すると、飛んでくる炎の塊の前に空間のゆらぎが生じて飲み込まれた。
そして、ドラゴンの前に空間のゆらぎが生まれ、炎の塊がドラゴンに向かって飛んでいった。
『ギシャアァァァァ』
自らが放った炎にまかれたドラゴンは悲鳴を上げると、ふらふらと地面に落下していき、周囲の建物を巻き込みながら盛大な音を立てて着地した。
「うわっ、まさかあいつも自分の炎にやられるなんて想像しなかったろうな」
赤井が呆然とした顔をしながら、落ちていったドラゴンをみていた。
ドラゴンは体表からぶすぶすと煙をだしながら、起き上がりこちらをにらんだ。
二本の後ろ足で地面を踏みしめてドスドスと地響きを立てながらこちらに近づいてきた。
どうやら、炎を吐いても返されると知って、直接攻撃に切り替えたようだ。
「迎え撃つぞ。これはチャンスだ。ドラゴンの前面でひきつけるものと、回り込んで攻撃にまわるものに分けるぞ」
敷島隊長が近づいてくるドラゴンを見据えながら、指示をだしていった。




