18. 騒乱の街
ブリーフィングルームに集まると、いままでにない緊張感に満ちていた。
「それでは説明をはじめる。異相境界の発生場所は新宿区西エリア、居住している人間が多くいるため、現在避難中だが時間がかかるだろう。小隊メンバーは、市民の避難誘導を最優先として行動してもらいたい」
局長の説明を、みなが固い表情で聞いていた。
「今回、問題となるのは、規模だ。異相境界の大きさからかなりの数の魔物の出現が予想され、範囲も広いものとなるだろう。出現する魔物も強力な個体がでてくる可能性が高い。各小隊は分散して行動してもらうため、苦しい戦いになるだろうが、死力をつくしてがんばってくれ」
そこで一旦局長は言葉をきり、いままでの真面目な態度から一変して顔に笑みをうかべた。
「最近、自衛隊のやつらの活躍が目立ってるからさぁ。ここらで、ギルドの方の力もアピールしたいわけよ。というわけで、市民に力を見せ付けつつ避難誘導を成功させてねー」
「おう、まかせろ。自衛隊のやつらなんざにまけてられるか」
局長の言葉をきき、部屋のなかにいた人間は笑みを浮かべながらやる気をだしていた。
現場に到着すると、そこには避難する人々で道がいっぱいになっていた。
太陽がさえぎられた曇り空の下、わずかな手荷物だけをもって、暗い表情をしながらも焦ったように先に進んでいた。
さきほどから、散発的に銃を撃つ音がなりひびき、すでに周りには魔物が出現しているようだ。
「みなさん、落ち着いて、焦らないで進んでください」
避難誘導をしているのは、ヘルメットを被り防刃性の分厚い防護服で身を固めた警官たちだった。
避難する人々の最後尾の方に向かうと、そこでは自衛隊隊員たちが例の魔銃を手に持ち、魔物たちを迎え撃っていた。
「撃て撃て!! ここを突破されれば市民が襲われるぞ!!」
その様子をみながら、これからどうするか敷島隊長にきいた。
「隊長、ここは自衛隊でなんとかなりそうですが、周囲の魔物を倒しに行きますか?」
「いや、いまはいいが、おそらく魔物の数が増えて、自衛隊だけではカバーしきれなくなるはずだ。それまで警戒しながら市民を守っていく」
そういって、最後尾を守る自衛隊の近くを進んでいった。
「こちらはギルド局だ。われわれも市民の護衛に協力する」
敷島隊長が声をかけて、こちらに気づいた自衛隊隊員が、チラリと視線を送ってきたが何も言ってこなかった。
そこからは、寄せては返す魔物たちを撃退していった。
今も目の前に、自衛隊隊員たちの壁を突破した2本の犬歯が異常に発達したサーベルタイガーのような魔物が迫ってきていた。
すばやい身のこなしで噛み付こうと迫ってきたところを、口に六角棒をかませて防いだ。
「こなくそ!!」
頭をわしづかみにして、地面にたたきつけた。アスファルトにヒビわれが走るほどの衝撃をうけた魔物は悶絶し、そこに六角棒をたたきつけてトドメをさした。
「まとめて燃えろ!!」
横では赤井が、巨大な炎で魔物をまとめて焼き払っていた。
負傷した自衛隊隊員を柊さんが治療していた。
「すまん、たすかる」
「いいえ、お気になさらずに」
大量の魔物たちによるひっきりなしの襲撃によって、みなが疲弊していた。
「みなさん、シェルターに到着しました」
ようやく、近場のシェルターまで到着したようだ。
分厚いコンクリートの塀でかこまれ、正面に鉄でできた扉の前で、避難した人々が列になり、ホッとした表情で中にはいっていった。
「ふぅ、ようやく、誘導がおわったか」
子供や年寄りを含めた大勢の人間の歩調にあわせていたため進行速度が遅く、だいぶ時間がかかってしまったが、守りきることができ、やりとげ顔をしていた。
しかし、シェルター内にはいる列が途中でとまった。
「申し訳ありません。これ以上の人数ははいることができません」
シェルターを管理している係員が済まなそうな顔をしながら、入ろうとする人々を押しとどめていた。
「うそだろ、ここまできて……」
「もうだめだ、一歩もあるけん」
暗い顔をして地面にへたり込むものもいた。
「みなさん、次のシェルターに向かいましょう。魔物がせまっているので、急いでください!!」
先導する警官隊が声をかけると、人々は疲れた顔をしながら立ち上がり、つかれた足を前にだし、ゆっくりと歩き始めた。
「まずいな、さっきより進行速度が遅くなっている」
敷島隊長が、歩く人たちをみながら渋い顔をしていた。
「だが、やるしかないだろう、全隊陣形を崩すな、市民を守り通すぞ」
自衛隊員たちが奮起するように声をあげて、ふたたび護衛をしながら進み始めた。
逃げていく人々の心中などお構いなしに、魔物たちの襲撃は止まなかった。
「くそっ、魔石がこわれた」
横の自衛隊隊員がかまえていた魔銃にはまっていた石にヒビがはいり砕け散った。舌打ちをしながら、魔銃をおろし、腰のホルスターにいれていた拳銃で魔物を撃ち始めた。
「おっさん、どいてろ」
拳銃の弾をものともせずに近づいてくる、人間よりひとまわりも大きいカマキリの魔物が近づいてきた。
意識を腕に集中し、振り下ろしてきた魔物の両腕の鎌にあわせて六角棒を振りぬいた。
打ち合った瞬間火花が散り、魔物の両腕の鎌が千切れ飛んでいった。
腕がなくなったにもかかわらず、つっこんできた魔物の頭に、上から叩き込んだ。
魔物は体液を撒き散らしながら、地面にめりこみ動かなくなった。
他の自衛隊員も魔銃がつかえなくなり、通常火器を使用しだしていた。
そこに、道の先から新しい魔物が迫ってきているのが見えた。
「おい、赤井、まだやれそうか」
「だれに聞いてんのよ。まだ全然やれるわ」
赤井は強がっているが、顔色が悪くつらそうな顔をしていた。
このままいけばジリ貧だとわかっていても、逃げるわけにはいかなかった。
「オラァ、こいやぁ!!」
魔物たちに威嚇の声をあげて注意をひいた。
「ひとつ!! ふたつ!! みっつ!!」
迫ってくる魔物たちを六角棒をふりまわしながら、粉砕していった。
3体目に振り下ろしたところで、横から額に長大な角を生やした馬のような魔物が突っ込んでくるのが見えた。
「ぐあっ」
角に串刺しにされることはなんとか避けることができたが、足に引っ掛けられ吹っ飛ばされてごろごろと地面を転がった。
「結城!!」
敷島隊長が手に持ったコンバットナイフで敵と応戦しながら、こちらに向かって叫び声をあげていた。
「くっそが……」
さっき受けたダメージのせいで足がふるえ、六角棒を杖代わりにしてなんとか立ち上がった。
目の先にはこちらを見据え、ひずめで地面をけりながら鼻息をあらくする馬の魔物がいた。
そして、額の角をむけて馬の魔物が、地面をけりたて音を立てながら突っ込んできた。
立っているので一杯だったので、とても避けられそうもなかった。
(やべえな、これは……)
魔物が目の前まで迫った瞬間、急に目の前に巨大な金属の盾が出現した。
勢いをつけてつっこんできていた魔物は、急に現れた盾にそのままの勢いでぶつかった。角は途中でへしおれて、くびが妙な方向にまがってピクピクと痙攣しながら倒れていた。
「うじゃうじゃいやがんなぁ!!」
さらに前方では、自衛隊員たちと戦っていた魔物をつぎつぎと倒していく巨大な姿がみえた。
「おまえは!? 鬼のおっさん」
3mを超す巨体に墨のような真っ黒な肌と、額からはえるねじくれた二本をもつ鬼が戦っていた
。
「おれもいるよー」
脇の道から、髪を金色に染めた小柄な男がでてきた。
「おい、どういうつもりだ」
付近にいた魔物をすべて片付けたあと、鬼のおっさんたちに詰め寄った。
自衛隊隊員たちも警戒した様子で見ていた。
「んだよ、助けてやったのに、その言い草は。おめえさんには、この前助けてもらった借りがあったから返しにきただけだ」
「葛原さん、こんな恩知らずな連中助けるだけむだッスよ。フードの子との約束ならさっきので十分果たしましたから、帰りましょうよ」
すねた口調で話す葛原に、金髪の男が不満そうな様子で話しかけた。
「おい、フードの子の約束ってなんだよ」
「あんたには関係ないよ」
「チッ…… まあ、助かったのは事実だし。礼はいっとく。あんがとな」
「そうそう、最初からそういう態度でいればいいんだよ」
鬼のオッサンがガハハハと笑っていた。
急に現れた鬼のオッサンを人々は、恐れるように遠巻きにみていた。
「みなさん、こいつは味方なので安心してください」
そこに、自衛隊隊員が人々に大声で話しかけた。その様子をみて、鬼のオッサンと、金髪の男が目を見開いて驚いていた。
「どういう風の吹き回しだ。てっきり追い返されるとおもっていたんだが」
「いまは少しでも戦力がほしい。だが、この戦いが終わったら容赦せんぞ」
そう言い放つと、自衛隊の男は背をむけて持ち場に戻った。
それからの鬼のオッサンと金髪の男の活躍は目覚しかった。
「隆二、槍くれ」
「あいよ~」
金髪の男が能力で生み出した鉄の槍を、鬼のオッサンが手にもつと、前方からのそのそと近づいてくる車並みの巨体をもつトカゲの魔物に向けて投げつけた。
槍は魔物の鱗をつらぬき、さらに貫通して地面に縫いとめた。そこに、一気に肉薄すると、拳を頭に叩きつけてトドメをさした。
その様子をみていた自衛隊隊員たちが、唖然とした表情をしていた。
鬼のオッサンたちの活躍もあり、次のシェルターまで無事にたどり着くことができ、残りの住人たちの避難もようやく完了した。
「ふう、やっと、終わった。隊長、次はどうします?」
「ああ、ちょっと待ってろ。ほかの小隊の状況を確認する」
敷島隊長は無線で連絡を取り始めた。
『こちら勇者小隊03だ。担当の住民の避難が終了した。応援に向かいたいがどこにいけばいい』
『こちら勇者小隊02だ。ちょーっとこっち厳しいんで、応援にきてくれるか』
『了解。すぐに向かう』
おれたちの担当した住民の避難はおわったので、小隊02の応援に向かうことになった。
「われわれは一旦補給のためにもどる。ここまでの協力感謝する」
自衛隊隊員たちとわかれて、小隊02の元に向かった。
「助けてもらっといてあれなんだが、鬼のおっさんたちまだついてくるのか」
後ろからついてくる二人に声をかけた。
「もちろんだ。頼まれたことは最後までやりとおさなきゃ気が済まねえからな。魔物の発生が収まるまでつきあってやるぜ」
「あー、めんどくさい。さっさと終わらせて帰りたい」
まだ暴れたりなそうな鬼のオッサンと、気だるそうな様子の金髪の男から視線をはずし、前を目指して足早に進んだ。
だが次の瞬間
『グオオオオオオォォォォォ』
急に地面が地面が揺れだし、あたり一帯に地をふるわせるような声が響いた。




