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アラサーTSメスガキ魔法少女に煽られて恥ずかしくないの?♡ざぁーこ♡  作者: 夏川優希


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83話 オトナなら自分のしたことに責任もとーね♡


 目から光を失ったセイラに捕まり、テレビ局への単独襲撃を阻止された律。

 その後、ほかの魔法少女たちと合流し全員でモモカのいるであろうテレビ局へ向かうこととなった。


 隊列を組み、夜空を飛ぶ魔法少女たち。

 律は魔法少女たちがかつての先輩魔法少女であるモモカと戦うことを嫌うのではと思っていたが、意外なことに東京本部の魔法少女のほとんどが自らの意思でこの作戦に参加していた。

 とはいえその胸中は穏やかではないだろうと律は思う。

 彼女たちを心配し、律は声をかけようとした。が、その言葉はやはりメスガキ煽りに変換されてしまう。



「大丈夫なの?♡ 元先輩と戦うなんて甘っちょろいみんなにできると思えないんだけど♡ 足は引っ張らないでよね♡」


(ううっ……本当はこんな聞き方したくないのに相変わらず口調をコントロールできない……)



 そんな風に心を痛める律だが、もはや本人より仲間たちのほうがメスガキ煽りに慣れているようだ。

 変身前後で律の口調が変わってしまうこと、しかしその心は変身前の穏やかな律のそれと変わりないことを仲間たちはちゃんと分かっている。

 律の言葉に真っ先に反応したのはすぐ後ろを飛んでいたセイラだった。



「ええ。リツさんの苦しみに比べれば、これくらい……」


(ううっ……なんか、心が痛む……)



 セイラの表情は相変わらず陰鬱で、律は彼女の光を失った瞳を見るたびに罪悪感に駆られるのだった。

 しかし幸いにも変な勘違いをしているのはセイラひとりであるらしい。律の隣を飛んでいたルナが妹の様子に首を傾げる。



「あなた最近変よ。どうしたの」


「いいんだ……姉ちゃんは知らなくていい……」


「なによ。変な子」



 ルナは呆れたように言って、そして改めて律の問いに答えた。



「確かにわたしたちは大きなショックを受けました。でもモモカさんがなんの考えもなくこんなことをするとは思えないんです。わたしたちはその理由を知りたい。いや、知らなくちゃいけない」



 ルナの言葉に、後方を飛ぶ魔法少女たちも微かに頷く気配がした。

 プイプイも言っていた通り、どうやらモモカというのは本当にみんなに慕われていた魔法少女であったらしい。



(それなのに、どうして怪人なんかになったのかな……)



 考えかけて、律は頭をふった。

 考えずとも、テレビ局で待ち構えているだろうモモカに会えば分かることだ。

 あのテレビ放送――生中継で自分の居場所を伝えるなんて、いかにも魔法少女たちを呼んでいるようではないか。


 そうこうしている間に見えてきた。

 都会の真ん中にあって、一際目を引く建造物。

 いくつかのビルが連なったような建物の上には、トレードマークである円盤形のパラボラデッキが君臨している。

 あれこそJTVの社屋である。

 そしてその下には詰めかけたたくさんの人たちが魔法少女たちを見上げていた。



(おお、生放送のせいかすごい注目度だ。みんな俺たちを応援しに来てくれたのかな)



 なんてのんきに考えていた律は甘いと言わざるを得ない。

 詰めかけた人だかりが魔法少女に向けたのは、歓声ではなくブーイングだったのだから。



「見てよみんな! 魔法少女のお出ましだ。どんなツラして元仲間のとこにやってきたんだろうね?」



 配信でもしているのだろうか。

 軽薄そうな男がスマートホン片手にそう叫ぶなり、集まっていた民衆たちも釣られるように叫び出す。



「ふざけんな! お前らのお仲間のせいで東京が大変なことになってるんだぞ!」

「責任取れよ!」

「アタシの彼氏、クマに飲まれたんだけど! 返してよ!」



 これくらいの暴言はまだ良い方だった。

 暴言はさらに過激な暴言への呼び水となり、瞬く間に聞くに堪えない言葉があちこちで叫ばれる事態となった。

 この国では言論の自由が与えられてはいるが、それは大勢の大人が少女たちを囲んで浴びせて良いような言葉ではなかった。



(え……なんでそんなこと、俺たちに言うんだよ。全然関係ないのに)



 律はその異様な熱気に面食らうが、他の魔法少女はそれほど驚いてはいなかった。そういった事態に慣れているような素振りすらあった。



「なんか……〈黒き森〉の時を思い出しますね……」



 暗く沈んだカナコの言葉に律はハッとする。


 〈黒き森〉は東京を支配する怪人集団だった。人々はなすすべなく蹂躙され、警察も歯が立たず、魔法少女ですら身内を人質に取られるといった卑劣な手段で彼らに立ち向かう力を奪われていった。

 そして人々は〈黒き森〉への恐怖と苛立ちを魔法少女に向けたのだ。

 酷いバッシングだったというのは話には聞いていたが、ただ聞くのと実際に向けられるのとでは感じ方が全く違う。


 ルナをはじめとした魔法少女たちがひねくれてしまっていたのも当然だと律は思う。

 彼女たちはまだ10代の、心の柔らかな少女たちなのだ。不特定多数の大人から心ない言葉を言われて平然としていられるはずもない。


 しかし律は違った。

 律は10代の、心の柔らかな少女などではない。

 彼はブラック企業に揉まれまくったアラサーの元社畜男性なのである。

 半ば八つ当たりのような言われなき文句に傷つくようなメンタルは持ち合わせていない。

 そしてその口はオートでメスガキ煽りを撃ちまくる。



「お兄さん、お姉さんたち、わざわざこんなところまで文句言いに来たの~?♡ さすがに暇すぎ♡ てかそんな熱量あるなら自分たちでモモカに会いに行けばいいのに♡」



 魔法による効果なのか。

 その甘ったるい声は飛び交う罵詈雑言を塗りつぶすかのごとくよく響いた。

 律は口元に手を当て、さらなる追撃を食らわせる。



「クスクス♡ リツ分かってるよ♡ お兄さんお姉さんたちはざこだからぁ……絶対やり返してこない人にしか文句言えないんだぁ♡ きゃはっ♡ だっさ♡」



 その言葉に、律の後ろにいた魔法少女たち数名が堪えきれなくなったように噴き出す。彼女たちを包んでいた緊張は、そのまま笑いに昇華されてしまったようだ。

 しかしもちろん集まった民衆たちは面白くない。

 罵声を浴びせる声はますます大きくなり、もはや誰が何を言っているのか分からない。

 ヒートアップし、我を忘れたのだろうか。集まった民衆のうちのひとりが律に向けて石を投げたらしい。


 もちろん魔法少女にそんな攻撃が通じるはずはない。

 投げた者もそれを分かっていて投げたのだろう。石は避けるまでもなく律の足下へ落ちた。

 普段であればたいしたお咎めもなかったはずだ。


 しかし今はマズかった。今だけはそんなことをすべきじゃなかった。



「ま、待てって! 当たってないだろ? わざと当たらないように投げたんだよ。ちょっとした脅しだって。ってかもし当たっても魔法少女なんだから死ぬわけないだろ」



 男の必死の弁明に、しかしクマは無慈悲な言葉で答える。



「ダメだクマ! 人に石を投げる子はお仕置きクマ~!」



 悲鳴を上げる男。パニックになり逃げ惑う民衆たち。慌てて武器を構える魔法少女たち。

 そんな中で、律だけが瞬時に足を動かし男の元へと走った。

 そしてそのハート型のステッキでクマをぶん殴る。



「えいっ♡」



 日中、スーパーで見かけた万引き男にしたときと同じく、クマは「パンッ」という音を立てて風船のごとく破裂し消えた。

 ――そして、クマから助けた律に感謝しないのも万引き男と同じだった。



「お、お前がけしかけたんだろ……」


「え?♡ なに?♡」



 恐怖のあまり尻餅をついたその状態のまま、男は震える指で律を指した。



「お前が石を投げさせるように仕向けて、クマをけしかけたんだろ! やっぱりお前らもモモカの仲間なんだな! なにが魔法少女だ、バケモノ共め!」



 律は一瞬だけ呆然として、そして気が付くと口からため息が漏れていた。



「は~あ♡ バカの相手ってホント疲れる♡ オトナなら自分のしたことに責任もとーね♡」



 そして律は民衆に背を向けた。もはや石を投げようとする者はいなかった。



「じゃ、みんな行こっか♡ あんまやる気でないけど仕事だし♡」



 そして魔法少女たちは今以上の混乱が待ち受けるJTV社屋へと足を踏み入れたのだった。



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