49話 キザなことしちゃって♡
怪人――いや、もやは怪獣となったリュウザキを、律は見事に倒してみせた。
飲み込まれた一般市民は全員無事に救出。
怪獣が飲み込んだ町や道路も完璧に修復できた。
そして〈ブラッディドラゴン〉の構成員たちや、ボスのリュウザキ本人も無事確保。
事件は無事解決し大団円を迎えた。
しかし不可解な点が残る。
リュウザキの中に取り込まれた際、確かに出会ったはずのルークが見つかっていないと言うのだ。
マンションの部屋にやってきたプイプイからの報告を聞いて、律は首をかしげた。
「そんなはずないよ。なにかの間違いじゃない? もうちょっとちゃんと確認してよ」
「いやぁ、あちこちに確認したプイが……」
律に促されてプイプイは手元の書類に再び視線を落とすが、結果は変わらなかった。
「やっぱり保護した人間の中にも、拘束した怪人の中にも、律さんの言う14歳前後の男の子はいないプイ」
「ええ? そんな、確かに会ったんだけどな……」
「怪人の腹の中で見たのなら、幻覚だったっていう可能性はないプイか?」
「うーん……まぁ……それは確かに……」
たまたま街でぶつかって一度喫茶店でお茶をしただけの中学生が、どうして怪人の中にいるのか。
律にはそれを説明できるだけの情報を持っていない。
あれは幻だった――そう言われてしまうと、律もそんな気がしてきてしまう。
「あ、そうそう。律さんと他の魔法少女たちの取り分プイが、9対1で良いそうだプイ。怪人を倒したのは律さんだプイが、他の子たちも住民の避難誘導とかで被害を減らしたプイから1割はあげてほしいプイ」
「え、ええ? なんか年上なのにほとんどもらっちゃって悪いなぁ……」
と、言葉では言いながらも表情は嘘をつけずニヤけてしまっている。
先立つものはあればあるだけ良い。
それが律の考え方だった。
「それじゃあ今日はこの辺でお暇するプイ。また連絡するプイ」
「うん、お疲れ様」
諸々の報告や連絡を終え、プイプイは律の部屋から出て行く。
妖精さんは地面を歩いていることよりも飛んでいることの方が多いので窓から直接外へ出ても問題ないのだが、プイプイは人間社会の常識に習って玄関の扉から出入りするようにしていた。
律も玄関先まで出てプイプイを見送るが。
「――あれ?」
扉を開けたプイプイが怪訝な声を上げる。
その理由が、律にもすぐに分かった。
「……これって」
玄関の脇に置かれた、真っ赤な薔薇の花束。
手に抱えると、律の顔が隠れてしまうほどに大きい。
まるでプロポーズに使うような仰々しい花束だった。
「うわぁ、すごいプイねぇ。何本あるんだプイ? 100本とかありそうだプイねぇ」
プイプイは無邪気にそれを抱えた。
その弾みに花束からひらりとカードが落ちる。
「おっと」
廊下に落ちる前に、律は咄嗟にそれをキャッチした。
黒字に白抜きの文字が書かれたカードは、どこか気取った印象を受けるデザインだ。
『また近いうちに会おう ルークより』
同じくそれを見たプイプイは、ニヤニヤを隠すようにそのふわふわお手々を口元に当てる。
「あららら……律さんも隅に置けないプイねぇ。ん? 律さん? なんで頭抱えてるプイ?」
「……やっぱ夢じゃなかったんだなぁ」
律はそう呟いて大きなため息をついた。
律が心配していたのは、ルークの生死だった。
洗濯機によりルークを消滅させてしまったのでは。そう考えて律はプイプイに何度もルークの行方を尋ねていたのである。
律の部屋を探し出してこんな花束を置けるくらいだからルークは生きていて、しかも元気なのだろう。
律の考えていた"最悪のケース"は免れたというわけだ。
とはいえ、良かった良かったと諸手を挙げて喜べるような状況でもない。
律は祈るように天を仰いだ。
「ルナみたいになってないといいけどなぁ」
「え、なんの話プイ?」
首をかしげるプイプイを横目に、律は思わず苦笑するのだった。
***
「ルークぅ、なんで花束なんか置いたんだみゃ?」
律のマンションを見上げ、闇の精霊みゃうみゃうは腑に落ちないとばかりにしきりに首を傾げている。
「お前の住処は分かってるぞって脅しかみゃ? だとしたら花束なんかじゃなくてカッター入りの手紙とかネズミの死骸でも置いた方が――」
「脅しなわけないだろ。俺は律を愛しているのに」
「みゃあ……? でも振られたんだみゃ?」
「手厳しいな。でもその通りだよ」
ルークはアッサリと頷いた。
今までであればその高いプライドから振られたことを否定し、みゃうみゃうのストレートな物言いに反発していたことだろう。
しかしそうしなかった。
ルークは今回の件により、いろいろな意味で一皮剥けていたのだ。
「今までは俺が好意を一方的に押しつけていた。確かにそれじゃあ振られても当然だ。でもきっと、いつか律を振り向かせてみせるよ」
一見すれば若者の前向きな言葉に聞こえるだろう。
なにも知らない者が見ればそれを「青春」だと言ってしまうかもしれない。
しかしそれは大きな間違いだ。
ルークの心に渦を巻くどす黒い律への執着を、そんな言葉で言い表すことはできない。
「――多少強引な手を使ってもね」
ルークの暗い瞳に負のエネルギーが満ちるのを眺めて、みゃうみゃうはほくそ笑んだ。
この少年はもしかしたら律への切り札になり得るかもしれない――と。
「ところで、あのとき律になにを言われたんだみゃ?」
みゃうみゃうは何気なく、という風を装ってルークにそう尋ねる。
リュウザキの中でルークは律に振られた――みゃうみゃうも当初はそう思ったし、ルークも認めている。
しかし本当にそれだけだろうか、とみゃうみゃうはあとからふと思ったのだ。
振られたというだけで、あれほど膨大な負のエネルギーを出すだろうか。
もしかしたら律の強さの秘密がそこにあるのではないか、と。
しかしみゃうみゃうの問いにルークはニヤリと笑うだけだった。
そしてルークは歩き出す。
「ふたりだけの大事な秘密を他人に言うわけないだろ」




