24話 出る杭は打たれるってヤツ?♡
『ざぁーこ♡』
マリはパソコンに釘付けになっていた。
液晶が映し出しているのは、ネットでも話題になっているメスガキ魔法少女、リツのアーカイブ配信。
あれほど憎くて憎くて、しかし誰にも手出しできなかった〈黒き森〉の幹部連中が、いとも容易く倒されていく。
「あは……あははは……やった……やった……!」
マリは机に突っ伏すようにして肩を震わせている。
リツに煽られながら無様に倒されていく怪人たちが笑えてしかたなくて、そして魔法少女が悪を倒すという当たり前ともいえる光景が嬉しくて泣いているのだ。
今まで、それは当たり前ではなかったから。
マリもまた、画面の中で活躍するリツと同じ魔法少女である。
小学生の頃に学校で魔法少女のことを習い、正義が悪を討つというシンプルな構造になぜか強く惹かれた。
興味を抱いてから自分自身が魔法少女になるまではあっという間だった。
他の魔法少女に比べて特別に才能があるというわけではなかったが、正義のために日夜怪人と戦う生活を送っていた。
決して楽ではなかったが、あの頃は充実していたとマリは思う。
歯車が狂ったのは〈黒き森〉が現れてからだ。
頼れる先輩たちは次々に変身ブローチを妖精さんに返却し、魔法少女を引退していった。
どうして〈黒き森〉を倒そうと誓い合った先輩たちがああも簡単に辞めていくのか、最初はマリにも分からなかった。
しかし直に分かることになる。
なぜならマリもまた、先輩たちと同じように〈黒き森〉の脅迫にあったからだ。
これ以上〈黒き森〉に逆らうのであれば幼い妹を殺す――そう言われて以来、マリは〈黒き森〉の名を口にすることすら憚られるようになった。
しかしマリは先輩たちと違い、魔法少女を辞めたりはしなかった。
それはマリが正義を信じていたからである。
いつか魔法少女が悪を打ち倒すと、そう信じて――いや、願っていたからである。
そして今日、その願いが現実のものとなった。
「凄い……凄いよ! やっぱり魔法少女が勝った! あは……あははは!」
早く誰かとこの話を共有したい。
やっぱり魔法少女って最高だって笑い合いたい。
その一心で、マリは久しぶりに魔法少女に変身した。
向かう先は、新しくできたという魔法少女連盟の戦略会議室。
しばらくは魔法少女として活動をしていなかったため、マリがそこへ足を踏み入れるのは初めてのことだった。
だが予想通り、部屋では魔法少女たちが集まって話をしていた。
マリは彼女たちに声をかけようとして――しかし、やめた。
色とりどりの華やかな衣装や机の上のきらびやかな菓子類に似合わない陰険な表情。
誰かの悪口を話すとき特有の陰湿な盛り上がり。
彼女たちが決して明るく楽しい話をしているわけではないことは誰が見ても明らかだった。
「あのリツって子、もう1週間も経ってるのに全然挨拶に来ないじゃない」
「ルナさんの許可も取らずに勝手なことして」
「新人のくせに調子に乗ってるんじゃないの?」
「プイプイもなに考えてるんだか」
(――え? 挨拶? 調子に乗ってる?)
マリの表情がにわかに固まる。
「なに、言ってるの?」
マリの言葉に、机を囲んでいた魔法少女たちが一斉に振り向いた。
ほとんど知らない顔。
向こうもマリの顔を見て、怪訝な表情を浮かべている。
「誰?」
「さぁ」
「知らない」
互いに視線を交わし、首を振り合う魔法少女たち。
その言葉には自分たちの仲間だと認めていない者を排斥するような雰囲気が漂っている。
でも今はそんなのはどうでも良かった。
「挨拶がどうとかそんな話じゃないでしょ? 〈黒き森〉を倒したんだよ? 凄いって思わなかった? 胸が震えなかったの?」
マリはそう主張するが――反応は冷ややかだった。
「なに言ってんの?」
「胸が震えるとか」
「ウケる」
バカにするようにクスクス笑う魔法少女たち。
マリは混乱した。
本当にこの子たちは魔法少女なのか。部屋を間違えたんじゃないか、と。
しかし、マリは部屋を間違えたのではない。
ただひとり、見知った顔がそこにはいた。
「お久しぶりですマリさん。変身ブローチ、まだ返してなかったんですね」
「ルナ……」
マリはその少女の名を呼ぶ。
艷やかな長い黒髪に、色白の肌、スラリと長い手足。
ルナはマリよりも少しあとに入ってきた魔法少女である。
確かに彼女だ。しかし……こんなにキツい顔をしていただろうかとマリは少しだけ戸惑う。
「魔法少女は正義のために戦うんでしょ! こんなの、モモカさんが見たら――」
「モモカさんもマリさんも途中でいなくなったじゃないですか。わたしたちがどれだけ苦労したか知らないでしょう」
ルナは冷たく言い放つ。
その言葉にマリは反論できなかった。
事実だったからだ。マリが変身ブローチを机の奥にしまい込んでいる間、怪人と戦っていたのは彼女たち。
「マリさんたちの時代はもう終わったんですよ。いまはわたしたちの時代なんです。……誰にも譲る気はありません」
(ああ……そうか。終わったんだ。正義の魔法少女の時代は――)
〈黒き森〉は本当に恐ろしい組織だとマリは改めて思う。
彼らは魔法少女を脅迫し強く弾圧したが、しかし完全に潰してしまうようなことはしなかった。
それは英雄を生まないためだ、とマリは思う。
生かさず殺さず、腐らせる――
魔法少女は、もはやかつてマリが憧れた強く美しいものではなくなっていた。
「よければわたしからプイプイに変身ブローチを返しておきましょうか?」
「……必要ないよ」
マリは踵を返し、歩き出す。
「自分で返すから」
こうしてまたひとり、志のある魔法少女が辞めていった。
黒き森の幹部たちは拘束され、組織は壊滅したが――その爪痕は大きく、いまだ癒える気配はない。




