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本物の勇者になりたい  作者: たわしまつわ


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第十六話 ゴブリン達への奇襲

 ゴブリンの探索を始めてから三日。初日は斥候のゴブリン十体を発見し、これを倒したギルドの冒険者達だったが、その後は全く出現せず、探索も空振りに終わっていた。

 そして四日目。同じように斥候の捜索を行っていたところ、村から離れた山に近い場所でゴブリンを探知した。もちろんリアナの魔法によるものだ。

「ちょっと待って。何、この数。山の中を進んでくるんだけど、とても数えきれないわ」

 驚きの声を上げるリアナに、ライルが冷静に答えた。

「どうやら偵察は諦めて、本隊で一気に攻めて来るらしいな。この前、ギルド長のガイストが言っていただろう。ゴブリンは三百以上の数で攻めてくるのが普通だと。だから間違いないと思う」

 それを聞いて、アレンやクレアは顔を青ざめた。さすがにレベル二の二人には荷が重すぎる。カシム達パーティ四人も真剣な表情だった。

 しかし、ライルはそんな仲間達の表情に構わずに言った。

「ここで相談だ。このまま順調に進軍されては、村が危険にさらされる。だからな、進撃中で隊列が細長い今のうちに、奇襲を掛けようと思うんだ。先鋒を軽いて損害を与えれば、進軍速度も遅くなるはずだ」

「おいおい、たった八人で攻め込むっていうのかよ」

 カシムが驚きと共に言う。それは当然である。一体一体のゴブリンは弱いが、三百以上の数が背後に控えているのだ。数で押されたら、さすがに無事では済まなくなる。

「だからだよ。今ならゴブリンも多数の利を生かせない。小集団ごとに進撃しているはずだ。一つか二つ、それを潰そうってことだ」

 ライルの話は道理が通っている。しかし、危険な行動であることには変わりはない。

「アレン、クレア、二人はどうだ?」

 話を振られて、二人が少し考えこむ。

「先に数を減らすのは有効な手だと思います。私は賛成です」

 一番戦闘力の低いクレアがそう言った。

「そうだね。僕も賛成かな。応援が来るまで時間を稼ぐ必要もあるし、ゴブリン達を倒した後、僕達が無事に逃げられれば、また次に備えることもできると思う」

 レベルの低い二人にそう言われては、カシム達も反論の余地はなかった。

「分かった。先手で数を減らすんだな。俺達も戦う」

 ライルがうなずいて、奇襲を行うことに決まった。


 ゴブリン達は道なき山中を切り開くようにして進軍していた。一隊が十体くらいの小集団で、それが次から次へと連なって進んでくる。

「よし、先手。ウィンドカッター」

「ウィンドカッター」

 先頭の十体に向けてメイジのライルとマイクが魔法を放つ。真空の刃の魔法は見えにくい。奇襲として一番効果的な魔法だった。それが一番先頭にいたゴブリンの集団に襲い掛かり、二体のゴブリンの体を斬り裂いていた。

「よし、突撃だ」

 戦士のカシムが先頭を切って走り出す。後に続くのは戦士のサムス、アレン、リアナ、その後方からヒーラーのハントとクレアが続く。先手で魔法を放ったライルとマイクもその後に続いた。

 不意を突かれたにも関わらず、ゴブリン達は即座に態勢を整えていた。それぞれ武器を手に取って反撃してきた。人間側の人数が少ないのを見て取ったこともあるだろう。しかし、それは甘い判断だった。

 カシムは楯戦士だ。即座に応戦に入ったゴブリンの一体が攻撃してきたのを楯で防ぎ、その隙に自分の剣を振るって目の前の敵に斬りつける。斬撃の威力も十分で、一撃で一体を倒していた。

 アタッカーのサムスも洗練された動きでゴブリンの迎撃を軽く避け、鋭い斬撃を敵に見舞った。見事にゴブリンの体を両断し、こちらも一撃で一体を倒している。

 アレンも負けてはいなかった。棍棒で殴りかかって来たゴブリンの攻撃を丁寧に避け、力強い斬撃をゴブリンに見舞う。十分な威力があり、血しぶきを上げてゴブリンが倒れた。

「ホーリーシールド!」

 ハントとリアナが魔法の楯を展開し、彼らの前へと出る。後続の攻撃を防ぐためである。残り五体のゴブリンが前衛三人に襲い掛かるところに割り込み、その攻撃を弾き返した。

 その間にゴブリンの背後に回り込んだリアナが、一体のゴブリンに短剣で斬りつける。背を断ち割られてそのゴブリンが倒れる。

 その攻撃に驚いたゴブリンが背後を気にして振り返り、大きな隙ができた。そこへ戦士三人がそれぞれ鋭い斬撃を放つ。一人一体のゴブリンをそれで仕留めることができた。

 残る一体は味方が全員倒されたことに気付き、逃走を図ろうとした。だが、ライルはその動きを予測していた。

「ウィンドカッター」

 またしても風魔法で逃げようとしたゴブリンの背を大きく切り裂く。そして最後のゴブリンも地上に倒れた。

「よし、全て倒したな。全員異常はないか」

 ここではレベルの高いパーティのリーダーカシムが確認を行った。ライルの方がレベルも年齢も上だが、役割分担としてそちらの方が都合が良かったからだ。

 全員が異常なしとの返答をする。その間に、早くも次のゴブリンの集団が遠くに見えていた。

「次の集団も叩くのでいいですか、ライルさん」

 カシムの問いかけに、ライルがうなずく。

「あと二つくらいは倒しておきたいところだな。とりあえず、全員この場を離れて、身を隠そう。あの集団が迫ってきたら奇襲を掛ける」

「了解。では、左右に別れましょう」

 アレン達のパーティは右に、カシム達のパーティは左に移動し、木の裏側に身を隠した。

 そして次の集団が来るのをじっと待ち受けた。


 ゴブリン達も先頭集団に異変が起こったことを察知していた。大急ぎで先頭集団が倒れているところへとやってきた。そして味方がみな斬り倒されているのを見て驚いていた。

「何が起こったんだ」

「みんなやられているぞ。どういうことだ」

「まさか、人間が攻めてきたのか」

 彼らも意思疎通ができる。言語化したらこんな内容の会話をしていたのである。味方の死体を見て困惑し、大きな隙を作っていた。

「ウィンドカッター」

 ライルとマイクがまたも先制の魔法を放つ。真空の刃の魔法は見事に二体のゴブリンを斬り裂き、倒していた。

 そこでゴブリンの一体が笛を吹いた。仲間に急を知らせる合図である。ゴブリン達のやってきた方向で、その笛の音を聞いて、同じように次々と笛を吹く音が聞こえてきた。

「小部隊三つは倒したかったところだが、仕方ない。この敵を倒したら撤収しよう。みんなよろしく頼む」

 経験豊富なライルが参謀役としてそうみなに伝えた。

「分かった。まずは目の前の敵ですね」

 アレンがうなずき、剣を抜いて突進していく。クレアとリアナ、ライルもその後に続く。

 反対側からは、カシム達パーティ四人も突撃してきていた。

 ゴブリン達が人間の姿を見て、先程の集団と同じように即座に応戦態勢に入る。下っ端とは言え魔族であり、魔族間では抗争が絶えないことから、このような襲撃にも慣れていたのが反応の速さに表れていた。

 しかし、ゴブリンはゴブリンだった。一対一の戦闘では人間の方が能力的に高い。

 アレンが一体のゴブリンに斬撃を見舞う。それはゴブリンの棍棒に阻まれたが、弾き返された勢いを利用して剣の軌道を変え、二撃目を叩き込む。それを防ぐことができず、ゴブリンは頭上から上半身まで一気に斬り裂かれていた。血しぶきを上げて地上に倒れる。

 リアナも負けていない。ゴブリンが振り下ろした棍棒を軽く弾き返すと、できた隙に斬撃を見舞い、一撃でそれを斬り倒す。

「ホーリーシールド!」

 クレアも負けじと参戦していた。ゴブリンの気を引き、攻撃をあえて引き受けることで、二人の負担を軽くしようと奮闘していた。何発ものこん棒の攻撃を防ぎ、仲間を助ける。

 反対側から攻め込んできたカシム達も見事な働きを見せた。

 カシムは楯戦士の特性を生かし、楯で攻撃を受けてからの反撃でゴブリンを斬り倒していた。サムスはアタッカーらしく先の先を取り、ゴブリンに何もさせないまま無言で斬り倒していた。ハントは魔法の楯を展開し、クレアと同様に仲間のサポートに当たっていた。マイクは魔法を撃ち込む隙を窺い、逃げ出そうとしたゴブリンに魔法を撃ち込んで倒していた。

 一方的な戦いが続き、二つのパーティ八人は、ごく短い時間で十体のゴブリンを倒していた。

 しかし、ゴブリン達の来た方向からは大勢の軍勢が迫る気配がしていた。離れているが、ゴブリン達が異常を察知して、戦闘態勢を取りつつ迫ってきているのが分かる。総数三百に及ぶ敵を相手にするには、さすがに八人では厳しい。

「異常はないな」

 緊迫した状況の中、カシムがまずは仲間の無事と異常の有無を確認する。こういう時こそ異常のあるなしの確認は重要だ。仲間達から異常なしの返答を受けて、カシムが全員に指示を出す。

「ライルさんの作戦に従い、戦闘はここまでとする。全員、これより撤収に移る。油断せず、落ち着いて後退しよう」

 先頭は探知魔法の使えるリアナに任せ、カシムが自らしんがりを務めた。楯戦士として、もし追撃があるならそれを食い止める役回りを買って出たのである。八人はなるべく離れないようにしながら、山を下りて村へと向かっていった。

 運が良いというべきか、ゴブリン達も仲間の死体を放置して追撃を掛けてはこなかった。半端な兵力を出して逆撃を受け、被害が増すのを嫌ったのである。そういう判断ができる辺り、ゴブリンと言えど十分な知性をもっているのである。撤収した八人は知らぬことだが、ゴブリンにも埋葬の習慣があり、ここで倒れた十体の死体をその場に埋めていたのである。それに手間がかかり、追撃できなかったという事情もあった。

 八人は順調にゴブリンから距離を取り、無事に撤収することに成功した。


 八人はそのまま真っ直ぐ冒険者ギルドに戻り、事の顛末をギルド長のガイストに報告した。

「そうか。本隊がすでに進攻中だったのか。その先頭集団を二つ叩いただけでも戦果としては十分だな。みんな、ご苦労だった」

 ガイストはそう言うと、表情を渋くした。

「しかし、明日にはゴブリンの軍勢も平地に下りてくるな。王都からの援軍も早くて三日後だろう。それが間に合えば良かったんだが、ゴブリンの進軍が思ったより早かったな。結局、このギルドの十一人で迎撃することになるだろう。みなよろしく頼む」

 ため息を一つつくと、気を取り直したように言った。

「とにかく、今日はゆっくり休んでくれ。明日はゴブリン達の動きを監視して、どこに陣取るかを確認したら、そのままこの十一人で決戦だ」

 冒険者達十人がうなずく。厳しい戦いになるだろうが、それでも負ける訳にはいかない。最善を尽くすのみだと覚悟を決めたのだった。


「アレン、お疲れ様」

 その日の夕食、クレアが優しげな表情でそう言ってきた。初めてのゴブリンとの戦いで、アレンが心身共に疲れているのを承知していたのだ。伊達に長い付き合いではない。

「ありがとう。確かに疲れた。骨と肉を断つ感触、派手に上がる血しぶき、正直に言って怖かった。魔物の討伐ではこんなことは思わなかったけど、魔族とは言え、命を奪うことはやっぱり恐ろしいよ」

「それはそうだよね。私も戦ってて、魔物とは違う怖さを感じたわ」

 魔法の楯でゴブリンの攻撃を防ぐだけだが、魔物相手と違ってこちらを倒そうとする意志を感じるのだ。それに気持ちで打ち勝たねば、倒されるのは自分の方になる。負けない意志の力が必要で、その分疲労感も増す。

「相手は魔族だ。放っておけば何人もの人達の命が危ない。僕はそんな人達を守るため、力を付けて勇者と呼ばれるほどになりたいと願った。だから、こんなことで負けるわけにはいかない。いかないんだけど、まだまだ覚悟が足りないみたいだ」

 クレアにはアレンの悩みが深く理解できた。誰でも本能的に戦いを恐れることはある。アレンのその部分が、決意を鈍らせているのだった。そして、そんな自分を不甲斐なく思っていることも。

「でもさ、アレン。私のことは絶対守ってくれるでしょ」

「うん。それはもちろんだ」

「村の人達のことも守ってあげようとしてるよね」

「そうだね。ゴブリン達から守り通さなきゃとは思ってる」

「なら守って。私を、そして村の人達を。アレンにはその力がある。ゴブリン達と戦える力があるのは紛れもない事実なんだから」

 アレンがふうと深く息を吐いた。全くクレアの言う通りだと思った。だから、斥候のゴブリンを倒すことができたし、奇襲の時も迷うことなく倒している。

「そうだよね。僕には戦う力があるんだ。弱い気持ちに負けずに、みんなを守るために頑張って戦うよ」

 まだアレンの心には弱気なところもある。でも、それを乗り越えて、戦ってみせると改めて決意することができた。

「ありがとう、クレア。何かすっきりした」

「うん。たまには弱音を吐くことも大事だよね。だけど、アレンにはそれを乗り越える強さがあるって信じてる。絶対この村を守ろうね。私も一緒に戦うから」

「そうだね。僕も精一杯頑張って戦うよ」

 クレアの応援をもらって、アレンは新たな決意をするのだった。

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