第15話 冷たい拒絶
翌日、
宿で一晩休んだ私たちは、再び旅を続けた。
砂漠の朝は、冷たい。
でも、太陽が昇るにつれて、熱が増していく。
そして――
カルナード王国の城門が、目の前に現れた。
巨大な砂漠の城。
太陽の光を受けて、金色に輝いている。
城壁は砂岩で造られていて、まるで砂漠そのものが形を成したかのようだ。
城壁は高く、まるで砂漠を支配するかのように聳え立っている。
塔の先端には、カルナード王国の旗が風になびいている。
砂漠の太陽の紋章。
私は、息を呑んだ。
「すごい……」
ニーヴが、私の肩の上で、尻尾を揺らしながら呟く。
「デカいな……でも、俺様の方がカッコいいけどな」
アラン兄様が、呆れた顔でニーヴを見た。
「……比較対象がおかしい」
2人のやり取りに全員が、苦笑する。
少し、緊張が和らいだ。
馬車が、城門に近づいていく。
砂を踏む音が、静かに響く。
車輪が、砂の上を転がる音が大きくなっていく。
城門の影が、私たちを覆った。
でも――
城門の前で、兵士は槍を交差させた。
カチャリと、金属が触れ合う音がした。
「止まれ!」
心臓が、跳ね上がる。
馬車が、急停止した。
御者が、手綱を引く音がし、
馬が、いななく。
アラン兄様が、馬車から降りて、一歩前に出る。
砂を踏みしめる乾いた音が響いた。
「我々は、ヴェルディナ女王リディア陛下の使節だ」
兵士が、冷たい目で私たちを見る。
槍を握る手は、微動だにしない。
「知っている。だが、通すわけにはいかない」
レオ様が、馬車から降りて、剣に手をかけながら問う。
「なぜだ? 我々は正式な使者だ」
兵士が、表情を変えずに答えた。
「ファリード様の命令だ」
「『ヴェルディナ女王の入国を禁ずる』」
全員が、驚く。
私も、馬車から降りた。
砂が、足元で音を立てる。
サリアが、信じられないという顔で私にささやいた。
「そんな……! 以前、七国会議でお会いになったはずでは……」
兵士は、続けた。
声は、砂漠の風のように冷たかった。
「ファリード様は、『もう会う必要はない』とのことだ」
私は、青ざめた。
太陽が照りつけているのに、体が冷たくなる。
(ファリード様……あの時、七国会議でお会いした第4王子……)
レオ様が、怒りを抑えて
でも、声は低く、静かに怒りを秘めながら伝える。
「我々は、重要な話がある。ファリード様に会わせてもらいたい」
兵士が、首を横に振る。
槍が、太陽の光を反射する。
「無理だ。帰れ」
アラン兄様が、怒りで声を荒げる。
「貴様……!」
剣に手をかける。
剣の柄が、カチャリと音を立てる。
でも、レオ様が止めた。
レオ様の手をアラン兄様の方におきながら嗜める。
「待て、アラン」
ライリー様も、心配そうに
「ここで争っても……」
ルキウス様が、悔しそうに
「でも……このままでは……」
ニーヴが、怒って私の肩から飛び降りる。
白い体が、砂の上に着地する。
「ふざけんな!」
でも――
兵士は、槍を構える。
槍の先端が、ニーヴに向けられる。
「これ以上近づけば、攻撃する」
カトリーナが、私の隣で、小さく、ぼそっと呟いた。
「ひどい……」
その時――
城門が、ゆっくりと開いた。
ギィィィと、金属が軋む音がした。
それは重い扉が、砂の上を擦る音だった。
そして――
一人の青年が、現れた。
逆光で、最初は顔が見えない。
でも、歩いてくる。
砂を踏む、堂々とした足音。
褐色の肌。
金の瞳。
黒い髪が、砂漠の風に揺れている。
砂漠の王子らしい、堂々とした佇まい。
金色の装飾が施された服を着ている。
ファリード・カルナード第4王子。
私は、思わず声を上げた。
「ファリード様……!」
ファリード様が、立ち止まる。
そして、私を見る。
冷たい目だった。
まるで、見知らぬ人を見るような。
金の瞳が、太陽の光を反射している。
そして――
レオ様に視線を移す。
その目は、更に冷たくなった。
「……」
沈黙。
砂漠の風だけが、音を立てている。
私は、一歩前に出た。
砂が、足元で動く。
「ファリード様……以前、七国会議でお会いしました……」
ファリード様が、手を上げて、私の言葉を遮る。
「ああ、覚えている」
私は、少し希望が見えた気がした。
「あれからカルナードでも魔物による被害が増えたと聞きました……」
「七つの国が手を組めば……」
でも――
ファリード様が、冷たく言う。
声は、砂漠の夜のように冷たい。
「それが何だ?」
心臓が、止まりそうになる。
ファリード様が、続ける。
一歩、近づいてくる。
「七つの国が手を組む?」
「その中心に、君たち二人がいる」
もう一歩、近づく。
金の瞳が、私を見下ろしている。
そして――
レオ様を見る。
冷たい、敵意を含んだ目をしていた。
「ヴェルディナとアシュベル。二つの大国が手を組めば、確かに強大な力になる」
「だが、それは他の国にとっては脅威だ」
私は、息を呑んだ。
レオ様が、一歩前に出る。
「ファリード様……それは……」
ファリード様が、冷笑する。
金の瞳が、鋭く光る。
「君たちが結ばれることで、七つの国のバランスが崩れる」
「ヴェルディナとアシュベルが、他の国を支配するつもりか?」
私は、声を震わせながら
「そんな……! 私たちは……」
ファリード様が、私の言葉を遮る。
「七国会議? 七つの国が手を組む?」
冷笑が、深くなる。
「その中心に、君たち二人がいる」
「ヴェルディナとアシュベルの婚姻によって結ばれた二大国が、他の国を従えようとしている」
「そうとしか見えないが?」
レオ様が、怒りを抑えて口を開いた。
「ファリード様! その言い方は……!」
でも、ファリード様は、冷たく続ける。
私だけを、見ている。
冷たい金の瞳で。
「君は、ヴェルディナの女王だ」
ファリード様の声が、砂漠に響く。
「新女王として、まだ何も成し遂げていない」
「それなのに……アシュベルの王太子と結ばれることで、力を得ようとしている」
「それで……世界を守れるのか?」
私は、唇を噛んだ。
胸が、苦しい。
でも、私は下を向かない。
ファリード様を、見つめ続ける。
ファリード様が、冷たく言う。
背を向けて、城門に向かって歩き出す。
「帰れ。君に、七つの国をまとめる資格はない」
「君たちの結婚も、認めない」
私は、必死に懇願する。
「お願いです……話を聞いてください……!」
声が、震えている。
でも、私は前に進む。
ファリード様が、振り返らずに、冷笑する。
その笑みは、砂漠の冷たい夜風のようだった。
「何の話だ? 他の国を支配しようとする女王の戯言など聞く価値もない」
私は、拳を握りしめながら
「七国会議について……です……」
「私たちは……他の国を支配しようとしているわけでは……」
ファリード様が、立ち止まる。
でも、振り返らない。
「七国会議? 断ったはずだが?」
「でも……どうしても……」
ファリード様が、私の言葉を遮る。
今度は、振り返って、
金の瞳が、私を見つめてきた。
「いらない。俺は、君たちのような野心家と手を組む気はない」
「ヴェルディナとアシュベルが結ばれれば、七つの国のバランスは崩れる」
「それを許すわけにはいかない」
アラン兄様が、怒りで声を震わせる。
剣の柄を、握りしめている。
「ファリード様! リディアを侮辱するなら……!」
ファリード様が、アラン兄様を見る。
冷たい目で。
まるで、虫を見るような。
「侮辱? 事実を言っただけだが」
そして、再び私に視線を戻し、
一歩、近づいてきた。
「君は、新女王として、まだ何も成し遂げていない」
もう一歩。
金の瞳が、私の目を見つめる。
「そんな君が……何ができる?」
「アシュベルの力を借りなければ、何もできないのだろう?」
私は、唇を噛んだ。
胸が、苦しい。
でも――
私は、ファリード様を見つめ続ける。
ファリード様が、城門に向かって歩き出す。
その時――
ニーヴが、飛び出した。
「待ちやがれ!」
ファリード様が、立ち止まる。
ニーヴを見る。
「……喋る猫か。奇妙だな」
ニーヴが、尻尾を膨らませて怒った。
「猫じゃねえ! 使い魔だ!」
「お嬢は何も成し遂げてないわけじゃねえ!」
ファリード様が、冷たく言い放つ。
「では、何を成し遂げた?」
「アシュベルの王太子の力を借りて、何かをしたのか?」
ニーヴが、ふてくされる。
「くそっ……!」
ファリード様が、城門に向かって歩いていく。
「帰れ」
「君たちの野心には、付き合えない」
城門が、閉まり始める。
ギィィィと、重い音が再びした。
私は、叫んだ。
「待ってください! お願いです!」
「私たちは……他の国を支配しようとしているわけでは……!」
でも――
城門が、完全に閉まった。
ドンと、重い音が響き、
砂塵が、舞い上がった。
砂漠の風だけが、吹いている。
私たちは、その場に立ち尽くした。
砂の上に。
レオ様が、私の隣に来て手を握ってくれた。
「リディア……」
レオ様の声が、優しい。
私は城門を見つめ続ける。
アラン兄様が、拳を握りしめているのがわかった。
拳が、震えている。
「くそっ……!」
サリアも、悔しそうに城門を見つめている。
ライリー様も。
ルキウス様も。
カトリーナが、小さく、呟いた。
「リディア様は……一生懸命努力されているのに……」
ニーヴは、怒っていた。
「あの野郎……! お嬢の本当の力を見せてやる!」
でも、どうすることもできない。
城門は、閉ざされている。
私は、唇を噛んだ。
砂漠の熱い空気の中で。
太陽が、容赦なく照りつけている。
私の心も、熱くなっていく。
悲しみではなく。
怒りでもなく。
決意が湧き上がっていた。
――私は諦めない――




