プロローグ
「──捕まえたよ、澪里」
背後から声がした瞬間、空気が凍りついた。
「っ……」
バレた
──まさか、このタイミングで……。
彼が家来に命令を出している声が聞こえてくる。
その瞳には、ようやく見つけた喜びと、獲物を目の前にしている獣のような危険さ、そして、触れたらその熱で溶けてしまいそうな執着があった。
(なぜ、私にばっかり執着をするの?)
◇◇◇◇◇◇
ある所に伝説のスパイがいた。
そのスパイは、違う人に変装すればその人になりきる事が出来た。それは他人でも……変装された人でも“私って本物だろうか”と思わす疑ってしまうほどだった。
しかし、そんな伝説のスパイの本名はおろか、顔や性別でさえ知らないと言う人が多かった。
『伝説のスパイは本当に人なのか? まさか妖怪の類ではないのか?』
妖怪と疑う者。
『いやいや、流石に人間だろう。妖怪の訳が無い』
それを馬鹿にする者。
『でも、誰も顔はおろか、どんな人間……実在する人間なのかもわからないのではないか』
作り話だと考える者。
『まさか、伝説だけのものなんじゃないか?』
伝説だと思う者。
スパイの世界では、一日中、その噂話が絶えることはない。
そんな噂をされている伝説のスパイのは澪里と言う。
その本人は現在、仕事をしていた──。




