最終話 生化
「っあれ? なんで。いつもこんな所で絡まれないんだけど?」
君鏡と留理も周りをキョロキョロと見渡した。囲まれている。
物凄い数の旗の種類。物凄い人数だ。
「ナイトイーターさん。待ってたって言ったでしょ。覚悟はいい?」
完全に戦闘モード。いきなりかかってこないのがこの戦場の暗黙の了解。特に、後ろからひっそりと近づいてのシーキューシーなどはない。
背中を切ることも、わざわざ狙ってすることはまずない。
「箱入さん、帳さん、俺の後ろに下がって、ここは俺が絶対に守るから。大丈夫、このランクの相手なら……、ん? どうしたの?」
「平気。床並君、ここは私と帳さ……留理ちゃんで切り抜けるから」
「そうね、私と君鏡ちゃんの二人でいくわ。床並君は見てて」
二人共、手持ちの武器を伸ばしたり変形させて構える。
君鏡は縁から貰った武器とは少し違ったモノを持っている。前は刀型でその先端が外れたが、今持っているのは、長めの杖刀。その先端の鞘を外すと短い剣先が姿を出し、そして外したはずの鞘が、前回の武器同様にカラ竿みたく振り回せるように紐で結ばれていた。
つまり、叩くと同時に突き刺すことも斬りながら叩くことも可能。そして、もう片方の手には、細く二本になった剣、いわゆるソードブレーカー。
斬り刺しすることもできるが、剣と剣の中央で、相手の剣や武器を捉えることが出来るようになっていた。
留理のは一見すると薙刀なのだが、柄の反対側を引き外すと君鏡の使うカラ竿の仕組みになる。つまり留理は両サイドを使いこなすタイプ。
君鏡と留理が自らの武器を振り回し、そしてカッコ良く構えた。
「私が、ナイトイーターこと、箱入君鏡よ。ここで負けるわけにはいかないので。私は床並君と、皆と、この先に進ませてもらうわ」
「私は、帳、留理。表の顔は歌姫、でも、あなた達には本当の姿を見せてあげる。おいで、私と君鏡ちゃんで返り討ちにしてあげる」
ぞわぞわと電気が伝う。ハッタリじゃない強気な意思。
しかし、ここは本戦、予選の様なものはいない。
一番下でさえ予選を勝ち抜いた者。勝ち抜いてなおここで進化した者達。
自己紹介が終わり、お互いに啖呵をきると、一斉に戦いが始まった。
激しくぶつかり合う。
もちろん縁は見ているのではなく、降りかかる火の粉を払う。
「二人とも本当に強くなったね」
「うん」
縁に見て欲しくて、会いたくて、追いつきたくて、毎日そう想って、信じて頑張ってきた。
襲い来る無数の敵、ザコなんて一人もいない、それどころかランク四や六辺りの者までうじゃうじゃと居た。
「どうなってんのこれ? まだ入り口だよココ。というより、普段は準備する場所なんだけどな。なんだろこの襲撃?」
ありえないと不思議がる縁。いつものセオリーと違うと。
この連絡は、当然、本部へも連絡がいく。
こういったすべてが、歴史書に記され、刻まれる。
「なんじゃ、こがな出入り口で。どこのガキがやんちゃしとんじゃ。ええかげんにせえよ、まったく」
「ほんまや。他人の迷惑考えな、なっ」
派手な防具や乗り物で、ゆっくりとこの場に近づいてくる。
「おぅ。まさかとは思ったが、はぁよいよ、縁かい。まぁ、よう考えたら、それしかないかあ思うが。にしても、ここで?」
その数人の者達が、口々に驚きを言葉にする。
「ふふっ。俺だってさすがに驚いてますよ。入口ですからね。でも、はじまったもんは仕方がない。実際、今の状況じゃ、戦うしか術がないですからね。ということで、皆さんも……」
「冗談じゃない。初日の、しかも入り口で、なんで縁とやらなアカンのや。こっちは、二日目が本丸で、それを切り抜けれたら最終日に、『尻持ち』の役目することになっとるけん。さすがにこがな犬死は御免するけん」
「逃げるんですか?」
「うん。悪いけど、ワシ等、縁みたく無謀はせん。若くないけん。こんな人数相手に、やんちゃするワケなかろ? 縁、ホンマは困っとるんとちゃうんか? 分かっとるんやぞ、ワシ等巻き込んで、敵の分散したいんやろ~けど、残念やが、そんな都合よくは動かんよ。ただ、うちのボスと同盟組む言うなら、話は別やが、まぁ、どうせいつものよう断るやろ?」
「ええ。断る。でも、逃がさないよ」
「い~や、逃げるよ。無駄な血を流すほど、今の抗争は甘くないでな」
それらは、そういうと、縁達に近寄ることなく、群がる敵を蹴散らしながら立ち去って行った。
「ふぅ~、まずいな。この構図、どうにか散らしたい」
君鏡と留理は、縁のつぶやきを聞きながら、ニッコリと顔を見合わせる。
「大丈夫だよ床並君。私達、足手まといにはならないから、床並君は、自分のことだけを考えて行動して、それなら負けないでしょ?」
「そうはいかないよ。……だって」
縁はそういって群がる敵を見る。
「私達がここまで、どうやって辿りついたか、それを信じて。私、ずっと、床並君の背中を追って、見失っても探して、足跡や手紙の文字をなぞって、ここまで追いかけてきたんだよ」
感極まる君鏡。それに留理も頷く。縁も少し考えて、頷いた。
「分かった。でも……」
揺らぐ不安をグッと抑えて飲み込む。二人を信じて頷いたからには、一応信じた態度だけは見せる。
結局は助けることになるかもしれないが、それでも信じるしかないと。
入り乱れる交戦だが、狙われているのは三人のみで、群がる他の者達は、敵同士なのにもかかわらず、戦いにはなっていない。
完全に標的を決めての一斉攻撃。
これではさすがに堪らない。本部やホテルのモニター室では、いきなり始まった大騒動に、大物たちが釘付けになりだす。
予選大会で、寧結が起こした奇襲乱舞と同様で、祭りの最初で、いきなり八尺玉の特大花火がドカンドカンと打ち上っている。
徐々に盛り上がる演出構成もあったもんじゃない。
縁は戦いながらも、君鏡の踊る残像を見ていた。初めて出会ったあの日の君が、今も傍で寄り添ってくれているのはなぜと。
閉じ込められた部屋に、天の使いとして舞い降りた天使……。引きこもった孤独な者を救うささやかな出来事。
願いなんて届かない世の中で、まるで嘆きの声が天に届いたような。
男女に関係なく、同じように孤独の殻に閉じこもったモノならば、このささいな奇跡が、どれほど自分を変えてくれるか想像できるはず。
だって、それさえ起きてくれはしないから……。
君鏡は、水面を跳ねるバレリーナのように舞う。
かつて部活で覚えた軽やかなステップ、トランポリンで弾むように、また、馬飛びでピョンピョンと飛び越えていくように、群がる敵の波を飛び越える。
軽やかなのは下半身のステップだけではなく、荒く激しく襲い来る攻撃を、天女が羽衣や長くたなびく振袖で舞いいなすように、敵の勢いを攻防する。
まるで風見鶏。
どんな暴風が吹きつけても、クルクルと武器を回しながら身をひるがえす。
その腕のしなりや滑らかな動作が、羽衣や、新体操のリボンのようにたなびいて見えるのは残像だが、リアルに感じる。
ある程度はしなるとはいえ、固い武器がそんな風に見えるはずはないと、科学的な観点から言いたいが、これは比喩ではなく、たとえでもない。
そう見えているのだ。
しいて例を挙げるなら、親指と人差し指にペンを挟んで、優しくフリフリした時に見える不思議な現象と一緒、と言える。
つまり残像。
何度も縁から教わった、全身の力を抜いた動作。ただ素早く動くだけに集中し、パワーや疲労の一切を、あえてかからないようにする練習。
『無駄な意識はいらないよ、それよりも、動かすという意識、更に、先端や付け根とか、体の節々にあたるポイントを、その時必要なバランスに応じて意識する』
世に出回る、スポーツ学や格闘セオリーとは違う、むしろ相反する技術。
筋肉? 野生の生き物の手足を触ったことは? 見たことは?
筋肉ではなく、骨と筋、体のバランス、重力を利用した角度と動作。
なぜ、頭を振り、しっぽを回し、体を傾けるのか?
次元の違う君鏡の残像が、敵の間を次々に通り抜ける。先ほども言ったが、波を飛び越え、風をすり抜ける。
モニター室では『これが【騎士喰い】と名付けられた少女』とよだれを垂らす。
本戦初参加。ランクは一。
これまでにスポーツ経験も格闘技経験もない、ただの少女。データのどこを見ても、ありえない存在。
縁の教えを全身に纏い、この戦場に咲いた花。
約三年、無駄なく高濃度に縁色に染まった純白の天使。
今の君鏡が、あの夏合宿の時の堤と戦ったら……、想像するだけで悶絶する。
それを、あの頃の剣道部や進卵学園の生徒達が見たら、きっと初めて縁を見た時の衝撃を受けるだろう。
そしてその誰もが言う。どうせ嘘で、漫画や小説の作り話だろと。
もしいつか、俗に言うスーパーキッズなる子達が、テレビで特集されたら、次は意識して見て欲しい。
それがどんな分野でも構わない。
それが、寧結の本質であり、君鏡の成長の軌跡なのだと。
だって、その子たちはまだ幼く、練習時間も、持ち合わせる体も、筋肉も体力も、経験も、人生においてなんら特別なハンデなど持ち合わせてないのだから。
むしろ、負のハンデをしょっていると言ってもおかしくない。
それらにあるのは、ただ夢中に、一生懸命に、だけ。
それぞれ理由は違うだろう。親に無理やり押し付けられて、という可哀そうな子もいるかもしれない。ただ、そういう裏や闇があったとしても、覚えた技や知識がすべて嘘だと片付けてはならない。
形霧達がかつて感じたように、自分には無理と言い訳してはならない。
思うことはただ一つ『こんな自分でもやればできる』それが答えなのだ。
防御が九で、隙を突いての攻撃が一で、群がる敵を次々に倒していく。
震えが来るほどに美しい舞い。
君鏡も、縁の姿を追いかけることに一生懸命で、夢中だった。
幼い子が、パパの後を追いかけるように、途中で転んでは泣いて、それでも立ち上がって大好きな背中を追いかける。
姿が見えなくなって、迷子にもなって、寂しくって……、こんな時代なのに電話もメールも繋がらない。それでも、この夜空に浮かぶ月鏡で繋がっていると信じて、歩み続けた。
――それが、君鏡の信念。
大気がうねるような争いの中、一人の少女が君鏡の前へと飛び出してきた。
「ちょっと、どいて。私はこの子に用があるのよ」
その声に、君鏡は他の敵から視線を向ける。
「ようやくこの時が来た。大分待ったよ。二年だよ。ねぇ、私と一対一やってくれるでしょ?」
その台詞に、周りの者達の動きが徐々に静止し、波紋が広がるように伝う。
戦い疲れていることもあって、皆が止まった。そして君鏡を中心に輪が広がり、人のリングができていく。
「私のこと覚えてる? 覚えてないか……」
舞い踊る天女の残像から、ゆっくりと本当の姿が現れる。
「覚えてるよ。予選大会の時、私が初めて一対一の勝負した相手だから。ここ本戦ランク四の、高壁望さんだよね」
「よかった覚えててくれて。でも、今の私は、ランク六よ。本当は八まで上げて、自分専用改良武器を手に入れておきたかったけど、まさか、六エリアにあんな悪ガキが居るとは思ってなくて……。予定はオジャン。上手くいかないものね」
見つめ合う高壁と君鏡。
君鏡は、高壁のこの二年という歳月を考える。自分との復讐を果たす為に、その目的をただ遂行することにどれほどの時間を費やしたのかを。
「悪いけどマジで勝たせてもらうわ。もう、あんな悔しい思いはしたくないから。あの時はあなたを随分ナメて、痛い目をみたいたけど。バカよね、自分でも反省したわ。でももぅその傲りはない。それに今度は、あなたが挑戦される番よ、私は、たとえランク六でも、下からの貪欲に狙うチャレンジャーだから。知らないでしょうね、新人で、いつ負けてもさほど害もないあなたには、プレッシャーなんて」
色々な経験と、挫折を知った本物のチャレンジャー。そこに虚言はない。
「そう思う? なら、またあなたの負けね」
「なぜ? 私は今日まで一対一では負け知らずよ。あの日からずっとそう。あなたに勝つまで必死に研ぎ澄ました技もあるわ」
「私、再戦されるの、初めてじゃないの。強い意志と絶対に負けられないプライドを懸けて乗り込んできた人がいた。その人は、小さな頃からずっと剣道が好きで、一生懸命にその道を極める為、自分自身に打ち勝つ為のまっすぐな道を歩んでて、相手に敬意を持って、親やおじいちゃん、道場の師範、高校の先生、色々な人達に教えて貰ったことを信じて高みを目指してて。でも、私が北海道で、その子を倒してしまった……」
練習試合を申し込んでも、進卵学園の顧問がそれをまともに受けるわけもなく、生徒達も、剣道のことはよく知らない。
むしろ、違い過ぎて交わらない方がいいと。
そんなだから、当然、何もかもを断り拒絶していた。そんな中、お小遣いを貯め、意を決して東京まで一人訪ねてきた。
その顔は何かに取り憑かれたようで、ひどく心を病んでいた。
必死に事情を話し懇願する。一歩間違えば道場破りだが、それは、君鏡側が拒み続けていたからで、態度も姿勢もまるっきり別物。
話し合いの結果、剣道のルールが分からなくてもいいのならと、特別な異種格闘ルールで手合わせとなった。
北海道での試合ではまるで気づけなかったが、とんでもなく綺麗な蹲踞姿勢。
泣き出しそうに震え怯える剣先が、どんどん礼儀正しさと共に静かな水面に変わり、耳の中に自分の体内音だけが鼓動していく。
圧倒的に高まるオーラ。
君鏡は、その内から溢れ来る相手の殺気に、気圧されそうだった。
『始め』の合図で、爆発した相手が君鏡へと、目にも止まらぬ一撃を仕掛けた。
一歩ではなく、袴で見えない足首とふくらはぎが、床を二度跳ねた。
とんでもない間合いを一瞬で詰め、君鏡のノー防具の頭をかち割りにきた。
殺す気の一撃。
だが、どんなに素早い攻撃でも、一本の竹刀では、残念ながら君鏡には見切られてしまう。
君鏡は、練習したてのソードブレイカーを試すべく、剣と竹刀を重ねゆく。剣道の達人の一撃でも、見切れていれば竹刀を触れ合わすのはさほど難しくはない。
が、君鏡が合わせにいったその剣の数センチ前で、竹刀がふわりと軌道を変えて視界から消えた。
次の瞬間「胴ぅ、うりゃ、りぃやー」という叫び声と、物凄い竹刀の弾ける音がした。
そして敵は君鏡の横を遥か遠くに通り抜けて、また君鏡へと向き直っている。
室巣も葉坂もあまりのそれに青ざめていた。あの君鏡が……と。
しかし。
「ほんと、化け物みたい。また震えてきちゃった」
君鏡は、見失った竹刀がどうくるかを感覚だけで読み、攻撃用のそれでどうにか胴を防いだ。
「今のが避けられるなんて、あるわけないのに、どうして? 見えたの?」
「いえ。その技に似た剣捌きする先輩がいて、裏画先輩っていうんですけど、いつも濱野先輩と、変化させるのはずるいって口論になるほど得意技で、しょっちゅう喧嘩してて。それ、裏画先輩がどうしても濱野先輩を倒したくて必死に編み出したフェイント技の一つなの。で、それを編み出すお手伝いしてたのが、私ってこと」
普通に話していたはずが、突然、喉元を押さえて座り込んだ。
「大丈夫? 少し深く入っちゃったかも。まさか通り過ぎると思わなかったから」
「うん。大丈夫。でも、すごく重い衝撃だった。これ……負けだよね?」
一応、と頷く君鏡。
胴切りで通り抜けるその首を、防御用のソードブレイカーで、切り裂いていた。腹部をクロス防御しつつ、攻撃を繰り出す、二刀流独特の、斬盾の型。
お互い、礼儀正しくお辞儀をし、試合を終えた。一瞬の交じりで散る勝負。
面を取り、喉をさすりながら君鏡へと質問する。
やはり剣道は……、自分が信じてきた道が間違えていたのかを……。
――ズバリ、弱いのかと。
「弱くないよ。今言った通り、先輩と練習してなかったら、間違いなく負けてた。それどころか、この格好見てくれたら分かると思うけど、大ケガしてると思う」
「でも、私、全然勝てる気がしないわ。箱入さんの底が見えないから、私じゃ何も計れなくて、でも箱入さん側からは、分かるんでしょ?」
君鏡は笑顔で首を横に振る。
「何も分からないわ。ただ、私のしていることと、剣道が全く違うことだってことだけは、はっきりと分かるけど」
「違いって……なに?」
「何もかも。まるで正反対っていっても変じゃないかもね。だって、剣道って、礼儀正しくて相手に敬意や尊重して、なんていえばいいかな、相手を倒すとか勝つことよりも違う拘りがあるみたいで。自分を鍛錬して、なんていうか自分との闘いっていうかさ、よくスポーツ選手とかでもそういう表現する人いるでしょ? 私、前に夏の合宿で、堤って人からそういう心得を色々と教わったの。ほら、あの北海道大会があった年。あの二日くらい前に話してもらって、正直、今もよくは分からないけど、自分のしているものとの違いっていうか、それで何となくそう感じる」
「教えて、具体的にどういう違いなのか。私、聞きたい」
「うん。でもあってるかは分からないよ」
そういって君鏡は、自分の感じることを一つずつ話した。
今の試合で、防具をつけないで真剣勝負ができるかとか。
普段の剣道の試合でもいいが、普段通りの流れでそれをしたら、何が変わるのかということ。
敵を倒すためではない。表向きはそうだが、なら何?
防具を外したら、大ケガするし、真剣勝負なら文字通り『死』が付きまとう。
そんな過酷な状況の勝負で、何にこだわり、何を極める?
何を信じて、何の為に戦う?
「私は、自分と自分の大好きな人を守るためになら、相手を倒すよ。もちろん相手に敬意や尊敬、礼儀だって持つべきだって思ってるし、そうしたいとも思うけど、でも、剣道のそれとはたぶん、いえ、ぜんぜん意味が違うと思う」
「……うん。なんとなく、私が教わってきたことと違うってわかる。私に対してちゃんと接してくれるし、バカにもしてないのもわかるけど、確かに、違う」
「敵を倒す。しっかりと想像をしつつ、やるかやられるかの真剣勝負。後ろから切ったり不意打ちみたいな卑怯なことはしないけど、それ以外は現実のように生き残るための生存競争。どっちが強いか、生き残るか。だから、審判なんていらないの、全部自分が分かるから。あなたもさっき分かったんでしょ?」
「ええ。ちゃんと感じた。この日のためにずっと真剣勝負の練習して、あの日のホテルでの一部始終の光景と、色々な言葉やセリフを思い出して練習してきた」
確かに真剣勝負だった。負ければ『死』の命がけの一太刀。
可愛らしい女子高生がする話じゃない。どうせ答えは分からないし、正解は出ないのだから。武士やお侍さんじゃないのだから。
それでも話し続ける。
「ねぇ、今の試合の勉強会しよっか」
「ん?」
「私達、戦い終わったら、その技や試合の流れなんかの話し合いやお互いの対策を話し合うの。ゆっくりと動いて太刀筋を見たり、同じ速度で試してみたり、色々と勉強になるから。それと、もしだけど、まだ東京に居るなら、帰るまで練習しにおいでよ、せっかくお金貯めてきたんだし」
「いいの? ぜひ。もしかしたら今日も断れると思って、四泊はする気できたの、でも一緒に練習できるなら、一週間くらい頑張っちゃおうかな。お母さんに聞いてみないと分からないけど。でも私、お邪魔していいの? 部活の邪魔じゃない?」
「平気だよ。……でもね、言いづらいんだけど、色々あって、この夏休みまでで、剣道部は休部になるんだ。事情は複雑で説明できないんだけどね」
「そっかぁ。そうなんだ。うん、なら私はギリギリ間に合って、良かった。しかも練習までみてくれるなんてツイてる。泣きながら練習してきてよかった~」
微笑む二人。お互いに理由も目指す道も違うが、共に練習することになった。
「リベンジの重みなら知ってるし、負けられない理由ならある。新人だからここで簡単に負けてもいいと私が思っていると思うなら、あなたは私には届かないわよ」
君鏡は、目の前で威圧する高壁を見る。
縁に会うためにここまできた。それはお家からお船に乗って来たという交通手段ではなく、初めてプリント類を届けた日から、孤独の殻から産化するために、長い時間をかけてここへと辿り着いた。本当に長い道のり。
大抵の者は、物語の最初の数行を見て、最終話の結末まで飛ばし読みし、何かを知ろうと、いや、それだけですべてを分かった気で判断する。
つかみ? オチ?
まるでキセルやハリボテ。
本当のことはそこにはない。人は生まれてから死ぬまで終わらない物語がある。
重要なのは、誰にだってある中身、歩みだ。
君鏡は、日野とも縁とも引き裂かれた。今だってそう、ここで負けるということは、一緒にこの先へと進めなくなる。いつも試される罰ゲーム。
作られたエンタメなんていらない。
人生が残酷なのは充分知ってる。負けは『別れ』で『悲劇』だと。
「高壁さん。あなたが背負うプライドより、私の想いがどれほど重いか見せてあげるわ。ここまでどうやって歩いてきたかの軌跡を、その心に刻んであげる」
「いいわ。そうこなくちゃ。私のこの二年とあなたの背負うモノ、そのどちらが生き残るか、全身全霊で勝負よ。私は、ランク六。高壁望。敗北の傷を癒すために、あなたを倒しにきたわ」
復讐、報復、仕返し。怨恨、嫉妬、憎悪。あらゆる遺恨がほとばしる。
「私は、箱入君鏡。ランクは一。あなたには決して分からない、真っ暗で孤独の場所から、死ぬ気で飛び出してきたの。誰もいない、何もない、交わす言葉も。退屈だって勘違いしてた。でも、ある人が、自らの体験をもとに教えてくれた。それは『退屈』じゃなくて『寂しい』んだよって。他にも、色々なことを教えてくれた。導いてくれた。私、負けられない。だから……返り討ちにしてあげる」
本に憧れ、かぶれ、夢見て、泣いて、全身で願って、明日を信じた。
闇に射した光に誓った想い、こんなにもダメな自分でも……戦うと。
他人の目、他人の言葉、虐め、見下し、何もかもが怖くて逃げたいけど、怖いんだけど……。なりたい自分がある。
周りの者達がざわつく。二人のありえない殺気に、息をのむ。
いつ始まってもおかしくない間合いで、二人の気迫が熱を帯びる。
と、高壁の持つ異様に長い棒を、突然、変化させた。
「なっ。それって」縁が少し焦る。
一本の棒が、三つに分かれた。ねじり外した関節部は、丈夫なワイヤーで繋がっている。
――いわゆる三節混という特殊な武器。
だが、その武器は、両端が更に外れ、ヌンチャクのような形状になる。五節混とも言うべき、珍しい武器。ただ、普通の五節混と違うのは、すべての長さが均等なタイプではなく、中央が三節混の形状を残した、両端の棒のみの変化形。
「箱入さん、逃げて。ガードはダメだ。避けて、流して」
いきなりの縁の声、それに、とっさに体が動く。
バチンっという音が地面に響き渡り、それを引き寄せた高壁が体回りをグルグルと回す。
君鏡は懐かしい練習風景が脳裏に過る。そんな余裕はないはずなのに、戦いながら指示されるというこの状況が、あの頃の日常を思い出させる。
なおも君鏡は避け続ける。縁の助言を、ボクサーがセコンドの指示を忠実に受けるように、あの頃のように。
避けながら気づく。高壁の操る武器が、今まで出会ったどの敵よりもヤバイものだと。前回対戦した時の薙刀的なそれとは違く、長さも、その質やバリエーションが大化けしてると。
もっと言えば、自分の今持っている、から竿的なそれよりも、遥かに厄介な代物であると。
君鏡のは、長い柄をした杖刀の鞘が、から竿のようになるタイプ。片手だ。もう一方は、防御主体のソードブレイカー。
向こうは、両手に長いヌンチャク、それが時に、一本の鞭のよう伸びてくる。
対処の仕方が分からない。君鏡だから避けているが、正直、留理であったなら、とっくにアウトだった。
いや、ここで見ている多くの者達でも、これに対処できる者は少ない。
それが証拠に、縁もまた、どうアドバイスしていいか困っていた。
「どうしたの箱入さん。これが、今の私よ」
バシバシと地面を叩き、ダブルヌンチャクのようにもなる、かと思えば、三節混独特の演武が入り、時に、一本の棒へと戻って、更に鞭のよう伸びる。
誰もがただ見ているだけしかできない中、君鏡はその弱点を見極め始めていた。
数節混。それは、棒状態で戦うか、三節混にし両手に棒を持ち二刀流的に戦うか、または可動部分を使い、振り回して戦うか、そしてすべての可動部分を解除して、変幻自在に戦うかのいずれか。
君鏡にとって、棒状態は問題ない。次に、三節混でも、練習してきた技から言えば、高壁が操る二刀流より、君鏡がする技の方が、技数も連打数も、フェイントやキレも、リズム変化なども遥かに上回っている。
問題は、見たこともない五節混の対処。
しかし、荒ぶる数節混の捌きに、何度も見え隠れする弱点。
高壁の操るその動きとは、遠心力をもろに使う流れの技、途中で止まることや、クイック、急激なスピードの変化はできないであろうと分かる。
速度を変えるならば、遠心力を保ちつつ、徐々に速度を調節するしかない。
つまり、急激な速度変化やライン切り替えはない。
とはいえ、色々な対処技があるのは、振り回す演武を見ていれば分かる。
なら、どうするか?
縁に注意を受けたが、避けるのではなく、ガードや弾きなどを駆使して、一気に敵の懐へと潜り込むしかない。
今いる間合いでは、いずれやられる。これは敵に有利な距離だ。
やるなのなら、玉砕覚悟で仕掛けるしかない。
結局、君鏡がチャレンジャー。
大縄跳びに飛び込むタイミングを待つように、いや、二本の縄跳びが回るダブルダッチに挑むよう、高壁の動きを読む。
高壁は、水の入ったバケツを回すような遠心力を感じながら、少しでも隙が生まれないような技の繋ぎで、君鏡のギラつく殺気に警戒する。
針の穴を通すような、一瞬のチャンスが見え隠れする。タイミングをしくじれば、縁が注意してくれたように、きっとその威力や破壊力に壊されてしまう。
でも、これしかない。
君鏡は避けながら距離を取り、自分の持つ武器の手元のロックを外した。
すると、短刀のように見えていた剣先、そこから、から竿のようになっていた鞘の、その接続した柄そのものが、すっぽりと抜けた。
と、中から、長刀が姿を見せた。
つまり、本来は長い鞘と長刀の仕込み杖。
その先端の鞘を外して、から竿や槍のように見せていたのだ。
鞘を背中に装着して、完全な二刀流に構える。
から竿状態のままでは、この一発勝負ができないと、そう可能性を手探る
「その構え、懐かしいわね。あれから色々な人と対戦したけど、箱入さん、あなたのそれ、ゾッとするほど完璧だわ」
右手をこめかみの少し上の高さまでもっていき、そこから剣先を斜め下に垂らして、その内側で、左腕の肘を添えるようにして、右腰で居合い抜刀の型をする。
右手には柄も刀も長い武器、左手には防御主体の二又フォクのような刀。
「いくわよ高壁さん」
「ええ。一対一なら、この勝負、私の勝ちよ」
はったりじゃない二人。高壁の強さは、一目見れば分かる。
縁に注意をされなくても、もう、そこに居る誰もが、その技を受けたり避けたりできないと理解している。
すでに速度を速めた状態で、君鏡が何かを仕掛けてくるのを待つ高壁。
君鏡は、ずっとイメージしたタイミングと動きをなぞりながら、ダブルダッチの切れ目と、自分がする動きを重ね合わせる。
と、君鏡が動いた。
高壁はそれに反応し、君鏡めがけて技を繰り出す。
その技の一つ一つをすべて受け流す。普通は、受けきれないような威力のはず、なのに、まるでビリヤードの球がすべてポケットに吸い込まれるような、不思議な流れでラインが弾ける。
皆はその鮮やかなライン跡を見て、驚くしかできない。
高壁と君鏡の攻防は、ギリギリの領域であった。
そして、お互いがボーダーラインで火花を散らす。危険な音がバチバチと鳴り響く中、君鏡がすべてを食い尽くし突破した。
懐まで入った君鏡が、どうすることも出来ない無防備な高壁の、腰から首筋へと斜め上に、左手の抜刀型で切り裂いた。
シーンと静まり返る。誰一人、息さえしていないよう。
「で……できた」自分でもびっくりする君鏡。
全身がじょわりと熱くなる。
一拍おいて、高壁が地面へと崩れ落ちた。と同時に「おおぉ~」と辺り一面に、唸るような驚きの声があがる。
あまりのことに驚く縁、頭が真っ白になりかけながらも、褒める為に歩み寄ろうとした。が、その時、またも刺客が君鏡へと接触する。
しかも、一人じゃない。
次々に一対一を挑み来る。
「ちょっと、私の方が先に出たでしょ」
「私の方が、少しだけ早かったわよ」
いや、ほぼ同時に出たように見える。それほどの間隔でぞろぞろと出てきた。
ここは当然断るべきだが、君鏡は見覚えのある者一人と、ヤバそうな気配を纏う者一人の挑戦を受けた。
寝ぼけ眼でここへと来て、いきなりの大乱闘、そして高壁望との一対一。
更に二人もバトルを追加した。
取り囲まれてから、すでに二十分ほど戦い続けている。
「大丈夫? 箱入さん」縁が心配して駆け寄った。
「うん。平気」
しかし、マスクのシールド越しに透ける瞳は、見開き潤んでいる。
全身をドクドクと血が走り、脈が皮膚を突き上げ、ムズムズとくすぐったい刺激が体中を支配していく。
(どうしよう。なんか体が……。おかしくなっちゃう)
高ぶる感情、卑猥なほどに熟れていく体。制御不能。
癖になるほどじわじわと、体の芯で狂い咲く。
「箱入さん。ちょっと休んでて」
縁はそう促すと、君鏡へと挑み続く連鎖を断ち切って、もう一度、ごちゃ混ぜの大乱闘を始めた。
縁一人で、君鏡を守り、留理のことも気遣いながら、群がる敵を倒す。
しかし、たった数分の休息で、君鏡は襲い来る敵へと飛び込んだ。
ヘトヘトになりながら踊る君鏡。
(もう、変になっちゃう。こんなに怖いのに、こんなダメな私なのに。これ、本当に、私なの? 床並君のすぐ後ろまで、ついて来ちゃったの?)
首筋、頬、脇の付け根、腰、股関節、膝、足の甲、そのすべてが、くすぐったいほどに痙攣する。堪らない感触にイキそうになる。
(もうダメ、体が、体が、いっちゃいそう)
生き物の生存競争。狩られて、捕食されて死ぬかもしれない刺激と恐怖。逆に、生まれてきた時のような痛みと叫び。
極限まで高揚する体が、自虐する過去の自分を燃やし尽くそうとしていた。
醜く映る鏡を、叩き割る君鏡。
ザコなどいないこの場所で、とっくに限界を越えていた。縁は、君鏡の姿に驚きながら、今にも負けそうな留理を付きっきりで守る。
チラチラと君鏡を見守る、が、心配無用なほど、妖艶な女の舞いで、群がる敵を散らせていく。
しばらく戦っていると、そこに物凄い乱暴な運転の『何か』が近づく。
「どいてぇ~。ひかれちゃうよぅ。知らないよ、どいてぇ」
「ね、寧結ちゃん危なってば、右だよ右」
「何言ってんの? 左、寧結ちゃんは左が好きなんだよね?」
「はあ? 右だもん」
「左ですぅ。そんなことも知らないで友達気取ってるの?」
「ちょっと二人共、ハンドル持つのやめて。私が人をひいてるみたいじゃん」
轢いているというより、吹き飛ばしている。これは反則ではないが、あまりにも無慈悲。もっと上のランク場所で、しかも相手も乗り物に乗っているか、もしくは攻めてきた相手になら分かる。が、この状況は少し違う。
一方的にぶつかっている。
避けない者がイケナイと言えばそうだが、乱暴にぶつかるその光景は相当気の狂った惨劇。交通事故。いや、猟奇的襲撃。
「兄ぃ。ほら、ちゃんと運転できるっしょ? どう?」
「ば、ばかっ。何してんだよ。こんなにいっぱい轢かれちゃってるだろうが、早く止めなさい。ほら、寧結」
「止まれないっていうか、止まりたくないから、そのまま乗り込んで。出来る?」
縁や君鏡たちの周りを、人を吹き飛ばしながらグルグルと回る。まるでドリフトでもしているように砂埃を立てて回る。
「寧結! いい加減にしなさい。人が吹っ飛んじゃってるでしょ」
「だって、止まりたくないんだもん」
とそこに、別のホバーボートが数台攻めてきてぶつかり始めた。
ここへ来る途中に、カーチェイスしてた敵だ。散々ぶつかっておちょくった敵。
直接、ボート同士で戦い始めた。ぶつかりながら周りの者達を蹴散らしていく。
ボートの上では乗組員同士が武器を構えて戦い出した。
「いひぃ~。ヤバイって、アタリがキツイってば、落ちるっつって」
岳が転びそうになりながらどうにか寧結へと近づき、寧結の持つハンドルに手を添えた、そしてゲームで鍛えたテクニックで、一度その場所を離脱して、ボートを安定させた。
「ちょっ岳ぅ。邪魔しないでよぅ。兄ぃ達乗っけるんだからさ。んで私が運転して運ぶの。いつも学校行く時は兄ぃがバイク運転でしょ? だから今日は私」
「うん、それじゃ、縁君が乗ったら、乗ったらね。だってこのままじゃいつまでも乗れないでしょ? まずは、まずはだよ」
仕方なく岳へと譲る寧結。
そして、岳の運転で、縁、君鏡、留理の回収が始まる。
まっすぐ向かうのではなく、円を描きながら徐々に近づく。そして――。
「よし、早く乗って、早く」
いつまでも止まっていられないので、止まったり動いたりを繰り返す。
最初に乗り込んだのは留理。次が縁、そして最後は君鏡。
「さあ箱入さん」
手を伸ばす縁、そしてその手をしっかりと掴む君鏡。引き上げると同時にボートが動きだし、君鏡は縁の胸の中へと引き寄せられた。
「よし、出発だ。このまま一気に中層エリアまで行こう。岳君頼みます」
「おっしゃ、任せとけって」
君鏡は縁の胸に抱かれたまま、全身でイってしまったように、痙攣と疲れと快感に沈んでいく。
身も心もすべてまかせて、ただ背中から伝う愛しいぬくもりだけ、繋いだ手と手の感触と優しさだけを感じながら、縁に包まれて空を見上げていた。
そして、親に抱かれる乳児のように、宙に浮くボートの感覚を味わっていた。
ずっと願っていた夢の入り口に、ようやく辿り着いた。
こんな日が来るなんて、思ってもみなかった。
ただ真っ暗に染まった日々だったから。
泣きながら信じた幸せは、ささやかなこと。
それが少しだけカタチを変えて、今、目の前にある。
仲間、友達、先輩、後輩、恋敵、他にもたくさんの知り合いができた。
それだけで充分……。
ささやかな願いと笑われるかもしれない、けど、初めからずっとそう、寂しくて悲しくて伸ばした手だから。
でも、分かってる、この繋がりでさえ絶対じゃない。
この先、永遠に保証された未来なんてない。
綺麗なものほど、繊細で弱くて、壊れやすいから。
君鏡は、このまま未知の世界へと、新たなる一歩を踏み出すこととなる。
ここから先は、大人達による欲に塗れた異世界。
誰かに見せる為の場所ではなく、客などは要らない。
自分自身の為にひたすら生き抜くのみ。
仕事も恋も、自分探しも、全ての一歩。
かつて、陽の光に背を向け俯いて本を読んでいた少女、でも今、全身の花びらを天にかざし、どこまでも手を伸ばす。届きそうで届かない光。
この先、汚れた雨にずぶ濡れて、迷いの路地で道徳を見失う。
誰も倫理を守らない。何も分からなくなる。
けど、自分さえしっかりと信念を持てば、答えは一つ。目の前に立ち塞がるものは、すべて敵で、たぶん、悪党だ。
つまり、見つめるべき真理は、自分の正しい行い。
ようやく踏み出した一歩。たった一歩。
でも、閉ざした殻から……ちゃんと抜け出した。簡単なんかじゃない。
同じように苦しんでいる者なら分かる、一歩の重み。
生まれる痛み、生きていく恐怖、そして、残酷な現実。
それでもこれから、ここから、自分の本当の物語を書き綴ることになる。
逃げ込んだ世界ではなく、抜け出したその後に待つ世界。
社会になじめない異端の運命を背負いながら、また、普通でありたいと願う。
誰だって人生からは逃げられない。死からだって逃げられない。
ありきたりだが、生きるも死ぬも、――未知の恐怖。
なら、答えは一つ。
「さぁ、人生を始めましょう」
ずっと自らの殻の中から、眺めては夢見ていただけの未来。
そこから覚醒し生化した君鏡は、縁に抱かれたまま、外の世界を眺める。
これで……、皆のように……。
ハッピーバースデイ、君鏡。 ――――おしまい。
最後までお読み頂き、有り難う御座います。
ヒロインが殻から抜け出して、一歩踏み出すだけの話が、ここまで長々となってしまって……。
最終話までお付き合いして頂いた読者様には、感謝申し上げます。
君鏡の影を薄くすることや、学校や物語での存在を消すことには、本当に苦労しました。
でもその薄さこそが、孤独な日常を送る子のリアルな情景かもと、薄めちゃいました。
濱野と裏画に関しても、空気の読めないダメな奴を描くはずが、いつの間にか、二人の魅力にお手上げ状態になってしまって……。コントロールできませんでした。
他にも色々と、散らかった物語の展開になってしまい、申し訳なく感じています。
※本当に、どうもありがとうございました。




