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バースデイ  作者: セキド ワク
44/63

四四話  禁止時候



 門を閉じて、急ぎ足で玄関へと向かう縁。ちゃっかりと留理もついて来ている。縁は、来るなとも帰りなとも言わず、まずは寧結がなんなのかを確認したい。

 鍵を開け玄関に飛び込む。


「ただいま。寧結! どこだ」

「どこってここだよ~。早くおいでよ~」

 二階にあるリビングの方から声がする。縁は急いで靴を脱ぎ階段を駆け上がった。留理は縁の承諾のないまま「お邪魔しま~す」とついていく。と。


「おい、寧結、おまえ何勝手に……えっ? 深内さん? なんで?」

『お帰りなさい』と寧結と深内が声を揃える。笑顔で迎えるその姿は、可愛いエプロンをつけたお嬢さんだ。


「おかえり。あのね。マイマイが料理してくれてるの。マイマイだよ。デジレだよ、デジレのマイマイがだよ。分かる?」

 デジレとは勿論、深内麻衣の所属するアイドルグループ、デジタル・レーヌの略。



「いや、でも、ん? なんで? えっと、……どういうこと」

「マイマイが色々協力してくれたら、お願い聞いてくれるっていうから」

「あ~あ、寧結ちゃんそれ内緒って約束したやつ」

「あそっか。ソゥーリー。マイマイ、サンキュソゥーリー」

 唖然とする縁。その縁の鼻先に良い匂いが漂う。思わずよだれが出てお腹が鳴りそうなそんなおいしい匂い。


 と縁は、急いで台所へと向かい換気扇のスイッチを押した。


「あ、ごめんなさい。気付かなくて。そっか、換気扇使うの忘れてた」

 深内は部屋の煙や匂いの渋滞が緩和されていくのを鼻で感じる。そして、料理を作る時は換気扇なるものを使わないとイケナイのだと知った。


「いや、別に変な意味じゃないよ。なんか凄い熱というか料理臭が充満していて、体調崩したら大変だと思って、それで」


 人間は呼吸して生きている。普段は意識しないが、目には見えないモノにも危険そうなことはある。回避できるものは意識して安全を心がける。

 それが大人のいない床並家での、縁なりのルールだった。

 何が起こるか分からないから。



「もう出来てるから、着替えてきたら」

 まるで彼女や妻の様な台詞。留理は相当驚いている。


 同じクラスでクールに決めてる深内麻衣が、縁の家でエプロン付けて可愛く笑っているのだから……。


 深内も留理の存在に気づきびっくりしていた。

 殆ど学校へもこない売れっ子アーティストが、いきなり床並家に現れた。深内は留理が文化祭の時にした劇場告白も知らない。なのでこの登場は相当な衝撃。

 そして昼間のネクタイプレゼントが浮かぶ、それを受け取ってもらう為に来たのかもと。


 料理を運び終えると寧結と深内が席へとつく。そこへ、着替え終えた縁が戻ってきた。思わずズキュンと来るほどの変貌ぶりに、深内も留理も釘づけになる。


 女性でいうロングなガウチョパンツのようなワイドパンツをはき、胸元が深く開いた薄いタオル地のシャツを羽織っている。バサバサと歩く度に足元でなびく(すそ)。上下共に薄い生地で、下は紺色、上は水色に薄茶色のラインが首回りと肩、袖に入っている。


 ゆったりとした動きから椅子にドサッと座る感じは、学校とは別人の風格。

 これでポケットに手でも入れて背凭れに寄り掛かったら、女性がよだれを垂らしてしまうほどのワイルドボーイだ。

 だが縁はそんな不良な態度はしない。姿勢もイイ。それでも学校での姿とは似ても似つかない。何もかもが大きく感じる。


 縁は端で立っている留理を空いている席へと呼ぶ、……と。



「ちょっと寧結、帳さんの分がないから、用意して」

「嫌だよ。なんで私なの。召使じゃないんだから。ねえマイマイ」

「ふふっ。そうね。寧結ちゃんってやっぱ面白い」

 縁は駄目だこりゃと自分で用意する。テーブルには三人分しか並んでいない。

 仕方なくテーブルのおかずなどを見ながら、同じように用意していく。


「兄ぃ、三人分しかないから、あんまり取らないでよ」

「はぁ? いっぱいあるだろうが」

「それ、おかわりの分だよ。いっぱいあるからおかわりはいっぱいして平気だよ。マイマイが兄ぃが疲れておなかペコペコで帰って来るだろうから、特別にいっぱい作ってくれたんだよ。感謝しなきゃだよね。マイマイの(マイ)だからね」

 子供の台詞は、意地悪という類ではなく、まだ人付き合いを知らない、未熟語。多くの母親は子供のいらぬ言動に「なんかすみません」と代わりに頭をさげる。


 もちろん子育て経験者は「いや、いいのよ子供だからぁ」と未熟語を完全に理解している。が、留理も深内も縁さえもまだ理解できない。

 三人ともまだ、子供だから。



 信じられないおかずの種類と量がある。おかわりいっぱいといっているが、とてもじゃないが、高校生三人と小学生で食べきれる量じゃない。


 悪気があってのセリフじゃないが、それでも寧結は、留理に興味がないのだ。


 寧結にとって留理はただのおばさん、高校一年生相手にまさかと思うが……寧結には、いや萌生やよその子も、この年頃にはそう映る。


 寧結がお姉さんと認識できるのは、自分の好きなアイドルか小学六年生までで、中学生から上は全部おばさん。おっぱいもお尻もデカ過ぎのおばさんとなる。

 不思議だ。


 どんなに綺麗な化粧も髪型もオバサン変換される。つまり今この場で縁が感じる深内と留理の姿と、寧結が感じている二人のそれは全く違う。しかしそのことに、思春期になった三人は、もう気付けてない。

 これは女性という(くく)りではなく、子供目線というジャンルである。



 縁が用意し、留理を導く。


「座って」

 椅子の後ろまで来て、立ち尽くしていた留理、縁がそっと椅子を引いてあげた。

「うん。いいの? それじゃ失礼します」遠慮気味に座る留理。

 気まずい。歓迎されていない邪魔な存在の感じ。

 そんな中、寧結の号令で食べ始めた。

「いただきます」


 雑談しながら食べる。いつも以上に話す寧結だが、いつも話す学校での出来事は話してこない。気になって縁から質問するが言わない。

 それはすでに料理中にマイマイに聞いてもらったからだ。同じ話は面倒だし興味ないのだ。それよりももっと話したいことがある。

 なにせ、大ファンのマイマイがいる。


「今日ね、おかず買う時ね、マイマイとプリクラ撮ったよ。あとね――」止まらないおしゃべり。楽しそうだ。

 縁は寧結の話を(あま)すことなくきちんと聞く。そしてその度に、深内に笑いながらお礼を言う。


 留理は自分の思惑がまったく上手くいかずドギマギする。

 本来なら床並家に入った時点で大勝利なのだがこの敗北感。泣きながら帰ってしまいたい気分だが、そんなことをしたら、縁は深内に一発で落とされてしまう。

 女子ならそれくらい分かる。


 この状況を知れば、縁に気がある者はみな留理を応援する。それは、深内の一人勝ちを防ぐため、どうにか策略をご()(さん)にしたい。


 女子の策略は大抵しくじる、それはライバルが阻止するからだ。上手くいくのはターゲットの競争率がゼロか低い時のみ。縁ほどのケースなら篠崎レベルの策士でも失敗し、策に溺れることになる。


 好きな相手に彼女がいないなら、取り巻きがいないなら、それだけで八十五%は落としたようなもの。余程生理的に合わないなどの理由がなければ、女性のテクでどれ程でも好きにさせることはできる。


 ただし、きちんと階段を上り、戦いに参加している女子の話。


 深内は食べながら留理の存在を邪魔に感じている。思い描いていた策と全然違う時間が流れているのだ。寧結と色々話しながら着々と進めたそれが崩れていく。

 留理の思惑通り、深内もまたディフェンダーに苦戦する。


 縁と寧結とマイマイだけで楽しく食べる晩餐会。想像しただけでも今の状況とは全く違う展開。だが、この折り重なる流れこそ恋愛が一筋縄に行かない証。


 何がどうという邪魔はない。でもうまくいかない。

 ネクタイをプレゼントして、愛を囁いて甘えることも……。家に潜り込んで料理までして、寧結まで味方につけて、それでもすんなりとはいかない。


 ここで悔しくて泣きながら留理が帰るようなタマならどれほど楽か。傷ついたと家で泣いてくれればどれほど助かるか。その逆も同じだ。だが二人共に引かない。譲らない。


 知っているのだ。目の前にいるそれが、愛の矢で縁を射止め、仕留め、虜にするほどのテクを持っている女子だと。



「美味しいね。これね、私が作ったの。あっ、そうだ忘れてた。ちょっと待ってね、兄ぃに特別に作ったのあるから」

 そういうと冷蔵庫へ走り、何かを取って戻ってきた。


 お皿には水餃子のようなワンタンのような、不思議な食べ物が……。

「ねぇ食べてみて、すごくヤバイから。ねえ早くぅ」

「分かったよ。今食べっから、ちょっと待て」

 縁はそういうと、お皿に並べられたそれをお箸でつまむ。プルプルとした感じはワンタンに近い。それを一気に口へと放り込み食べる。


「痛っ。もぐがぁ。いってぇ。なんっ、なんだぁコレ?」

 縁は口から何かを取り出す。とそこには見たことない何かが……。


「っだこれ? 寧結、な~に。歯~折れるゾこれ」

「それねぇ~、よく見て。そう。そうです。わっきょ」

「っつう~。らっきょ? じゃねぇだろコレ。鉄か? 石?」

 縁はひっくり返しながらテーブルへと置く。小さなフィギュアだった。


「わっきょだよ。若月清花ちゃん、知らないのぅ?」

「寧結ちゃんそんなの入れたの? からしとかわさびじゃないの?」

「うん。同じの二つ出たから一個いらないと思って」

 おかずを買う途中で寄った場所で、デジレのガチャガチャをしたのだ。プリクラを撮った時の何枚かに、手に持って映ってもいる。


「おい寧結、死ぬよ。食べれないもの入れちゃダメだろ! マジで歯が折れるかと……ふぅ。それに若月さんって……」そう言って黙る縁。


 縁のそれに深内と留理が笑いを堪える。二人は教室での若月を思い出し、まさか縁に食われてかけているとは夢にも思っていないだろうと。


 残りも食べてとごねる寧結。縁は食べられる物だなと、何度も確認を取りながら一つずつ口へと入れていく。そして吐き出す……どれもキツイ味だ。

 大量の塩爆弾にはさすがにこたえたらしく、シンクへと走り白目をむいてベロを出す。



 子供達だけの食事会がゆっくりと流れ、そして終わる。


「いこうマイマイ。お部屋みしてあげる」

 寧結に手を引かれてその場を立ち去る深内。縁はいつものように食後の片づけを始めた。

 残ったおかずをパックへ移し冷蔵庫へ、野菜系などもジップ付の袋へ入れて野菜室へとしまう。

 お皿や鍋についたカスを洗い流し、二台ある食器洗浄機へ入れていく。一方は、包丁や鍋などのあらゆる調理器具、もう一方は、お皿やお箸などの食器類の物。


 留理は手際の良い慣れた作業を見ていた。なにか手伝いたいのだが、数分もしないうちにさっさとこなしていく。


「床並君ってやっぱすごいね。大変でしょ? 面倒くさくない?」

 素直な気持ちをぶつける留理。

「うん。まぁ、面倒だけど、苦ではないよ。量が少ないし自分の分みたいな感じだから。元から誰かに何かして貰う感覚がないからかな。これが普通」

 淡々とこなし、パッと終えた。


 綺麗に並べられたコップを手に取ると軽くすすぎ、冷蔵庫からメロンソーダの缶ジュースを取り出し注いでいく。注ぎ終えると缶をクシャっと潰して分別用のゴミ箱へと放り込んだ。


「これ、どうぞ」笑顔でコップを差し出す縁。

 留理は綺麗な緑色のそれを受け取る。同い年なのに遥か年上の感じがする。

 何とも不思議な感じ。どう見ても年下のような雰囲気だったのだが……よく見れば背も高いし雰囲気も落ち着いている。

 一体縁のどこが年下に見えていたのだろうか? コロコロと変わる縁の雰囲気に戸惑う。……把握できない。


「おいしい」

「そう。良かった」

「っ、あのさ床並君。ネクタイなんだけど……、あれ、貰ってくれないかな?」

 留理は断れることを承知でいう。どうしても貰って欲しかった。


「うん。欲しい。帳さんがまだプレゼントしてくれるのなら、喜んで受け取るよ」

 あまりのことにビックリする留理。確か誰かが、ネクタイを受け取るということは付き合ってもイイという証的なことを言っていた。もちろん留理はそんな意味など知らないで贈るつもりだったし、今もそれとは別にただ受け取って欲しかった。でも、付き合いたい……とも思っている。


「ホントに? え? もしかしてそれって付き合ってくれるって意味なの?」

「ん? あっ? そういう……ことになるんだっけ? あ……それは……」

「ん~ん、いいの。違うの。別に今は、そんな深い意味じゃなくて、ただこのプレゼントを受け取って欲しいなって。受け取って」

 昼食中に一度突き返されたそれを鞄から取り出す。

 そしてもう一度縁へと手渡した。縁はそれを受け取り「ありがとう」と微笑む。


 留理も縁もホッとしていた。付き合うとか付き合わないとか抜きで、丸く収まったことに心が落ち着く。


 留理は、過去の恩や好きな想いを形として伝えたかった。

 縁は、君鏡へプレゼントした制服と同様の意味で、自分の為にわざわざ買ってきてくれたネクタイをゴミ箱へ捨てさせるようなことはしたくなかったのだ。


 もちろんこれが、まったく見知らぬ者からの贈り物ならば話は別だ。

 父である調介からも、小学校の先生からも「見知らぬ人から物を受け取っては、いけません。何を言われてもついて行ってはいけません」と教わっているし。



 留理は嬉しそうに「それじゃ、このことは二人だけの秘密……かな?」と笑う。

 二人だけの秘密を持つ事で少しだけ興奮する。だが縁は。


「へへっ。秘密か。確かに、学校につけて行ったら噂が立つだろうし、下手するとあの学校は処罰されるもんね。前にさ、文化祭の手伝いをお願いしてるところを、勘違いされて大変だったんだ。今込君にも注意されちゃってさ。でもさ俺、やっぱ学校につけてっちゃうかもしれない。秘密バレちゃうね。でも、嬉しくて皆に見せびらかしたいな。皆にさ『そのネクタイどうしたの?』って聞かれたら、帳さんに貰ったって、本当は大声でいいたいな」

 笑顔で話す縁を見て、留理は縁の幼さの一端を見た。

 これが幼い発想かは分からない。一周回って大人びているとも言える。ただ、縁が考えていることをすれば、いつものように大参事が起こるのは間違いない。


 縁は、災いを自らも手招く資質も秘めているようだ。


 留理は皆に言いたいという縁の言葉にキュンキュンしていた。二人だけの秘密、秘め事だと強引に持っていった自分だが、皆に嬉しそうに自慢する縁を想像すると気がおかしくなる。

 どんなに恥ずかしい気持ちになるだろうと。どれほどの女子が、怒って嫉妬して自分を嫌ってくれるのだろうか。羨ましいとブチ切れてくれるか。

 留理はそんなことを考えながらメロンソーダー飲み干した。



 しばらくすると寧結と深内が戻ってきた。仲良く笑いながらはしゃぐ。


 時刻は七時四十五分。


 縁の感覚ではもう帰宅しないとヤバイ時刻。食事をすれば、普通にこのくらいの時刻になるが、とにかく心配になりだした。


「あのさ、二人共そろそろ帰らないと親に怒られない?」

 縁の問に大丈夫と即答する深内。留理も同じく「平気」という。だが子供の平気ほどダメなものはない。帰りたくない、もっとゲームがしていたい、友達と遊んでいたい、そのすべてを『まだ平気』で片づけてしまう、縁はそれを寧結から嫌というほど学んでいた。


 だからこそ縁は二人の説得にはいる。が、ここで深内が、ありえないことを言い出した。


「床並君がイイって言うならだけど、今日さ、床並君の家に、お泊りしてもいい? ダメ?」

 縁はビックリしてアワアワしている。留理もあまりの状況に困惑。

 寧結だけは深内の腕をフリフリと揺らしながら、その顔を見上げ「ネっ」とアイコンタクトを取る。


「え……。だ、ダメだよもちろん」きっぱり断る縁。


 深内はその予想外の答えにどうしようと焦る。

 そして少し粘る「ダメ?」と可愛く。


 ……予定と違う。


「うん。女の子が男子の家に泊まるのもそうだし、何より親に怒られるでしょ?」

「私、親とかいないから……」

 深内の台詞に一瞬で表情を変え「ごめん、知らなくて、ごめんね」と謝る縁。

 だが深内も「あ、そういう意味じゃなくて、一緒に住んでないって意味。あっ、でも、ウチの親離婚してるし片親だけどね」と、結果的に複雑な家庭ではあった。


 今時は、家庭に問題がない家の割合の方が遥かに少ない。言い換えればそれだけ大人達が勝手気ままにしているという証拠。

 子供が中心であれば、世界はがらりと変わる。他人に求める条件は厳しいのに、それを自らが守る気はない、浅はかな世の中と言えた。


 ――嘘と偽道徳だらけ。


「でもさ、帰らないとまずいよ。家はどこなの? タクシー代出すよ」

 縁が心配するほどは時間的な問題はない。時間的にはまだ早いくらいだ。部活で七時まで残っている者だっているし、その帰り道に軽くコンビニやなにかで腹ごしらえする者だっている。塾に至っては十一時や十二時って子もいる。



「私、家は愛知県、名古屋市だよ」

 そんな遠いのかとぶったまげる縁に「でも今は、事務所が都内に用意した寮で、メンバー数人と暮らしているの」という。ちなみに若月も同じ寮らしい。


「それじゃ、寮の人が心配するしさ、事務所の人も、ネっ。だから」

 かたくなな縁に、どこぞの父親のような頑固さを感じる深内。本来この年頃は、一晩中カラオケで過ごしたり、ちょっとお酒なんかも背伸びして味わったりと悪さし放題のはず。けれど縁はまるで違った。厳しい。


『泊まっていけよ』などというナンパなセリフは期待できない。と、寧結が焦れたように怒りだした。


「兄ぃ? バカなの? マイマイだよ。よく見て。アッよ~く見てみ。マイマイが家にお泊りしてくれるって言ってるんだよ。なに断っちゃってるの? どこの法律でマイマイを追い返そうとしてるの? あのね、よく聞いて――」

 寧結のマシンガンが火を噴き、縁の心と耳を穴だらけにする。あまりのオーバートーク状態に縁もちょっと笑っている。寧結が深内の大ファンとは理解した。


「ダメなものは駄目」

「え? なに聞こえない? 言っとくけどね、マイマイは私の家にお泊りに来たンだからね。なんで勝手に兄ぃが駄目とか言ってるの? ありえないンだよぅ。分かる? もしもし兄ぃ、起きてる? マイマイと私見て、見てよ、どうみても仲良ししてるんですけど。邪魔する気? ないない、ありえな~い、そういう訳だから」

「だ~め。寧結、またそうやってわがまま言って、深内さんが困るだろ。ファンなら困らせないでちゃんと応援してあげなきゃ。俺はそう思うぞ」


「分かった。仕方ない。兄ぃが言うことはちょっとあってるし、私もこれ以上言うのやめるよ、だから兄ぃもね、勝手なことは言わないでね」

「どういうこと? ……分かったの?」

「シィ~。黙って兄ぃ。ここから先、兄ぃや私は駄目。シッ、静かに。ファンは黙って見守って。この先はマイマイが決めるの。ねぇマイマイ、どうしたい?」

「お泊りしたい」即答だ。食い気味で即決。

「決まりね。良かった~。一件落着ぅ」


 この後、縁が何を言っても揺るがない。ビクともしない。まるでぐでんぐでんに酔っぱらったサラリーマンが大横綱に相撲を挑んでいる感じだ。

 何をしようとまったく動かない。



「床並君、私も……泊まってもいいかな?」

「ええっ。だ、だって、だ、め、なんだけど。な。んん~」

 すでに何て答えていいか分からない縁。縁の答えは『ノー』だ。

 しかし寧結と深内に言い負かされとっくに論破されている。男が女性に口で勝てるわけがない。


「私だけ……ダメなの……?」ずる~い声と台詞が縁を襲う。

「だって、その、二十歳じゃないしさ、まだ子供でしょ?」

 縁はもう、親がどうとは言えない。持ち出せる正論が浮かばない。

 ただ、縁のこの論理からすると、篠崎実央はとっくに成人しているからお泊りしてもよしと言うことになる。確かに法的には犯罪となること以外の全てが開放されている。それが成人だ。でも、進卵学園は法律よりは効力がないが、恋愛は禁止、ましてこんなお泊りは一発退学でもおかしくない。これは合宿ではない。

 校則違反だ。


 悩む縁。粘る留理。しくじれと念じる深内。マイマイが泊まると有頂天の寧結。そんな混沌とした中、縁の携帯電話が鳴った。





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