第49話 レインとアルト、そして防蔓の関係
天職・追跡者。
一度記憶した人間や物ならば何処に逃げようと、何処に隠れそうと見つけだす能力。
それが変人種としてシークの二人目の天職だった。
「す、すごいじゃないか、シーク!シークに隠し事は出来そうにないね!」
奈落山はシークのその説明を聞き、驚きの声を上げる。
「んな便利なもんじゃねぇよ!分かるのは方角だけで距離までは分んねぇしな!」
二人共全速力で走っているので大声を出しながら会話をしている。
「そう?それでもすごい能力だと思うけど?」
「リスク負わなきゃ使えない能力とか使いもんにならねぇよ!」
かれこれ十分以上全力で走っているのだが、一向にシャーリー達の姿は見えない。
「それにしても、シャーリーは何処に向かってんだ?確かあっちは闘技場だったはずだが……」
シークの天職が指し示す方角はコキノス組の闘技メンバーが使う闘技場だった。
今日は練習がない為、閉まっているはずだ。
「もしかして、考え直して戻ろうとしているんじゃないかな?」
気合いを入れ直すために、自分の縁が深い場所に行くというのはよくある話だ。
自分が心を折られ、挫折した場所。
そこで一から心を入れ替え、新たに学園生活を始めようとしている。
そう奈落山は推測するがシークは首を横に振り、否定する。
「そりゃねぇな。なら駅のホームを破壊した理由にはならねぇ。仮に故意じゃなかったとしても、それならまず向かうべきは職員室だ」
セントラルは世界で唯一の学園であるため、ここを退学になれば他にいる学園はない。
それ故か、物を壊した程度では学園側から退学を言い渡される事など例え故意であろうと、まずないと言っていい。
だが、何らかのペナルティーはある。
それをシャーリーが分からなかったとは思えない。
「ちっ、ヤベェことになってなきゃいいが……」
追跡者は人であろうと物だろうと関係なく見つけだすことができる。
裏を返せば、生きているのか死んでいるのかは見つけないと分からないということだ。
生きていることを願いながら、シークは全速力で走る。
そんな時だった。
走るシーク達の前方から二人の見知った学生が歩いてくるのが見えた。
「お前ら、そっちにシャーリーは来なかったか?」
挨拶も抜きに突然話しかけられた二人は驚いた顔をするものの、声をかけてきたのがシークだと分かった途端に曇った顔になる。
「……見てねぇよ」
何か気まずいことでもあるのか、レインは目を逸らしながら答える。
「本当かい?まあ私もシークの力だよりでこっちにきてるんだけど、この先って闘技場くらいしかないよね?二人はそんなところで何をしていたのかな?」
レインの行動を訝しんだ奈落山が質問をする。
「お前には関係がないことだ」
「だが、俺には関係のあることだよな?」
レインが素っ気なく奈落山を突き放そうとしたその時、シークが横から口を挟む。
「……お前」
「今、俺らはちょっとやばい状況で切羽詰まってる。シャーリーが突然いなくなってな、追ってみたら誰かと戦ったらしい。お前ら、俺に力を貸してくれねぇか?」
「は?嫌に決まってんだろ」
シークの頼みをレインは即答で拒否する。
「何故だ?」
「分かりきってるだろーが!お前らがシャーリーを追ってるってことは、あのシャーリーが苦戦、もしくは負けるような相手ってことだろ。なら俺らが言っても足手まといにしかならねぇだろ。俺ら、中の上だぞ?」
「でもそれはお前らが本気を出してないからだろ?」
「な……お前、何を……」
レインは目を揺らして動揺する。
「ああいや、すまんが最後のは勘だ。でもあながち間違ってもないだろ?」
「……」
沈黙は固定を意味する。
「んで、取引をしようぜ。もし、俺らについてきてシャーリーを見つけられたのなら、俺はお前が出す書面に質問をすることなく名前を書こう」
「なっ!?」
「何故それをって顔だな。分かってるよ。お前らの俺への用ってのはルームシェア解散同意書だろ?あれは部屋内の全員が許可しないと解散出来ないからな」
「……」
レインとアルトが目に見えて狼狽する。
恐らく、レイン達がここ最近帰りが遅かったのはルームシェアを解散させるにはどうすればいいのか教師に聞くため。
それが何日も続いたのは、まだ始まって二週間足らずしか経っていないため、説得されたから。
でも、二人はどうしてもと教師に再度お願いをした為、今日、やっと書類を貰えたのだろう。
そして、ルームシェアを解散させるにはシークの言った通り、部屋内全員の同意が必要となる。
「分かんねぇな?そんなにコンプレックスかよ、表世界の住人であることくらい」
「何でだ!何で分かった!?」
ついに我慢しきれなくなったレインがシークに問い詰める。
だが、シークは飄々とした様子で続ける。
「最初に怪しいって思ったのはお前が表社会と裏社会の宗教への考え方の違いだ。そしてその後に言ったヴァリエール家のことにお前が疎いこと。ヘリオスに住んでてヴァリエールに疎いなんてことは絶対にあり得ないんだよ」
「……」
「細かい点をあげればきりがないが、確信に至ったのはお前が生徒だけじゃなくて教師までボコボコに出来たことだ。超能力を持たない表世界なら、可能だよな?」
レインとアルトは沈黙する。
「で、どうするよ。表世界の住人であることがバレた以上、学園を去るか?」
「それは……」
「辞められねぇよな?何故なら……お前らはヘリオスに暴力事件を揉み消してもらった『恩』があるからだ」
レインの体が大きく震える。
超能力者から生まれる子どもはほぼ間違いなく超能力者だ。しかし、表世界の超能力を持たない者からも、超能力者は生まれる。
ヘリオスはそんな超能力者を秘密裏に回収している。
その過程で、ヘリオスは表世界のあらゆる権力の中枢にスパイを送り込んでいる。
それを可能にするのは、ヘリオスの歴史が四千年以上続いているのに対し、表世界、地球と呼ばれるその世界で四千年も続いた国など存在しないことだ。
「証拠はねぇ。こんなもんは推測だ。違うっていうなら笑ってもらって構わねぇぞ?」
「「……」」
「俺らに協力してくれんならもう俺はこの事の一切を忘れて、お前の出す書面にもサインをしてやる。だが、協力してくれないんなら俺はお前の出す書面を破り捨て、絶対にサインしない」
シークはレイン達に最後通告を突き付ける。
「……分かったよ。協力する。そしてすっぱり俺らのことは忘れてくれ」
「分かった」
「あっさりだな。流石に少しは考えてくれないと悲しくなるぜ。全く……、ああそれと悪いが防蔓を説得するのも手伝ってくれないか?」
「必要ねぇよ」
「は?」
「防蔓なら、喜んで……いやあいつは喜んだりはしないか。まあとにかくサインを拒否したりはしない。素直に応じてくれるだろうな」
シークの衝撃的な言葉に、レインはとうとう固まってしまう。
「そうか……やっぱりね。彼は僕たちの事、避けてたからね」
固まったレインの代わりにアルトが答える。
「気付いていたか」
「そりゃね。あそこまで露骨に避けられたら流石に気付くよ」
「お、おい!どういう事だ?分かるように説明しろ!」
「彼、僕達が部屋にいるとき、絶対に個室から出ようとはしなかったよね?」
「お前は知らなかっただろうが、防蔓の趣味ってジュース作りなんだってよ。変わってるよな?」
防蔓の趣味はジュース作り。だが、シークは防蔓がそれを行うところを一度しか見たことがなかった。
「決定的なのは……、レイン、気付いてた?彼は一度だって同じコップを使ったりはしなかったよ」
出てくるコップの色が毎日違った。
それは防蔓がレイン達を恐れている証拠だった。
「で、でも……それならシークだって同じだろうが!」
「お前、防蔓に触ったことあるか?」
「そ、それは……」
ないのだ。レインとアルトは防蔓に触ったことは一度もない。
防蔓は飲み物を渡すとき、レイン達には必ずお盆を差し出してコップを取らせていた。
しかし、シークには手渡しだった。
「それが俺とお前らの決定的な違い。お前らは防蔓に信頼されていない」
「……」
「いつまでこんなこと続けるつもりだ?俺みたいに他人の行動をよく見るやつにまた表世界の住人だって事がバレたら解散か?はっきり断言するよ。んなもん一年と経たずに破綻する」
ルームシェアをそんな頻繁に解散させれば、いずれ何処からか噂がたつ。
「人間誰しも隠し事の一つや二つある。だが、お前がそれを恥ずかしく思って無理に隠そうとすんなら、超能力者は誰もお前らを受け入れたりはしない。そんな怪しいやつを信じたりはしない」
「……」
俯くレインに手を差し出しながらシークは言う。
「終わらせようぜ。俺はお前らが表世界の住人だったとしても貶したりはしない。防蔓だって話したらちゃんと分かってくれるはずだ。セントラルは表世界にこれといった確執はないはずだからな」
「……」
レインは恐る恐るシークに手を伸ばし、ゆっくりと、そして力強く握る。
「ほら、アルトも」
「ぼ、僕もかい?」
「当たり前だろうが。お前だけ仲間はずれにはしねぇよ」
「じゃ、じゃあ……」
レインの手の上からアルトが手を被せるように握る。
そしてそんな三人の手の上から、更に手を被せる人間がいた。
「私のこと忘れてないかい?」
「忘れるわけねぇだろ。これで俺らは友達だ。前の確執は綺麗さっぱり忘れろ」
「うん、分かったよ」
「ああ、分かった」
三人が頷いたのを確認したシークは、大きく頷き、手を離しながら闘技場の方に改めて向く。
「よし!じょあだいぶ時間喰っちまったからな。急ぐぞ」
そして四人はそれぞれ走り出す。
その最中、奈落山はシークに一つ、気になった質問をしてみた。
「ねぇシーク。レイン達が今日この後書類を渡してきていたらどうしてたの?」
「あぁ?んなもん破り捨てるに決まってんだろ」
「へぇ、何で?」
シークは少し恥ずかしそうに振り返りながら答える。
「俺は前から二人のことを友達だと思っていたからだよ」




