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ノーリミットアビリティ  作者: 桐地栄人
第二章 挫折の果てに

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第47話 二人目

「ねぇ!シャーリーがいる場所分かってるの!?」


場所も聞かずに突然飛び出したシークに追い付いてきた奈落山が声をかける。


「ああ!ヘリオスに戻るならあそこしかねぇだろ!」


ヘリオスから入ってきた生徒全てに共通する移動手段。

それは駅である。


列車で一日近くかかるのだ。徒歩は論外。

そして列車は始業式前などの生徒が大量に行き来する日以外は、人を乗せるというよりは授業に必要なものや食料など、物資の輸出入が主になる為、日に朝と夕一本づつの計二本しか運行していない。

ここは学園国家であり、何もない日はそれだけ人は来ないし、出て行ったりもしないのだ。


一本目の朝の便は既に運行している。

いつものしょぼくれた顔ながらも授業に出ていたシャーリーが間に合うわけがない。


二本目はあと五分で発車してしまう。

幾らシークの足が速くとも発車してしまった列車には追い付けない。


「飛ばすぞ!」

「分かった!」


数分後ーー。


「はぁはぁ、間に……あったな」


ギリギリだった。

しかし、列車は未だにホームに止まっている。


「ふぅ、そうみたいだね……。でもそれにしても……」


奈落山もすぐに到着したが、訝しげに周りを見回している。


「ああ、人がいねぇ」


駅のホームには誰もいなかったのだ。

物資を搬入する人どころか、その搬入する物資さえない。


「……取り敢えずシャーリーを捜すぞ。俺は列車内を探す。お前はホームの周りを探してくれ。何かあったらすぐ俺を呼べよ?」

「分かった。シークこそ気を付けてね」


奈落山と別れたシークは列車内を散策する。


「誰か!おい、誰かいないのか!」


もしかしたら搬入する物資がないときはこんなものなのかもしれない。

そんな可能性にかけてシークは叫ぶ。

だが帰ってくるのは沈黙ばかりだった。


「……」


発車予定時刻はもう過ぎた。

だが、一向に列車が動く気配がない。そもそもエンジン音がまるでしないのだ。


「シャーリー!いないのか!?誰でもいい、返事をしてくれ!」


願い虚しく、無音のまま先頭車両までついてしまう。


「ちっ、誰もいねぇのか?」


運転席の中を覗き込むが、やはり誰もいなかった。

そんな時だった。


「シーク!ちょっとこっち来て!」


奈落山の呼ぶ声がする。

明らかに声に焦りがあることからして只事ではないだろう。


「今行く!」


少し慌て気味に列車を飛び出して、辺りを見回す。


「こっち!」


声のする方を見ると、ホームの最後尾近くで奈落山が手を上げてシークを呼んでいた。


急いでそちらに行ったシークの目に飛び込んで来たのは、筒状に突き進むように削られたホームの残骸があった。


シークは驚きながらも冷静に状況を調査しようと身を屈めて残骸を確認する。


「やはりか……。シャーリーはここにいた」

「……理由を聞かせてもらってもいいかな?」

「ああ、まずこの抉られた形だ。扇状でも球状でもなくて半筒状に抉られている。これは空間系の能力によくある現象だ」


確かに筒状に地面が抉れている。

しかし、激しい戦闘が起こった時のようなぐちゃぐちゃになっているわけではなかった。


綺麗に押し出すように半筒状に地面を抉り取っていた。


「シャーリーの『空間槍』。あいつがああなる前、俺と戦った時に見せた技だ。そして……防がれたみたいだな」


数十メートル先で不自然に止まっていた。いや、正確には途切れていた、であろう。

何故なら、その十メートル後方からはまた『空間槍』の痕跡があるのだから。


「防がれて、そして連れ去られた。そう考えるのが妥当だろう」

「でも……それだけじゃやったのがシャーリーって確定は出来ないじゃない?」


奈落山は最悪の想定をしたのか、顔を強張らせながら聞いてくる。


「ああその通りだ。もしかしたら単なる事故で、俺らが慌てるようなもんじゃねぇのかも知れん。だが、こういう時は最悪を想定して動く必要がある」


事故だろうと人がいないのはおかしいのだが、万が一事故だったとしたら、失われるのはシーク達が費やすたった数時間という無駄な時間だけだ。

しかし、これが事件だった場合、最悪人が死ぬ。そしてその中にはシャーリーの命も含まれているのだ。


「ちっ、あんまやりたくなかったんだが……。こうなったら仕方がないか」


シャーリーの居場所はわからない。明らかに異様なこの場所に誰もいなくて、そしてシャーリーは駅に行く動機がある。

そしてこの場にシャーリーは居らず、場合によっては命の危険もある。


「なら、使わねぇ手はないよな」


自分自身に語りかける。


「シーク、何をする気?」


シークの異様な気配を敏感に感じ取った奈落山が聞いてくる。


「少し……変人種としての力を解放する」

「それでシャーリーの居場所が分かるの?」

「居場所までは分からん。だが、方角はわかる。それとお前はちょっと離れてろ。失敗して二人目が出てきた時は何をしでかすか分からん」

「う、うん。分かったよ。気を付けてね」

「ああ」


奈落山が十メートル程離れたのを確認したシークは服の上から超能力者にしか存在しない臓器、能力核に手を置く。


「ふぅ……」


シーク自身は二人目の性格をよく知らない。

ただ、過去にジンとヒツジ達がいる前で二人目の能力を知る為に故意に出した時、シークが目覚めた時はガチガチに拘束されボロボロになっていた。

ジンも少し埃を被っており、ヒツジに関しては重傷を負っていた。

曰く、身体能力に優れ、能力に関してはジン達でなければまず間違いなく死んでいた。


後に二人からそう聞かされた。


以降、二人目を出さずに、二人目の能力だけを引き出す訓練に没頭し、なんとか習得はしたものの、うっかり油断すると表に顔を出してくるのだ。


だから、一分一秒が惜しいこの状況でも、自分を無理やり落ち着かせて、息を整える。


(行くぜ?)


自分自身に発破をかけ、意識を自分の内側に潜り込ませて行く。


深い水の底に沈むような感覚。上からは青白い優しい光が溢れてくるのに対し、海の底は真っ暗で何も見えない。


ゆっくりと身を任せ、沈んで行くと、その闇の途中に一人の真っ黒な男がいた。

底に沈むことはなく、さりとて上がってくることもない。

その場に制止したまま動かずにただ浮かんでいた。


静かにその男に触り、深い眠りに入っているその男の眠りを浅くさせる。

もしそれで二人目が起きれば、シークは自分自身の肉体を二人で取り合わなければならない。

そうなれば、数時間、下手をすれば数日の間肉体行動を封じられてしまう。

慎重に、慎重に二人目の意識を覚醒させる。


針の穴に糸を通すような精密な作業。

慎重に慎重を重ねたつもりだった。

しかし、次の瞬間、


「ゴボッ……」


男の口から大きな泡沫が飛び出る。

それは過去にも経験した男が起きる前兆。


(やべぇ!)


即座に手を離し、ゆっくりと男から離れて状況を見守る。


(起きるな!絶対に起きるなよ!)


祈るように見守る。

その願いが通じたのか、先ほどの大きな泡沫の後、しばらくコポコポと小さな泡沫を上げただけでまた男は静まりかえった。


(よし!これでとりあえず大丈夫だろう)


十分、半覚醒状態まで持ってこれた。

これで能力も使えることだろう。


シークは急いで青白い光の下まで泳いで行く。


「ふぅぅぅぅぅ」


意識が覚醒したのを感じたシークはまた大きく深呼吸をする。

それとともに新たに自分に宿った力の鼓動も。


「よし、問題ない。奈落山、オーケーだ」

「……本当に大丈夫かい?」

「今は冗談を言ってる場合じゃないぞ?」

「ご、ごめんね。なんていうか、シークの雰囲気がちょっと……」

「ああ、これか」


いつものシークの雰囲気に合わさって、能力を引き出す代償に二人目の雰囲気も併さっている。

シークの内気ながらも敵意を感じさせない気に、闘争心丸出しの二人目の気が混ざれば、奈落山も警戒するのは仕方がないことだろう。


「安心しろっても無理なことは分かってるよ。だが時間がねぇ。我慢してくれ、頼む」


シークは頭を下げる。嫌なら付いてこなくていい、とはいえない。奈落山が付いてきてくれなければシークが困るのだ。

だから精一杯の誠意で頼み込む。


「……もう、そんな風に頼まれたら嫌って言えないじゃんか」

「……悪りぃな。お前には一緒に来てもらわなきゃ困るんだよ。だからせめて……」

「そういう事は口にしないほうがいいよ。ってこれ、前にも言ったよね」

「ああ、そう言えばそうだな。すま……っ!?」


もう一度謝ろうとしたシークの唇に奈落山の人差し指が当てられる。


「いいよ、手伝う。雰囲気は変わっているけどいつものシークだって分かったからねそれに……」

「それに?」

「う、ううん、何でもない!さ、行こう!」


ほんのりと顔を赤くした奈落山に疑問を持ちながら、シーク達は走り出した。


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