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ノーリミットアビリティ  作者: 桐地栄人
第二章 挫折の果てに

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第35話 説得

「なっ!?む、無理に決まっているだろ!シーク、お前は自分が何を言っているのか分かっているのか?」


それがシークが条件を突きつけた時の彼女の第一声だった。


「分かってるよ。分かっている上で頼んでんだ」

「なら話は早い。無理だ!話は以上か?なら私は帰るぞ!」


どこかで聞いたことがあるセリフを述べて背中を向ける舞華に、シークは決定的な言葉を口にする。


「三年の先輩に知り合いがいる。お前らが断ったとしても、俺は秋沙先輩の下に行くぞ」


その言葉を聞いた瞬間、帰ろうとしていた舞華の足がピタリと止まる。

あの場でヒツジに仲介を頼んだら恐らくは断ったのだろうが、秋沙の時間割くらいなら教えてくれたはずだ。

幾ら国の重要人物とはいえ、学園に通っている以上授業には出席しているし、話しかける事さえ出来ないようなガチガチの警備体制の中にいるわけでもない。


「……なら、何故私達に仲介を頼んだ?」


当然の疑問だ。

シークの口振りでは、まるでこうなる事が予想できたかのようだった。


「筋を通したかったからだ」

「筋、だと?」

「ああ。俺が秋沙先輩の授業の終わりを待ち伏せして会うのは簡単だ。けどそれは邪道だ。お前ら五條院家は他の神憑以上に格式と伝統を大事にすると聞いている。ならやっぱり伝手を頼るっつう成攻法を使うべきだろう?」

「……」


それから暫く、舞華は瞳を閉じる。

そしてそのままポツリと呟くように話しかける。


「……私は、五條院家を愛している。例え汚い手に自分の手を染めるようになったとしても、だ」

「知ってるよ。一族の敵かもしれない俺とわざわざ握手をしようとするくらいだからな」


握手をした後、もしも舞華に何かあれば犯人は背後関係のわからないシークである可能性が高まる。

実際にそうなった時は、彼女は真っ先にシークの名を挙げたであろう。


「……シャーリーをなんとかしたいのはお前と同じだ。しかし、だからと言って彼女の為に一族に害のあるかもしれない存在を近づかせることはできない」

「能力と主に誓って言うが、俺はお前らの敵じゃない。証拠は今は出せねぇ。だから信じてくれとしか言いようがない」


目をチラリと開け、シークの真剣な顔を覗き見る。

そして、とうとう……。


「……ふぅ。先程の条件でのもう。ただし伺いは立ててやるが断られたらそれ以上のことはしない、と言う条件付きで、だ」

「分かった。それで頼む」


真剣な顔で頷いたシークを見て、舞華はもう一度ため息を吐く。


「では、明日、放課後の校庭でやろう。昇華、珊瑚、構わないか?」

「ええ、私は構わないわ」

「私もいいよー」


二人が了承したのを見て、舞華も一つ頷き、シークの方に振り返る。


「と言うことだ。お前も構わないだろ?」

「ああ」

「校庭の使用許可は私がとっておこう。もう夜も深い。私達はこれでお先に失礼する」

「分かった。受けてくれたこと、感謝する」

「ふん、お前の実力はこの前の試合で見た。負けるつもりは毛頭ない」

「戦う以上は勝たせていただきます」

「君の正体、暴かせて貰うからねー」


その言葉を最後に三人は寮内へと戻っていった。

その後ろ姿を見送っていた時、ふと忘れていたことに気づいた。


「……あ、奈落山に許可もらってなかったわ……。まあいいか、明日頼めば……」


そんな締まらない言葉を口にしながらシークも寮へと戻っていった。


次の日ーー。


「いいわけないだろ!」


朝、寮から出ると、そこには既に奈落山が立っており、第一声として言われたのがそれだった。


「悪いとは思っている」

「悪いとは思っている、じゃないよ!何の相談もなしに勝手に決めて!」

「本当に悪かったって思ってるさ。昨日だって舞華と別れた後、あ、やべーって気付いたしな」

「気付いて……どうしたのさ?」

「まあその後は気にせず眠りについたんだけど……いたたたた、ほい!頬っぺたを抓るのはヤメホ!」


笑おうとしたシークを、奈落山はその頬っぺたを抓ることで停止させた。


「本当に反省しているのかな?」

「してるしてる!」


痛がるシークを見て可哀想になったのか、奈落山は渋々手を離す。


「ご、ごめんごめん、ちょっと強かったかも」

「いったー……。いやまあ、俺が悪いから別にいいけどさー」


頬をさすりながらシークはあっさり許す。


「んで、一緒に戦ってくれるのか?」

「うーん、どうしようかなぁ……」

「え、ダメなのか……!?」


正直、断られるとは思っていなかったので、愕然とした顔になる。


「そ、そんな顔しないでよ!ち、違うよ?一緒に戦っても別にいいんだけど……。私としてはシークの実力が見たいって言うのが本音なんだよね」

「いや、見せたろ?本気だっていったじゃんか?」

「うーん、けどあれって私に勝てるギリギリの力しか使ってなかったでしょ?」


やはり奈落山はシークの戦闘スタイルを見抜いていたようだ。

あっさりと確信をついてくる奈落山にシークは複雑な顔をしながら頬をかく。


「ええっとなー、正直に言えば……一対三でも恐らく勝てると思うぜ。だが、それだと負けたあいつらの面子が丸潰れだし、俺も天職を使う必要が出てくる」

「使えばいいんじゃない、って私は思うけどなにか隠したい理由でもあるのかい?」

「むしろ隠していることに意味がある、というか何と言うか……」


言いづらそうに後半ごにょごにょしだしたシークだったが、奈落山は気にしない。


「もしかしてシークの天職って隠密系のものだったりするのかな?」

「ぐっ……流石にわかるか……。まあ当たりだとは言っておこう」

「ふーん隠密系かぁ……。それはあまりバレたくないねー」

「だろ?だから頼むよ。流石にあいつら相手に一対三はキツい」


シークの願いが通じたのか、奈落山は考え込むような顔から一転、笑顔になって大きく頷いた。


「分かった!そう言うことなら協力しよう!」

「助かる!」


憂いを一つ取り除いたシークは、意気揚々と校舎への道のりを歩くのだった。


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