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ノーリミットアビリティ  作者: 桐地栄人
第二章 挫折の果てに

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第33話 あの時一番焦っていたのは……

五月四日分です。

牙條院達を呼び出したシークは一人、寮の裏の壁に寄りかかっていた。

表玄関ほど明るくはないが、夜中でも周りが見えないというほど暗いわけでもない。

もう夜中の八時を回っているため、人通りは全くと言っていいほどないが、それでも何かあればすぐに人が駆けつけるであろう。


牙條院を含め、彼女達はシークを信用していない。

だから、人が通りがなく、暗くもなく、助けを呼べばすぐに人が来る、という場所を選んだ。


それから数分後ーー。


「おーい!」


壁に寄りかかりじっとしていたシークにそんな声がかけられる。

壁から背中を離してそちらを見ると、呑気に手を振りながら歩いて来る珊瑚がいた。

その少し後ろを付いていくように舞華と昇華が歩いて来る。


「待たせて申し訳ない。突然のことだった故……」

「呼び出したのは俺だ。構わなぇよ」

「それでぇ〜、シーク君が私たちを呼び出した理由っていうのは何かな〜?もしかして……告白?」


ニヤニヤしながら下から覗き込むようにしてシークを見る珊瑚。


「違う。お前も聞いているだろうが、シャーリーの事でお前達に頼みたいことがある」

「ふぅーん、てっきりシャーリーの件をダシにして夜這いを企んでると思ったのにぃ。ざぁんねん」

「珊瑚、今のはシークにあまりに失礼よ」

「でもぉ〜」


昇華の注意をのほほんとした言い方で反論する珊瑚の代わりに舞華が一歩前に出る。


「すまない。珊瑚はこういう所がある奴で……」

「怒ってねぇから安心しろ。それに珊瑚、そういうポーズは不要だ。余計な話は抜いて、ちゃっちゃと話を進めようぜ?」

「っ!?」


言葉の途中で遮ったシークの言葉に舞華は驚き、珊瑚は眉を顰めて少し不機嫌な顔をする。


「ポーズって……。私はこれが素なんだけどなぁ?」

「そうか?じゃぁ……」


そう言ってシークは右手を差し出す。


「ん?」

「握手しようぜ?」


その言った瞬間、珊瑚は素人が見ても分かるほど瞳が揺れた。

普段おちゃらけているのと、真面目な場面でもおちゃらけているのとでは全然意味が違う。

シークが珊瑚の演技を見破れたのには訳がある。

昔、スラム街で暮らしていた時、そういうイカサマをしているマフィアを見たことがあったのだ。

とにかく場をかき乱すだけの役を置いて、相手の反応を見たりして、賭け事を自分に有利な方に持って行ったり、ズルをする時のカモフラージュに使ったりするのだ。


「へぇ……一発でこれを見抜けたのは君が初めてだよ。流石一年最強」

「他に九組もあんだぞ?まだ一年で最強かは分かんねぇだろうが」

「いや〜、それが分かっちゃうんだなぁ。私達五條院には」

「ほぉ?」


つまり、それは他の組にも五條院家ゆかりの人間が多数いるということだ。

考えてみれば当たり前のことで、別にコキノス組だけに五條院家が集まっているわけではない。

基本的には、学園に入る前に幼年舎から送られて来たプロフィールを元に、それぞれの組の実力が均等になるように分けられている。


「まあバレちゃった以上、私の出番は終わりかなぁ。あとは舞華に任せっぴー」


そう言うと、一歩下がって状況を見守る役に徹する構えを見せた。


「……流石の洞察力、恐れ入った。非礼は詫びよう」

「いいさ。その代わりこれからは俺の話をちゃんと聞いてほしい」

「了解した」


それから、シークはシャーリーが今の状況になった理由を、ジンやヒツジとの関係に関わることを除いた上で説明し、打開策を教える。


「……それではシャーリー自身が変わらなければ意味がないのではないか?」

「分かってるよ。それはこれから奈落山と考える。だから先にそれからのことをスムーズにいかせるために今お願いしてんだ」

「ふむ……私達の領地では取らぬ狸の皮算用という諺がある。まずはシャーリーを変えてから相談するべきではないのか?」

「シャーリーは変わらなきゃならない。そして、変わった後必ず必要になることだ。なら、先に予約しておいて損はねぇだろ」

「……なるほど。お前の考えはわかった。つまりお前は私達に五條院の伝手で噂を広げてほしいわけだな?」

「そういうことだ」


そこまで言うと、牙條院は少し考え込む。

それも数分のこと。

すぐに顔を上げた牙條院は首を縦ではなく、横に振る。


「無理だな。私達はお前を手伝うことは出来ない」


淡々とした、だけどハッキリとした拒絶だった。


「理由を聞いてもいいか?」

「まず、私達では年上の人間を動かすことは出来ない。知ってるかは分からないが、五條院家は位が同じなら年功序列を重要視している」


ヴァリエール領や他の神憑の家では実力主義の色が強いが、その中で唯一五條院家だけは年功序列の色が強いのだ。


「二つ目はそんな理由で人を動かすことは出来ないと言うことだ。同じヘリオス人とはいえ、な」


これが仮に五條院家所縁の人間だったのならば彼女達は言われるまでもなく動いたはずだ。

シャーリーはヴァリエール側の人間。別に敵対しているわけではない。しかし、わざわざそこまでの根回しに付き合うほどではないのだ。


「次に報酬だ。知っていると思うが、五條院家は神憑達の中でも特に利益を重視している。私達はともかく、他の上級生達に支払う対価はあるのか、ということだ」


ゆっくり一本ずつ指を立てながら舞華は説明する。確かに今、舞華が挙げた条件は考慮して然るべき問題だ。


「いや……それも言い訳だな。私達が本気で頼めば姉様方は動いてくださるだろう」


だがしかし、それ以上の理由が一つある。


「……単刀直入に言おう。私が協力を拒むのは、お前を信用できないからだ」


言い辛いセリフを、舞華は顔を背けることなく言いきる。


「トト家、などという家名など聞いたことがない。なのに、その実力はかの奈落山絶やホロウ家よりも遥かに上だ。そしてヘリオス側から来たにしては、お前のあまりにも情報がなさ過ぎる。最初は表世界の住人かと思っていたよ」


ヘリオスを含めた国は、古き昔に神憑達によって創造された世界だ。

そして、超能力を持たなかったが故に、ノアの大洪水が起きた時、置き去りにされ生き延びた人々。それこそ表世界の住人である。

基本的に表世界の住人達、地球と名付けられたその土地に生きる者達は超能力を使えない。

しかし、遺伝子のイタズラなのか、極僅かの人間は超能力を発現させる事がある。

彼らは、そういった突然変異のような超能力者を回収する組織、十二人の使徒ゾルディックによって回収され、ヘリオス国を通ってこの学園へとやってくる。

舞華達は当初、シークがそのような経緯でここに来ているのだと思っていた。


「しかし、それにしてはお前は知り過ぎているんだ。そしてやはりその強さには疑問が残る」

「いや……結構いい線いってるぜ?悪くない推理だ」

「……」

「それに、知ってたさ。お前達が俺の事を信用していないことくらいな」

「ほぉ?何故か聞いてもいいか?」


シークの予想外の切り返しに、舞華は興味を惹かれる。


「いや、んなもん自明の理だろ。話して初日の奴に握手なんで求めるもんじゃねぇぞ?それに、俺が手を差し出して握手をしたとしても後ろの二人は握手をするつもりはなかったんだろう?」

「ふ……やはり気付かれていたか」

「あの場面で一番焦っていたのは実はお前だったのかもな。遠回しにシャーリーに関わるなって言っているくらいだしな」

「気付いていたのか?」

「いや別に?そうとも取れるな、とは思っていた。そしてお前のさっきの言葉であれはそういう意味だったのか、って確信しただけだ」

「そうか……」


舞華は一息吐く。

すると、舞華の雰囲気ががらりと変わり、肌を刺激するようなピリピリとした空気を纏う。

それは、殺気だ。


次の瞬間、舞華の右手が閃いたかと思うと、亜音速の謎の物体がシークに飛んでくる。

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