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ノーリミットアビリティ  作者: 桐地栄人
第1章 初めての学園生活

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第14話 シャーリーVS牙條院舞華

「いや、仮に俺が不正でここにいて無様に敗北したとしても、死ぬまでにはさすがに忘れているからな」


傲慢なシャーリーの言葉に、シークは冷静に突っ込む。

しかし、そんなシークをシャーリーは哀れみの目で見ながら、


「……可哀想なお前の記憶力に同情してやらんことはないぞ?」

「俺が忘れっぽいわけじゃねぇよ!」

「ふん」


 シャーリーは鼻を鳴らし、二人の様子を横で見ていた奈落山の方に顔を向ける。


「今は貴様ではなく奈落山さんに話をしに来たんだ」

「私に、かい? 用事なら出来れば手短に頼むよ」

「用というよりは頼みごとだ。奈落山さんはこの男と仲がいいようだが……まさか手心を加えたりしまい?」

「何だって?」


 明らかな挑発。こんなのに誰も引っかからないだろ。そう思いながら奈落山を見る。

彼女の表情は変わっていない。だが、その目は少しも笑っていなかった。


(引っかかるのかよ!)


 相変わらず当事者そっちのけで話は進んでいく。


「いやすまない。気に障ったのであれば謝罪しよう。ただ、見せるためだけの試合をされて頭を下げるのは癪だったものでな」


 少し気取ったような態度と、上からの言い方に奈落山の表情が怒りに染まる。


「安心しなよ。手加減するつもりなんて最初からなかったから」

「そうか、それを聞いて安心した」

「シャーリーこそ、さっきの約束忘れないでよ?」

「もちろんだとも。では失礼する。二人の模擬戦闘、楽しみにさせてもらおう」


 そう言うと、シャーリーは踵を返して元いた位置へと戻っていった。


「お前……あんな簡単な挑発に乗るなよ」


 今まで蚊帳の外で見ていたシークが、呆れたように奈落山を諌める。だが、逆に奈落山はシークに詰め寄ってきて間近から睨みつけてくる。


「シークはあそこまで言われて悔しくないのかい?」

「ぜんぜ……すげぇ悔しいです、はい」


全然悔しくないと言おうとしたら、奈落山の後ろに鬼が見えたのでシークは即座に意見を覆す。暫くシークを睨んでいた奈落山だったが、溜息を吐き、硬くなっていた表情を少し軟らかくする。


「はぁ……君は本当に……。カッとなったのは認めるけど、友人をあそこまで馬鹿にされて平然としていられるほど私は大人じゃないんだ」

「いや、まあいいけど……。それとお前、あんま友人って言葉をそんなはっきり言わないでくれ。なんか気恥ずかしくなる」


 真正面から友達と言われると、なんとも形容のし難い気恥ずかしさを感じた。

 そんなシークを見て、奈落山は一歩、近付いていく。


「な、何だ?」


 目と鼻の先にある奈落山の輝くような笑顔に眩しさを感じながら、既に三度も嗅いだ奈落山の匂いが、またもや鼻をくすぐってきた。


「君、もしかして照れているのかい?」

「いや照れてねぇよ!」

「照れているだろう? ほら、顔が赤くなってるじゃないか」

「違ぇって。お前の恥ずかしいセリフに恥ずかしくなっているだけだ」

「何言っているのかわからないなぁ。普段やる気ないとか言っておいて実は構ってほしかったのかな? 可愛いなぁ」

「ち、違ぇから! ちょっ、首に腕かけてくるの止めろ! 頬を突っついてくんのも止めろ」


 シークの弱点を見つけた奈落山は、機を得たりと追い詰めてくる。


「ちょ、胸が当たってるぞ、おい!」

「あっはっはっは」


 奈落山の大きくて軟らかい胸を顔に押し付けられ、シークは困惑する。

しかもそれを指摘しているのに奈落山は笑っているのだ。

周りの生徒達もシーク達を遠めに見ているが介入しようとはしてこない。首をきめられた状態のシークにはもう事態の収拾が付けられなかった。

だが、そんなシークを助けてくれる存在がいた。


「はぁードキドキしました!」


 前を見ると、ちょうど今戦っていた生徒達の模擬戦が終わったところだった。試合を熱心に見ていた防蔓が、額の汗を拭いながら興奮冷めやらぬ状態でシーク達に感想を捲くし立てる。


「初めて見た系統の能力でしたが、本当に凄い能力でしたね! 世界にはあんな凄い能力があったなんて、自分の見識が広がったような……、お二人は何をしているんですか?」


防蔓は純粋な視線を二人に向ける。

 シークと奈落山は防蔓が熱心に見ていた横でじゃれあっていた事が急に恥ずかしくなり、自分の首を絞めている奈落山の腕を軽く叩く。


「いや、なんでもない。おい、いい加減腕を離せ」

「あ、ああ、ごめんごめん」


奈落山はゆっくりと腕を離す。だが、防蔓はその話題からは離れてくれないようだ。


「え、ええっと、何かあったんですか?」


 純粋な目で追求してくる防蔓の視線に居た堪れなくなったシークは、その視線から逃げるように明後日の方向を向く。


「……?」


 防蔓は疑問に首を傾げる。

「癒雲木防蔓! ピリー・ラノス!」

「は、はい!」


 ちょうどその時、フラグマが防蔓の名前を呼ぶ。シーク達はホッとしながら防蔓に激励の言葉を送る。


「頑張れよ!」

「応援してるよ!」

「うん、ありがとう!」


 防蔓は二人の激励を背中に受けて、フラグマの元へ駆け出していった。


 その数分後、結果から言えば防蔓は負けた。


「はぁ、負けちゃったけど楽しかったー」

「お疲れ、ナイスバトル」

「ありがとうございます!」


 防蔓は笑顔で帰ってきた。服は土埃で汚れているが、それほど傷はない。


「能力で体を覆うまではよかったんだけどね。攻撃が率直に言えば雑。子どもが大剣を振り回しているみたいだったよ」

「そ……そうでしたか」

「はっはっはっは!」


 奈落山の率直な感想に防蔓が落ち込み、シークは大笑いしている。

防蔓は模擬戦闘では、ほとんど防御していた。たまに攻撃しても、大振りの広範囲攻撃は相手にかすりさえしていなかった。


「だけど結構時間掛かったな」


 それでも他の生徒とほとんど変わらない時間を戦っていた。全ての試合を見ていたわけではないが、感覚的には同じくらいに思える。


「私はさっきから見ていたけど、能力の強さだけじゃなくて本人の実力も査定にいれているみたいだね。癒雲木君の相手は、生命系と相性の悪い能力だったけどその分、本人の実力は中々高かったよ」

「……なるほど。どっちが勝ってもおかしくないように組まれてるってわけか」

「今回は相性の悪さを上回って、相手の実力が一枚上手だったってことだね」

「ほぇー……」


 防蔓は落ち込むのを忘れて純粋にその言葉に感心している。


「攻撃は素人そのものだったが守りはピカイチだったな。さすが四十位以内に入っているだけあるぜ」

「本当ですか!」

「ああ、攻撃のタイミングや一瞬の駆け引きを学べば、次は勝てるはずだ」

「ありがとうございます!」


 防蔓はシークに感謝を述べて頭を下げる。その横から奈落山が一歩、防蔓に近付く。その顔には何かたくらんでいるような笑みが張り付いていた。


「だから、私達の戦闘を見てそれらを学ぶといいよ!」

「な……!?」

「はい! 是非参考にさせていただきます!」


 訝しく思ったシークが何かを言う前に、防蔓が思いっきり頭を上げて元気よく答える。


「……お前」

「あっはっはっは」


 睨むシークを無視して笑う奈落山の声が、校庭に響いた。


 模擬戦も終盤を迎え、最後から二番目。

 シャーリー・ホロウ対牙條院舞華。

 シャーリーはシークと話していた時とは違い、相手に対してしっかりと敬意を示し、洗練された一礼をする。舞華も敬意を示した一礼を返した。


「両者とも問題ないな。それでは……始め!」


 フラグマの合図と共に二人は同時に動き出す。

舞華は瞬時に前に走り出し、シャーリーは片足を持ち上げると、それをそのまま地面に叩き込む。本来、地面は土とはいえその程度の力でなんとかなるほど柔ではない。

しかしながら、シャーリーの足は勢いを失わないまま地面に埋まっていく。

その瞬間、地震と共に複雑なひび割れを起こす地面。その様はまるでシャーリーの足元に無理やり地面が引っ張られているかのようだった。面積が縮まった地面が一斉に陥没する。


「なに?」


 シャーリーが小さく驚きの声を上げる。その驚きの理由は、舞華がシャーリーの目前まで少しも足を緩めないからだ。

舞華は陥没する地面の位置が見えているかの如く、それに足を捕られることなく疾走を続けている。

 シャーリーは初撃で広範囲系の技を使ったが、舞華はそれを一瞬で攻略してしまったのだ。


「さすがです」


 シャーリーの顔には純粋に楽しそうな笑顔があった。まさか、自分の攻撃がこんなあっさりと破られるとは思っていなかったのだろう。強者として同じ強者と戦えることに喜びを感じているのだ。

 近付いてくる舞華に対し、シャーリーは近接戦闘にも自信があるようで、待ち構える態勢に入っている。

二人の間は即座に縮まり、舞華が放った上段の一撃をシャーリーは自分の木刀であっさりと弾く。

そして、舞華が二撃目を打ち込んでくる前にシャーリーは攻勢に出ようとして舞華に木刀を打ち込むが、舞華は弾かれた木刀を一瞬で自分の下へ戻すと、その攻撃を難なく防いでしまう。そのままの勢いで舞華は二撃目を打ち込んでいく。


「くっ!」


 舞華が木刀を打ち込んだ場所は、今のシャーリーの体勢では最も防御がし辛い場所。

 厳しい表情でシャーリーは防ぐが、そこからは舞華の一方的な攻撃となる。

 三撃目、四撃目と的確にシャーリーの弱点を狙い続ける舞華の攻勢に攻めあぐね、一瞬の判断ミスが命取りとなる防戦を強いられている。


 ギリギリの攻防。

 それを崩したのは舞華の方からだった。右からの打ち払い。

 今までと同じシャーリーの弱点を突いた攻撃を防ごうと木刀を持っていった瞬間、今まで単調だった舞華の攻撃に変化が生まれる。

 舞華は突如木刀の軌道変更し、流れるように左からシャーリーの肩を狙って打ち落す。


「ぐっ!」


 突然の軌道変更に、少し行動が遅れたシャーリーは木刀を持っていた手を振り上げる。


「なっ!」


 今度驚いたのは舞華だ。舞華が驚いた理由は、自分が振り下ろした木刀を、シャーリーは木刀の柄で防いで見せたからだ。

それは、シャーリーがミリ単位のずれも許さない正確な剣の腕を持ち合わせているということだ。自分の手でさえミリ単位で操れる人間などそう多くはない。

しかし、シャーリーはそれを授業で借りた木刀で行う。

 才能だけじゃない。そこに秘められていたのは途方もない努力の結晶だった。

 周りでその攻防を見ていた生徒達からは一気に歓声が沸き起こる。二人の息持つかせぬ攻防は、それほどまでに周りを熱狂させた。


「ほぉー」

「へー」


 その周りの生徒の一人であるシークと奈落山もシャーリー達の戦闘に感嘆の声を上げる。


「今のタイミングで木刀の軌道を変えるのか。すげぇな」

「うーん、今のは流石に私でも引っかかるね。しかも舞華は的確にシャーリーの嫌な部分を突いているよ。あれは能力かな?」

「だろうな。多分、身体強化系の能力だと思うが……どうだろう。ただ目がいいって感じでもなかったんだよなー」

「だとすると……時間系の……未来視、とか?」

「はは、だとしたらすげーな。あの接戦の中、舞華の奴は何回未来を見直したんだ?」


 未来視によって見える未来は決まって未来視の能力者が、未来を見る前の未来だ。

仮に、舞華が未来を見ているのだとしたら、舞華が未来を見て行動を変えたことによって、舞華の行動を見たシャーリーの行動も変わる。即ち、舞華が見た未来が変わるのだ。

 しかし、舞華はシャーリーを圧倒し続けている。単純な剣術であれば、未だ弱点を攻められ続けてなお防ぎ続けられているシャーリーの方が一枚上手のはずだ。

 それでも舞華がシャーリーを圧倒できているのは、舞華が変わった未来を見続けているからである。舞華の未来視の精度、高速で未来を見直すことの出来る連射性、そしてそれを根底から支えている舞華自身の強さ。

どれをとっても一級のものであった。


「それを加えてもシャーリーの方が上手だ」


 シークがそう呟く。

 シャーリー達の戦闘は剣の打ち合いという膠着状態から能力戦へと移り変わっていく。

 舞華の木刀に自分の木刀を強くぶつけると、シャーリーは下がる。同時に地面を揺らして舞華の足止めを兼ねながら。

舞華もシャーリーを追おうと前に出るが、そこに足を捕られシャーリーを追えない。

悔しそうな表情をしながら離れていくシャーリーを見見送った。それは、未来が見えていても防ぐことが出来なかったからだろう。

別の言い方に言い換えれば、シャーリーは未来が見えていたとしても防ぎようがないように、舞華の動きを制限したのだ。

未来が見えることは万能ではない。知っていたとしてもどうしようもないことがある。そこへの道を、戦闘中に組み立てたシャーリーはさすがとしか言いようがない。

 舞華が足を止めた一瞬の内に、シャーリーは十メートル以上の距離を取ってしまう。

 近接戦闘では分が悪いと感じたのだろう。他に意識を向けたら即座にやられてしまうようなギリギリの攻防から逃れられたシャーリーはバックステップで舞華から逃れる。

地面に足がつく度に地面の空間を歪ませ、その副産物として地震と地割れを起こしていく。舞華も、地震と地割れのタイミングが分かっているかのようにシャーリーへの最短距離をひた走った。


 壮絶な戦闘だった。両者一歩も譲らない激戦。生徒達が手に汗を握せ熱い眼差を送る先に、シャーリーと舞華はいた。舞華は地震と地割れをかわしきり、シャーリーに肉薄したのだ。舞華の木刀はシャーリーの木刀を掻い潜り、その首にチェックメイトをかけていた。


 だが……。


「この戦い、引き分けとする!」


 シャーリーの左手、木刀を持っていないその手は舞華の顔に添えられていた。普通の人間であれば相当な握力でもない限り、顔に手を添えられても致命傷には至らない。

しかし、それが超能力者だった場合、顔に手を添えられることは相手が例え子どもであろうと死に直結する致命傷と成り得るのだ。

これが実戦であれば、シャーリーは舞華に首を落とされる前に舞華の頭を潰すことが出来た。逆に、舞華はシャーリーに頭を潰されようとシャーリーの首を刎ねられた。

 即ち引き分けである。

 フラグマが叫ぶのと同時に生徒達からは大きな歓声が響き渡った。シャーリーも額の汗を拭うと、晴れ晴れしい笑顔で舞華に一礼をする。


「素晴らしい戦いだった。模擬戦とは思えぬ気迫、そして私の能力を恐れぬ勇気。流石は牙條院家のご令嬢。感服した」


 舞華もその顔に悔しさをにじませる笑顔を浮かべると、シャーリーと同じように一礼を返す。


「そちらこそかの有名なホロウ家に恥じない戦いであった。感謝する」


 お互いに頭を下げ合う様を遠くから見ていたシークはこう思う。


(あの顔を少しでいいから俺に向けてくれたらな……)


 純粋にそう思う。嫌われるより好かれていたいのは当たり前だ。もしかしたら、彼女は将来の同僚になるかもしれないのだから。


(あとで直接聞いてみるか……)


 教えてくれるかどうか分からないが、聞いてみるのも悪くないだろう。自分の名前が呼ばれる声に返事をしながらそう思った。

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