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ノーリミットアビリティ  作者: 桐地栄人
第1章 初めての学園生活
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第12話 勝つしかないだろ!

「いえ、そもそもこのクラスが学年で上位四十名の集まりというのであれば、彼がここにいること事態が間違っているのではないでしょうか?」


 シャーリーの突然の発言に、フラグマは眉を顰めながら手元に抱えていた出席名簿パラパラと開き、中を確認する。


「いや、間違っておらんぞ。確かに彼、シーク・トトの名前がある。人数もちょうど四十人ぴったりだ。それと、君が彼よりも遅く呼ばれたことの何が不満なのかよく分からんな」

「惚けないでいただきたい! 見ていれば分かります。明らかに強い者が後に残っているではありませんか!」


 取り方によってはこの場にいるものを侮辱するような、普通では言い辛い事もシャーリーははっきりと言う。


「そんなことを言った憶えはないが……。それに、そもそもこの組み合わせの紙は学校側から戴いたものだ。私が作ったわけではない。呼ばれるのが後なのは偶然であろう。先ほども言ったが君達の実力など大して変わらん。君達の戦いの勝敗など能力の相性であっさり変わる。気にし過ぎだ」

「しかし……」

「ホロウ。もうそこら辺でいいだろう」


 なおも食い下がるシャーリーを止めたのは、彼女の横にいた舞華だった。


「トトなどという家名は私も聞いたことがないが、彼が不正でここにいるのかどうかは戦いをみればすぐに分かろう。無様な戦いをして恥を掻くのは本人。それを見てなお許せないのであれば模擬戦後、再度問い質せばいい」


 そこまで舞華が言うと、後ろから珊瑚と昇華も出てくる。


「だけどさぁ……ここまで公然と彼を侮辱したんだよ?」

「もし、シークさんがこの場にいるのにふさわしいだけの実力を見せたのでしたら謝罪の一つも必要だとは私は思いますわ」


 挑発するように腰を屈めて下からシャーリーの目を見る珊瑚。

舞華も睨みつけるようにシャーリーを見ており、昇華も表情は笑顔ではあるがその目はジトリとした視線だった。

三人と、周りの生徒達の三人に同意しまさか嫌とは言わないよなという無言の視線を受けても、シャーリーは背筋を伸ばした堂々とした態度で宣言する。


「いいだろう。もし私が認めるだけの実力を彼が示したのであれば、誠意を持って謝罪しよう」


 ――という光景をシーク達は端から見ていた。


「あれ、どういうことだろうな?」

「……あはは」


 本人のいないところで、よく分からない約束が決まっていた。

首を傾げて質問をするシークに、流石の奈落山も苦笑いを返す。


「というか何であいつらは俺をかばうんだ?」


 シークは五條院の何人かと話をしたことがある。しかし、今目の前にいる三人は少なくともシーク側からは初見だ。

だが、彼女達の姉とは話をしたことがあるので、その時にシークのことを聞いたのかもしれない。


「んー多分、彼女らも君の事を知っているんじゃないかな。コネクション作りの一環とかじゃない?」

「そう……いや、トトなんて家名は聞いたことがないとか言ってたぞ?」

「ああ、そういえばそうだったね。じゃあなんだろ?」

「分からん」


 シークが肩をすくめるのと同時に、生徒達の成り行きを見守っていたフラグマが一段落ついた頃を見計らい、手を叩いて場をまとめる。


「話が纏まったようで何よりだ。では改めて、シーク・トト、奈落山絶」

「はい」

「……」


 奈落山は返事をして、シークは無言で非難の目をフラグマに向ける。しかし、これ以上授業の進行を遅らせるわけにもいかない。しぶしぶ前に出てきたシークは視線と瞬きでフラグマに問い質す。


(おい! シャーリーの暴走止めろよ)

(すまん、そっちで何とかしてくれ)

(いや、あんた教師だろーが。何が纏まったようで何よりだ。何も纏まってねぇよ!)

(悪いと思っている。こういういざこざは正直苦手なんだ)

(それを何とかするのが教師だろ)

(いや、授業の初めからこんなことになるとは……。すまんが、頑張ってくれ。お前の実力なら普段通りにやれば何も問題ない)


 最後には丸投げされ、シークは嫌そうな顔をしながら木刀を一本とって下がっていく。


「では模擬戦のルールを説明する。まずは君達が受け取った木刀を見てほしい。材質は赤樫、まあ何処でも買える普通の木刀だ。君達の勝利条件は三つ」


 一本ずつ指を立てながら説明する。


「一つ目、相手の木刀を破壊すること。二つ目、相手の急所への寸止め。そして三つ目が軽傷以上致命傷未満のダメージを与えること。以上だ」


 その説明の呑み込む様に生徒達は頷く。


「超能力、またそれによって生成された物体の使用は自由とする。木刀を強化するもよし、木刀を使わず自身の能力で生み出された物を使うもよし。ただしその場合も木刀が破壊されれば負けとなるので気をつけるように!」


 それと、と言いながら怖い顔をして生徒達を見回して脅すような低い声で注意を述べる。


「相手へ致命傷を与えるような一撃はご法度だ。私が危険と判断したらすぐさま介入して連行する。その後、厳しい罰が待っているので覚悟するように! 何かここまでで質問がある者はいるか?」


 奈落山が手を上げる。


「木刀の破壊というルールの詳しい定義をお聞きしたい。木刀を粉々にする必要があるのか、それとも折るだけでいいのか」

「うむ、もっともだな。その答えは、木刀を折るだけで構わん。ただ、先っぽがほんの少し折れたり、刀身が欠けたりするくらいであれば続行する。そうだな、半分以上が折れて取れれば破壊と定義させてもらおう」

「わかりました。ありがとうございました」

「他には……ないな。では模擬戦を開始する」


 その号令と共に生徒達が散らばっていった。

 シークは校庭の端っこの方で奈落山と防蔓と共に、他の生徒の模擬戦の様子を見ている。防蔓は両手を硬く握り締め、目の前で行われている能力の応酬を真剣な目つきで見ている。

 奈落山とシークはそれを見ながら、真剣に見ている防蔓の邪魔にならないように少し離れたところで喋る。


「負けられなくなったね」


 ニヤニヤしている奈落山に対して、シークは睨みつける。


「ご、ごめんごめん。怒らせたのであれば謝るよ。だけど、実際負けられなくなっただろう?」

「……はぁ、俺、何も言ってないのに勝手に決められたことだからな。無視だ無視」

「うーん、それはちょっとまずいんじゃないかな?」

「は?」


 奈落山が何を言っているのか分からず聞き返す。


「ほら、周りを見てみなよ」


 奈落山の視線が周りに行き、シークもそれに釣られて周りを見る。

すると、他の生徒達がシークをチラチラと見て自分のペアと、シークが今後どうなるかを話し合っていた。


「……そんなに気になるか?」

「誰も君の事を知らない。家名も聞いたことがない。私の見る限りここにいる生徒達にカオス出身者はいない。ならば、彼らの考える可能性はひとつじゃないかな?」


 奈落山が上げた点を繋ぐと見えてくるもの。


「俺がカオス出身者か疑っている?」

「そう言うことだね。私が彼らと逆の立場だったら同じことを思うし、凄い気になっていたと思うよ。シャーリーの言葉が正しければ、暫定的にコキノス組一年最強を決める戦いに参加しているわけだからね」

「……」


 自分が逆の立場だったらどうだろうか。きっとそれほど気にはしなかっただろう。

機会があれば聞くがなければそれでいい。そう考えたはずだ。

 しかし、だからといって彼らの考えが理解出来ないわけではない。


「そうか……。どうすればいい?大きな声で俺はヘリオス人だって叫ぶか?」

 突然の暴挙に出ようとしたシークを、奈落山が冷静に諌める。


「後で何処で何をしていたのか追求されたら話せるの?」

「ぐっ……」

「ならば、君は彼らが認めるほどの力を見せるしかないだろう? カオス出身者だからと言って差別したりはしないけど、弱者に対する私達の態度は非常に冷たいものだよ」


 超能力者に共通して当てはまることは、強者に対しての敬意を持っているということ。

 彼らは幼い頃より努力し、強くあろうとした。

そしてその努力は実を結び、彼らのほとんどは、初等学校で一番の成績を収めていた者達であろう。

各々が同年代では敵なし、という自負を持ってセントラルに来た。

だが、先ほどシャーリーが全員に聞こえる声で、強い順に呼ばれていると叫んでしまった。

それは彼らの誇りに傷を付けるのと同時に、興味をくすぐるものでもあった。

ホロウ家は知っている。奈落山家は知っている。綺條院家は知っている。法條院家は知っている。牙條院家は知っている。

どの家柄も自分より強い子どもがいても不思議ではない名門。

そんな中、聞いた事もないような家名の人間がいる。彼らの知識で考えられる答えは一つ。謎多き国、カオスの出身者。

見定めようとしているのだ。自分達の中に食い込んでくるカオス出身者の実力を。

しかしながら、シークはカオス出身者ではない。生まれは違うとはいえ、今はヘリオス人だ。


「困ったことになったなぁ……」


 シークが勝てば、彼らはお家の力を結集してシークを調べ上げるであろう。

奈落山に身元がばれている以上、彼らもシークのことを調べようと思えば調べられる可能性がある。

勝ったら一度ジンに会って今後の指針を聞かなければいけない。

 シークが負ければ、彼らはシークのことは調べないだろう。しかし、シークのこれからの学校生活に暗雲が立ち込めるかもしれない。

シークが勝っても負けてもお祭り騒ぎだ。


「……」


 どちらに転がってもシークは壁際に追い込まれる。自分一人だけで終われるという意味では負けた方が利がある。


「結局どうするんだい?」


 沈黙したままのシークに焦れた奈落山が質問をする。


「負け……」

「負けた方がいい、だなんて言ってくれるなよ?」


 言おうとしていた言葉を先に言われ、シークは目を見開いて驚き、奈落山を見つめる。

 奈落山は列車で見たときのような相手を射殺すかのような眼光を、今はシークに向けている。


「君の立場は知っている。だから全力を出せなんて言えない。それでも、本気じゃなかったから負けても仕方ないだなんて言っているような奴を私は軽蔑する。勝負しているんだよ? 勝つ以外の選択肢なんてないだろ!」

「……っ!」


 そこには、シークでさえ背筋を震わせるような気迫があった。だが、その気迫もすぐに消し、フッと顔を柔らかくして笑顔になる。


「何も考えずに本気で勝ちにきなよ。その結果負けたとしても私は君の味方だ。誰がなんと言おうと私は君をかばうよ」

「お前……かっこいいよ」


 奈落山の言葉に、列車内でジンに言われた言葉を思い出した。


「後先のことなんて考えなくていい。シークはシークの思うまま好きにすればいい。僕に迷惑が掛かるとか小難しいこと考えてたら学校生活が楽しめないからね」


 全てを分かったような口調でジンは言った。こうなる事すら分かっていたような、今の状況にこれ以上ない的確な言葉だった。


「悪かったな」

「いや構わないよ。それでどうするんだい」

「とりあえず……後先考えんのはやめる」

「そうかい? まあ今はその答えでいいや」


 そう返事をして、シークと奈落山は模擬戦を見る。

 模擬戦は進んでいくが、最後に名前を呼ばれたシーク達は戦う順番も最後だった。

 防蔓は先ほどと変わらず、瞳を輝かせ、両手に汗を握りしめ真剣に他の生徒が戦う様子を観戦していた。奈落山の目つきを真剣なもので、彼らといつ模擬戦をしてもいいように戦略を頭の中で組み上げているようだった。


「それにしても長い……」


 待ち時間がだ。

シークは防蔓ほど他人の能力に興味がないし、奈落山ほど相手の対策を取ろうとはしない。

豪胆と言えば聞こえはいいが、単に面倒くさいからだ。

そんなシーク達の背後から、もはや聞き慣れた声がする。


「余裕そうだな?これから死ぬまで忘れることのない生き恥を晒すというのに」


 振り返ると、シークを嘲る様に笑うシャーリーがいた。

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