51、悪意無き脅威
「お前らぁぁぁ! 気合入ってるかぁぁぁぁ!」
「「「「当たり前だぁぁぁぁぁ!!」」」」
「そんじゃ目的の説明だ! 俺達の目的はただ一つ!」
集結した冒険者の前で発破を掛けていたクロードはそこで言葉を区切った。
聞いていた冒険者は皆揃ってクロードの次の言葉を聞き逃さんと目を皿のようにして待つ。
「この忌々しい凶暴化の解決だぁぁぁぁぁ!」
「「「「いぇぇぇああああ!!!」」」」
「何だこのテンション」
そして俺達二人は絶賛置いてけぼりをくらい仲良く近くにあったベンチに座っている。
つーか、マジでクロードのあのテンション何なんだよ。
まさかこんな時間から酒でも飲んでんのか?
「カコはあそこに入らなくて良いのか?」
「そう言うアラタこそ」
「あのテンションには絶対付いていけねぇ」
「私も」
そしてクロードだけでなく応援に駆けつけてきた冒険者達も同様にやたらとテンションが高い。
・・・・・・今回のクエストは緊急クエストだぞ?
何と言うか、もう少し緊張感を持つものじゃないのか?
「あら、二人ともこんなところでどうしたの?」
「あ、クーアさん」
「いや、何かやたらとテンションが高いなーっと思って」
こちらに声をかけながら近づいて来たのは今まさに話題に挙げていたクロードの相棒、クーアだった。
「もしかして二人とも緊急クエストは初めて?」
「ああ」
「はい」
「そうなの、ならこれに驚くのなら無理も無いわね。緊急クエスト前はいつもこんな感じよ」
まさかのこれが日常。
「いや、何でだ? 緊急クエストはギルドが危険だと認めて冒険者を集めたんだろ、だったらもっと緊張感を持つべきじゃないのか?」
「危険、だからよ」
ん? 危険だから?
いまいちピンと来ないな。
カコもそうなのかあまり納得していないような顔で首を捻っている。
「・・・・・・まあ、そうよね。いくら二人は強い、と言ってもまだまだ若いし、思い付かなくて当たり前よね」
「一体どんな理由が有るんですか?」
「簡単な理由よ。まず緊急クエストは普通のクエストと比べて比べ物にならないほど危険、これは分かるわね?」
俺達は首を揃えて頷く。
それを見て満足したのかクーアは話を続ける。
「だからよ」
「え?」
「あ、何となく分かりました」
マジですかカコさん。
・・・・・・やっぱり本格的に分からないな。
危険、だからテンションが高くなる? この二つの事に繋がりなんて全く無いだろ。
「つまりこれが最後かもしれないから、そう言うことですよね」
「その通り」
・・・・・・なるほど、そう言うことか。
すっかり頭から抜け落ちていたが、冒険者はとても死亡率が高い。
つまり、もしかしたら今食べているのが最後の晩餐かもしれない。
つまり、もしかしたら今話しているこの言葉が遺言かもしれない。
常に死の恐怖が付きまとう。
そして今から受けるのは危険度が高い緊急クエストだ。
「そうでもしないとやってられない、か」
「百点満点」
はっきり言って今までにそんなことを考えたこともなかった。
ましてやリヒトに転生してからは死ぬ、何てあり得なかったからな。
「・・・・・・じゃあ、クロードはせめて少しでも冒険者の恐怖を和らげようと。だから嫌がってたのにあんなにテンション上げてるのか」
「あ、それについては多分私が」
{ビシッと決めないと、私の機嫌が悪くなるかもね}
「ってクロードに言ったからだと思うわよ」
台無しだよ! さっきまでのしんみりした空気を返せよ!
クロードめっちゃ良い奴だなって少し感動してたのに。
クロードはそんなことを露知らずに今なお発破を掛けている。
そしていつの間にかちらほらと増えていた住人も一緒にだ。
「皆さん、頑張って下さい!」
ってあれ?
「その声はシスター?」
「あっ! アラタさん、カコさん!」
何やら聞き覚えの有る声だと思ったら孤児院のシスターだった。
その手には大きなバスケットがぶら下がっている。
「どうしたんだ?」
「いえ、皆さんが私たちの為に頑張って下さるのにじっとしていられなくなって」
「なるほど。ところでそのバスケットは?」
「差し入れです、皆さんで食べてください」
そう言ってバスケットから取り出されたのは。
あの焼菓子食兵器だった。
「ぶっ!」
よりによってこれかよ!
クエストの前に何人か戦闘不能になるぞ!
「おお! クッキーだ!」
「ありがてぇ、ありがてぇ」
「それよりもシスターが作った事に意味がある」
しかし、時既に遅し。
バスケットの存在に気づいた冒険者達が次々とそれに手を伸ばしていた。
「「・・・・・・あちゃー」」
「「「「イァァァァアアア!!!!」」」」
結局5人の離脱者、そして14人あまりの冒険者にトラウマを植え付けその事件は解決した。
この事件の影響でクエスト前の差し入れは控えるように言われるようになったのは別のお話。




