33、最強の敵
いつもより長くなりました
{じゃあ、リヒトお願いね}
{ああ、分かってる}
さて、気を取り直して行こう。
このブリフィアに来る前に俺たちは一つ決めていたことがある。
それは、
「あの」
「ん? どうしたの?」
「実はここで待ち合わせをしているんです」
俺が人として一緒に行動するということだ。
何故か、と言うとまあ、簡単に言えば動きやすくるためだ。
学園に居たときにこの体について色々調べてみていたときに偶然、人になれることに気付いたのだ。
けれども、人になっているときは力が格段に落ち、さらには自由に魔法を使うことも出来なくなってしまう。
だから使うことはない、と思っていた。
決して温泉に入りたいからなんて理由ではない。
……入りたくないとも言ってないが。
だが、ギルドでやってしまったことを反省し手加減のためにカコと話し合って使用することに決めたのだ。
念のためにギルドに登録しておいて良かったと思う。
ちなみに登録名は「アラタ」だ。
カコには人のときにはこう呼ぶように伝えており、その辺の打ち合わせは抜かりなくしてある。
「待ち合わせ? もしかして彼氏?」
「か、かれっ!? ちちちがいます!」
顔を赤くし手をパタパタさせながら必死に否定するカコ。
やべぇ、かわいい。
「……かわいい」
分かってるじゃないか同士よ。
{リヒト! 良いから早く行ってよ!}
真っ赤になりながらこちらを睨んでくる。
おっと、これ以上からかうと後が怖いな。
俺は待ち合わせ場所としている所に先回りして実体化する。
もちろん誰にも見られないように細心の注意を払いながらだ。
実体化した見た目はリヒトになる前、アラタだったころの姿だ。
ただ違うところはファンタジーに出てくるような格好をしていることだろう。
ちなみに服のモデルはスタラトですれ違った名も知らない冒険者だ。
「あーあー……よし、声も問題なく出るな」
実体化するのは久しぶりだな。
体を得たことにより温泉独特の硫黄の匂いが鼻につく。
そしてこれは饅頭だろうか? 蒸した甘い匂いが漂い、それに応じるように腹が鳴る。
……よし、このあと買いに行こう
俺が饅頭への想いを積もらせているとカコたちの声が聞こえてきた。
その方向を見ると三人が歩いてくるのが見える。
よく見えないがクーアは待ち合わせ相手が俺だと気付いてカコをからかっているようだ。そしてそれでまた赤くなるカコ。
……くそっ! 何で俺は今まで五感の強化に努めなかった!
よく見えないし聞こえないじゃないか!
そして宿敵! その場所を今すぐ変われ!
「お待たせ、アラタ」
俺が悶々としているとカコが声を掛けてくれた。
「アラタ君ね。はじめまして、私はクーレフィリア。クーアって呼んで頂戴」
「俺はクロードだ」
二人ともこちらを気遣って先に自己紹介をしてくれた。
……そういえばカコ以外と話すのは久しぶりだな。
やべぇ、変な風に緊張してきた。
落ち着け俺、普通に自己紹介すれば良いんだ。
ああ、はじめまして俺はアラタだ。ああ、はじめまして俺はアラタだ。ああ、はじめまして俺はアラタだ。
……よし、いける。
「ああ、はじぇっ」
「「……」」
噛んだ。死にたい。
{ほ、ほら頑張って!}
……そうだ、俺はこんなところで挫けるわけにはいかない。
俺には使命が、約束があるんだ。
そして応援してくれている人が居る。
だから俺はお前なんかに負けない。負けられないのだ!
必ずお前を越える。
それが俺がカコに出来る、精一杯のお礼なのだ。
「ああ、はじめまして。俺はアラタだ」
は、はは。ははははは!
勝った! 俺は勝ったのだ! 自己紹介に!
よし、これでこの町でのイベントはほとんどクリアしたも同然だな!
「それじゃあ、今日は温泉でゆっくりして調査は明日からにしましょうか」
「そうだな」
「はい」
……あっさりスルーされた。




