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三章二十七話目

 アグラダは落ち着いた風を装い、カップから口を離す。

「そうか。レインはそんなにわたしにそっくりなのか。他人のそら似と言うのは恐ろしいものだな。こんな性格だと、将来苦労するだろうに」

 手と声が震えている。

 イヴンがわざとらしく咳払いをする。

「そ、そう言えば、教皇様。先ほど聖イストア皇国との交渉の席から戻ったケルン枢機卿が、緊急で枢機卿会議を招集したいと申し出がありまして。その会議の席に、教皇様もぜひ同席していただきたいとおっしゃっておいでです」

 アグラダはイヴンを見、長く息を吐き出す。

「四十年前の隣国の内戦の件もそうだが。恐らくここが正念場というものなのだろうな。ここで戦争が回避できるかが決まってくるのならば、わたしも出来る限り国の会議に参加するべきなのだろうな。わかった。わたしもその会議に同席しよう」

 カップを持ち上げ、一息にお茶を飲みこんだ。

 リシェンは黙ってアグラダとイヴンの会話に耳を傾けていた。

 フェデリコ大司教とムスタファ司祭とを見ると、まるで二人の会話に興味がなさそうにパウンドケーキの作り方の話で盛り上がっている。

「このケーキ、ティワンの教会で作れませんかねえ? 作り方を教えてもらって、姉のファティマと一緒に教会で作ってみようと思います。そうすれば親のない子ども達の仕事にもなりますし、売ればいくらかのお金にもなります」

「このケーキは、東方でしか取れない香辛料が決め手なのよ? 香辛料を入れないと、馬鹿みたいな味になっちゃうわよ」

 大の大人の二人が、ケーキを前に真剣に談義を繰り返している様は、見ていて面白かった。

 リシェンはと言えば、素直にケーキのおいしさを味わい、温かい紅茶でほっと一息ついていた。

 湯気の立ち上るカップの中を眺め、これからのことを考えた。

 ――レインは今頃どうしているのかしら。わたしはこれからどんな生活を送るんだろう。

 揺れる琥珀色の液体の表面には、リシェンの顔が映っている。

 これまでのムスタファ司祭の説明では、住居、生活費や学費は国から援助してもらえるらしかった。

 リシェンは留学生として、ジョゼ神学校で何不自由ない生活が保障されている。

ただ、リシェンとしてはいつまでも国の援助に頼らず、少しでも自分の力で生活したいと考えていた。

リシェンが紅茶のカップから顔を上げると、向かいに座るアグラダと視線がぶつかった。

お互いに慌てて顔を背ける。

それを見たフェデリコ大司教が呆れたようにつぶやく。

「それで、あんたはそのレインとか言う少年が教皇様にそっくりだから、妙に教皇様につっかかるのよね? あんたはその少年のどこがそんなに気になるわけなの?」

 フェデリコ大司教の遠慮のない質問に、皆がいっせいにリシェンを見る。

 思ってもいない質問に、リシェンは言葉を失った。


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