三章二十話目
どう水をあげて、日光を当てればいいのか。
栄養はどうやってあげるのか、どうやって支えをすればいいのか、まるでわからなかった。
その間、自分がどれほど種のために心配りができるか。
ついつい自分のことばかり考えてしまうレインにとっては、種の世話をするのは無理かもしれない。
いくら多少植物に関する知識があるとしても、自分は専門の庭師でもないのだ。
庭師としての知識も技術も父、源太の方がずっと上だった。
しかしリタ・ミラの種が自分を選んでくれた以上、出来る限りその期待に応えたい。
「と、言っても君がどうやったら大樹になれるのか、ちゃんと育つことが出来るのか、僕は何も知らないんだけれど」
レインはそう言ってから考え込んでしまう。
そんなやり取りを、そばにいたイヴン先生は驚いた様子で眺めている。
腕組みをして考え込んでしまったレインを見て、ぷっと吹き出した。
「そんなことを真剣に悩むところは、あの方にそっくりだな」
イヴン先生は急に穏やかな顔になる。
「え?」
普段の授業でも厳しい顔ばかり見ているレインは、そんなイヴン先生を見て目を丸くする。
イヴン先生は言い添える。
「心配しなくていい。じきにお前の守り手として竜の民がやってくるだろう。竜の民はあまり好かないが、奴らの方がリタ・ミラの種に関しての知識があるのは確かだ。その竜の民に様々なことを聞いて知識を得るといい」
いつになく穏やかな口調で話す。
「は、はあ」
レインは背中がむずがゆいような気持ちで聞いている。
イヴン先生は集合時間になり、広場に集まり始めた学生たちを建物の影から振り返る。
「それから、ここで話したことや、リタ・ミラの種に関することなどは、くれぐれも他言しないで欲しい。それを口にすれば、お前の命はおろか、周囲の人間を危機に陥れる可能性がある。絶対に誰にも言わないようにしてくれ」
小声で話す。
「は、はい」
レインは緊張した声で応じる。
イヴン先生は大きくうなずく。
「わかったならいい。では、集合場所に戻りなさい」
レインはイヴン先生に頭を下げ、広場へと戻る。
イヴン先生は駆けていくレインの後姿を見送る。
小さな声でつぶやく。
「イラソ国のスパイにどこまで隠し通せるか、疑問だな。念のため、あの二人にも声をかけておくか」
イヴン先生は険しい顔で建物の影から出て、広場へと歩いて行った。
広場に戻ったレインは、既に集まっていたオルグとリャンのすぐそばに並ぶ。
生徒指導のマムーク先生が生徒たちの点呼を取っている。
「お前ら全員集まってるか? 集まってない奴がいたら、手を上げて知らせるように」
レインは順番に呼ばれていく生徒の名前に耳を傾ける。
すぐに自分の名前が呼ばれる。
「レイン・アマナギ」
「はい!」
大声で返事をする。
マムーク先生は押し黙り、ちらりとレインを見る。
「ふん、時間には遅れなかったようだな。あの怪しい男一味にでも誘拐されたかと思ったが。イヴン先生もどうしてこんな奴の肩を持つのか」
名簿の書類にペンで書きこむ。
レインはぐっと口を引き結ぶ。
悲しいような辛いような気持ちを我慢する。
マムーク先生はクラスの出席を取ると、すぐに次へと行ってしまう。
それを見送ってから、オルグとリャンがレインにひそひそ声で話す。
「あんまり気にすることはないと思うよ。マムーク先生は気に入らない生徒に対してはいつもあんな調子だから」
「そうそう。マムーク先生が唯一笑みを浮かべるのは、シェーラ先生くらいなもんだ」
二人に慰められ、レインは交互に二人の顔を見る。
「ありがとう、オルグ、リャン」
薄暗くなり、街灯の灯りはじめた広場を後にし、レイン達はその街の駅から列車に乗った。レインはその日の疲れで、列車に揺られている間中ほとんどうとうととしていた。
学校に到着したのは夕食の時間を少し過ぎた時間で、学食のおばちゃんたちが社会見学に行ってきた学生たちに、豪華な夕食を準備して待っていた。
「たくさんお食べ」
そう言って並べられた料理の数々に、レインは疲れも忘れ、いつも以上に食が進んだ。
鶏肉のシチューと生ハムのサラダ、パンをお皿に山盛りで三杯もおかわりして、学食のおばちゃんたちを驚かせた。
「若い子はこれぐらいしっかり食べないとねえ」
レインはおばちゃんにローストビーフを厚切りにしてもらい満足のうちに夕食を終えた。




