三章十一話目
レインは倒れている男たちをぐるりと見回す。
これが空賊ならば、列車で見た黒い空船でアンリを追いかけていたのもこの空賊たちだろうか。
「あの、アンリさん。空賊って」
レインが口を開いた時だった。
庭の白い門の前に人影が立つ。
「あぁ、こいつらこんなところにいたのか」
男の声に反応し、レインは門を振り返る。
自分の目を信じられずに、レインはその男の容貌をつぶさに観察する。
年の頃はレインよりも少し上だろうか。
銀色の短い髪に、夜明け前の空のような赤紫の瞳。
あの頃よりも背は高く、体格もがっちりしている。
男はまるでレインなど目に入らないかのように、平然とこちらへと歩いてくる。
赤ら顔のアンリと一定の距離を開けて立ち止まる。
「またやってくれましたね、アンリさん」
男は肩をすくめ困った様子で地面に倒れている男たちを見回す。
「頭領の言うことを聞かないこいつらも悪いんですがね。いい加減付き合いも長いんだから、アンリさんもこいつらを説得してくれればいいものを」
男は銀色の髪をかく。
心底困ったように溜息をつく。
赤ら顔のアンリはけらけらと笑う。
「それはほら、おれは今よっぱらってるから。頭なんてろくに働かないんだよ」
アンリの言葉に、男は赤紫の瞳を険しくする。
「それは嘘です。頭領と一緒に飲んでた時、酒の樽をいくつも空にして平気な顔してたじゃないですか。アンリさんの、酔っぱらってる、は当てにならないですよ」
「まいったなあ」
アンリはけらけらと赤ら顔で笑い続けている。
レインの驚いている間にも、アンリと男との会話は平然と行われ、話しかける機会を逸してしまう。
レインは思い切って、男に声をかける。
「あ、あの」
青い瞳で男を見る。
「ライ様、じゃありませんか?」
男がレインを振り返る。
そこで初めてレインに気付いたかのように、赤紫の目を丸くする。
「レインか?」
驚いたようにレインの名前を呼ぶ。
「知り合いかい?」
赤ら顔のアンリの問いに、レインはうなずく。
レインは自分の名前を呼ぶライを前に、胸が締め付けられるような気持ちになる。
「ライ様、よかった。よく御無事で」
目の前が涙でにじみ、うれしいのか悲しいのか自分でもよくわからなくなる。
かつての親友は、三年前にいなくなった時よりもずいぶんと雰囲気が変わっていたが、レインが見間違えることはなかった。
「ライ様はこの三年間、どこに行ってらっしゃったのですか? お父上の辺境伯や奥方様もずいぶんと心配しておいででしたよ?」
するとライは少しだけばつの悪そうな顔をする。
「親父とお袋か。一応心配するなと置手紙を置いてきたんだがな」
その人懐っこい笑顔は、昔と変わらないものだった。
レインはほっと胸をなで下ろす。
ライに一歩近づく。
「辺境伯もこの三年のことは、ちゃんと謝ればきっと許して下さることと思います。だからどうか北方群島にお帰り下さい」
――ライ様は僕とは違って、北方群島の皆に必要とされていますから。
レインは青い目を伏せる。
一瞬脳裏をよぎった言葉は口に出さなかった。
「さあ、帰りましょう」
レインはライに手を差し出す。
しかしライは悲しそうな顔をして、レインが近づいた分だけ遠ざかった。
ゆっくりと首を横に振る。
「俺は帰らないよ。お前には昔話したろ? 自分の空船を手に入れて、空の座を目指すのが俺の夢だという話」
「し、しかし、それは、昔のことで」
レインは言葉に詰まる。
それはレインが子どもの頃にライが口にした夢であったが、それはただの幼い頃の叶わない夢であって、まさかライが今も本気で夢を追いかけているとは思わなかった。
レインの戸惑いに、ライは小さく溜息をついた。
「親友であるお前なら、わかってくれていると思ってたんだがな」
そう言って、悲しげに笑う。
レインはそのライの表情を見て、とても悪いことをしてしまった気持ちになった。
――僕はずっとライ様のそばにいたのに、何もわかっていなかったんだ。
暗い顔でうなだれる。




