二章四話目
「まあ、最初は誰しも、そう勘違いしても仕方がありませんが。かく言うわたしも、事情を知らない頃はそう思いましたが」
レインは肩を落とす。
――すみません。
深々と頭を下げる。
女性の片眉はまだ拗ねているようにつり上がっていたが、レインをそれ以上責めることはしなかった。
二度三度咳払いをする。
「話を元に戻しましょう。あなたはリタ・ミラ様の御子をその身に宿している。これはいいですね?」
深緑の瞳でレインをじっと見つめる。
レインはこっくりとうなずく。
要するに、木の種が自分の体の中にあるということだろう。
レインも小さい頃は、木になっているリンゴをこっそり食べ、種も一緒に飲み込んでしまった記憶がある。
きっとそれに似たことなのだろう。
レインは勝手に納得した。
女性は話し続ける。
「あなたがラスティエ様にここに呼ばれたということは、すなわちそういうことです。あなたが無事にリタ・ミラ様の御子を育てられるようにという、ラスティエ様のお心遣いなのです」
――子どもを育てる?
それにレインは目を見張る。
――あ、あの、リシェン、さん。リタ・ミラ様の御子を育てる、とは具体的にどういう?
レインはまだ女性の名前を呼ぶのを躊躇われた。
何やら口にするだけで、くすぐったいような感じがしたのだ。
意を決してそう尋ねると、女性の形の良い金の眉が跳ね上がる。
女性はばつが悪そうにそっぽを向く。
「それは、わかりません。ラスティエ様とリタ・ミラ様は、千年に一度しか御子を宿しませんから。詳しい事情は、村に伝わる書物からしか窺い知ることができません」
――せ、千年に一度?
レインは驚きに青い目を見開く。
そしてこの目の前にある巨木を仰ぎ見る。
この巨木はそんなに長い時を生きてきたのだろうか。
千年と言う月日は、レインの想像を遥かに超えた年月だった。
いったい人が何世代経れば千年になるのか、レインにはとっさに計算ができなかった。




