二章二話目
レインは青い目を見張る。
「そう。今朝、たまたま学校に視察に来ていた大司祭様達が、何者かに襲われた事件」
「襲われた?」
レインは息を飲む。
それを見て、オルグは肩をすくめる。
「レインが驚くのは無理もないけど、本当のことだよ。不幸中の幸いに、大司祭様達に大きな怪我はなかったけど。校内で襲われたとあって、理事長先生や校長先生は躍起になって犯人を捜しているらしいよ」
不思議なことに、レインの心の内は自分でも驚くほど冷淡だった。
――大司祭様達、ということは、二人以上襲われたのか。
そんなことを考えただけだった。
どこで襲われたか、犯人は誰で、何の目的があって襲ったのか、など。彼らの怪我の程度も、その無事も、彼には大して気にならなかった。
――やっぱり、あいつらはあの時、殺しておけばよかった。
不意にそんな考えが沸き起こる。
背筋を冷たい抜身の刃が滑り落ちるような感覚。
それは彼らに対する嫌悪の感情だった。
それには当のレインが驚いた。
――ぼ、僕は何を考えているんだ?
黒髪をかきむしり、レインは考えを改める。
――無事で良かったじゃないか。大司祭様達が大した怪我もなくて。もしも何かあったら、そっちの方が大変じゃないか。
無理矢理自分を納得させようとする。
何故突然そんな考えが沸き起こってきたのか、自分でもわからない。
どうやらオルグの言うように、自分はかなり調子が悪いらしい。
そんなことを考えるのは、精神的に疲れている証拠だ。
レインは椅子から立ち上がる。
「教えてくれてありがとう、オルグ。今日はゆっくり休むことにするよ」
自分のベッドへと戻る。
「うん、じゃあ僕も授業に戻るね。また昼休みなったら来るから」
そう言って、オルグは部屋から出て行った。
静かに部屋の扉が閉められる。
レインは自分のベッドの上に座り、窓を見る。
大きなガラス窓からは、寮のそばに生えているスミニア杉の緑の木立が見える。
レインはしわだらけになった制服の白いシャツをつまむ。
今更着替えるのも面倒だったので、レインはそのままベッドに倒れ込んだ。
「さて、せっかく休みなんだし、僕ももう少し眠ろうかな」
独り言をつぶやき、二段ベッドの天井を見上げる。
胸の辺りに違和感を感じたが、レインは気にせず眠ることにした。
ベッドにもぐりこみ、目を閉じると、眠気はすぐに舞い戻ってきた。