一章十七話目
レインは地面に倒れたまま、力なく笑う。
朝にオリヴィエ先生の机に反省文を出して、温室の様子を見に来ただけなのに、何で地母神リタ・ミラやら、大司祭やらに出くわさなければいけないのだろう。
何で自分がこんな目に合わなければいけないのだろう。
これもレインが鈴牙人に生まれたせいだろうか。
ラスティエ教国に広く住んでいるラース人に生まれれば、こんな苦労はしなかったのだろうか。
差別されることも、いじめられることも、こんな危険な目に合うことも、そもそもなかったのだろうか。
平凡な学校生活を送り、故郷に帰り、辺境伯のお屋敷で庭師として働くこともできたのだろうか。
――僕は、ここで死ぬんだ。
レインは絶望的な気持ちになった。
自分の不運を嘆き、ここで無残に死んでいくのだろうと思うと、なんともわびしい気持ちになった。
男の杖が今まさに振り下ろされようとした時、レインの頭に女性の声が響く。
『やれやれ、あまり力を使いたくなかったなかったのだが』
それはずっと黙り込んでいたリタ・ミラの声だった。
『折角私の子どもを託せる人間が現れたのだからな。仕方がないか』
その瞬間、先ほどとは比べ物にならないほど、辺りの空気が震え、倒れているレインの全身の毛が逆立った。
空がにわかに掻き曇り、雲の間から雷鳴の音が轟く。
『あまり手加減はできないが、悪く思うなよ』
空が光り、黒雲の間から眩い閃光が落ちてくる。
空気が震え、先ほどとは比べ物にならないほどの轟音が響く。
「うわっ!」
黒いローブを着た男達は逃げる間もなく、雷の光に照らし出される。
耳をつんざくような割れ鐘の音が響き、レインも思わず身を縮める。
辺りが真昼よりも明るく照らし出される。
レインはその眩しさに目がくらみ、ぎゅっと目を閉じる。
まぶたを閉じてもなお明るい光が目をつき、物凄い物音に耳が変になりそうだった。
それは一瞬のことだったのだろう。
しかし目を閉じていたレインには、ひどく長い時間のようにも思えた。
光と物音がようやく収まり、辺りは再び静けさに包まれた。