表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/320

一章十八話目

 レインはゆっくりと目を開ける。

 すると辺りの様子はすっかり様変わりしていた。

 辺りの木々は黒く焼け焦げ、石造りのあちこちの壁にも黒い焼けた跡がついている。

 地面に転がった木の幹は真っ二つに裂け、炎と煙を漂わせている。

 地面には黒いローブをまとった男が二人、倒れていた。

 もう一人の姿はすぐそばには見られない。

 レインは痛む頭をさすり、かろうじて起き上がる。

 それに先ほどの轟音。

 レインは痛む頭で考えを巡らせる。

 以前、法術実技の授業の時間に、イヴン先生が行った雷の法術を思い出す。

 イヴン先生は大気中の静電気を集めて雷の法術を行ったが、もっと上級の法術の使い手になると天候を変化させて、意のままに操ることができるらしい。

 イヴン先生は実際に弱い雷撃の法術を実演して見せた。

 その時には、祈りの言葉を唱え、杖を掲げると、次の瞬間には落雷が轟いていた。

 白い小規模な稲妻は、的の魔水晶に当たり、白い煙を立てた。

「本来ならば、雲を呼び、天候を操らなければならない法術だが。大気中の静電気を集め、収束させることにより、小規模な雷撃を生み出すことができる」

 イヴン先生はそう説明していた。

 レインはようやく納得がいった。

 なるほど。先ほど男達がレインに対して使ったのが、その小規模な雷撃なのだろう。

 そして、今リタ・ミラが使ったのが、天候を操り、天の雷を落とす大規模な法術。

 ――でも、まさか、そんな神の奇跡級の法術を、この目で見ることができるなんて。

 レインは辺りの光景を見まわし、目を丸くする。

『レイン。早く今のうちに温室へと来い』

 リタ・ミラの声に促されるまま、レインは元来た道を戻り、温室の前に立つ。

 壊れている錠に一瞥をくれ、温室の扉に手を掛ける。

 ――鬼が出るか、蛇が出るか。

 レインは古い鈴牙国の言葉を思い出す。

 温室の扉に力を込め、勢いよく開け放った。

「あれ?」

 温室の扉はあっけないほど容易く開き、室内の温かい風がレインの頬を撫でていく。

「え? ええっ?」

 レインは温室内を見回す。温室の中は特に変わったところもなく、様々な植物が室内に植えられている。

 ジョゼ神学校は辺りでも植物の研究に特に力を入れている。優秀な研究者を招き、研究を任せ、数々の成果を上げている。

 レインがこの学校を希望した理由の一つには、そういった植物研究の業績があったからだ。

 密かにレインも生徒ながら、その研究の手伝いが出来るのではないか、と少し期待したところがあった。

 実際にはもちろん生徒などお呼びではなく、研究の手伝いどころか、研究室に近づくことさえ出来ない。

かく言うこの温室も、研究場所の一つだった。

 レインは温室内を見回し、感嘆の声を上げる。

「すごい、すごいよ」

 青い目を輝かせる。

 温室内を少し歩くと、レインが図鑑でしか見たことのない珍しい植物が生えていて、赤や青や白い花をあちこちで咲かせている。

 温室内は温かく、湿気が充満し、様々な花の匂いが漂っていたが、レインはそれさえも気にならなかった。

 近くにあった薔薇の垣根に近づき、その青い花をしげしげと眺める。

「すごいよ。これ、栽培がものすごく難しい薔薇、ブルーホワイトだよ。それをこんなに元気に、大輪の花を咲かせることができるなんて」

 目の前で咲き誇っている薔薇をつぶさに観察する。

「う~ん、やっぱり土壌の関係かな? それとも肥料? 温度、湿度、日当たりなのかなあ」

 故郷の北方群島でも、一度辺境伯夫人がこの薔薇を育てようとして、失敗していた。

 この薔薇は、専属の庭師でも育てるのが難しいものなのだ。

 レインはその緑の葉や茎を見回し、あれこれとつぶやいている。

『おい、レイン』

 大地母神リタ・ミラの低い声が頭に響く。

「え? あ、はい。す、すみません、リタ・ミラ様。つい」

 レインは何もない空間に向かって頭を下げる。

 他人が傍から見ていれば、きっと変な人だと思われてしまうことだろう。

しかし運のいいことに、温室に他には人はいない。

『こっちだ』

 声に促されるままに、草木を掻き分け、温室の奥へと歩いていく。

『ここだ』

 言われて、レインは立ち止まる。

 温室の奥の、開けた場所に一本の枯れ木が植えてある。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ