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一章十二話目

 しかし彼女の中では何故かそうなっているようだった。

 ――あ、あの、リタ・ミラ様? ぼ、僕、子どもの世話なんて、したことがありませんが。

 レインは温室の扉に手を掛けたままでいる。

 故郷に弟がいるため、両親が家にいない間、弟の世話はしていたが、赤ん坊の世話となると勝手が違う。

 村の若夫婦の赤ん坊の夜泣きが酷く、奥さんがノイローゼになった聞いたことがある。

 まだ学生で、恋人さえいないレインに、赤ん坊の世話が務まるなど、とても思えなかった。

 ――あ、あの、リタ・ミラ様。やはり、僕にあなたの子どもの世話は荷が重いと思うんです。

 レインは扉に掛けた手を離す。

 うつむき、拳を握り締める。

 彼女からの返事は返ってこない。

 辺りは朝靄が少し薄らぎ、日の光があちこちから差し込んでくる。

 ――リタ・ミラ様?

 レインは首を捻る。

 彼女は依然沈黙したままだ。先ほどまではあんなに頻繁に言葉を交わしていたにも関わらず。

 レインはゆっくりと背後を振り返る。

 その瞬間、レインの首筋に悪寒が走った。鼓動が速まり、気分が悪くなる。

 レインはその場にしゃがみ込んだ。

『あいつらが来た』

 彼女の鋭い声が頭に響く。

 レインは手で口を押さえ、かろうじて頭を上げる。

 ――あいつら、って?

 腹の中がかき回されるような気持ち悪さに、レインは胃液が逆流してくるのを感じる。

 彼女は答えない。

 ただ彼女が“あいつら”恐れている気配は、レインにも感じ取れた。

 レインは慌てて中庭を見回す。

 適当な木の影を選んで、そこに身を隠す。

 レインは温室の入口が見える茂みから、息を潜めて様子を伺う。

 まだ気持ち悪さは収まっていなかったが、そんなことも言っていられない。

 注意深く中庭の朝靄を見渡し、気配を殺す。

 ――リタ・ミラ様。あいつらとは、一体誰のことですか?

 もう一度尋ねる。

 彼女はゆっくりとつぶやく。

『私と子どもを、ここに閉じ込めた奴らだ』


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