一章十一話目
そしておもむろに温室の扉に手をかける。
――この中にいる、あなたとその子どもを連れ出せばいいんだね?
レインはラスティエ教徒ではあるものの、創世神話にはそれほど詳しくない。
そのため聖典に記されている大地母神リタ・ミラの子どもが誰なのかは、よくは知らない。
大地母神というのだから、考えようによってはすべての生き物が彼女の子どものようなものだろう。
レインはおぼろげにそう考えた。
『そうだ。そして子どもを、安全な場所まで連れて行ってもらいたい』
――安全な場所?
彼女の言葉に引っかかりを覚え、問い返す。
それは具体的にどんな場所なのだろうか。
そもそも温室の中に、本当に子どもなどいるのだろうか。
これらの会話はすべてレインの錯覚で、本当はリタ・ミラなどいないのではないだろうか。
それともこれらは誰かの手の込んだ悪戯で、影からレインを見て、からかって楽しんでいるのかもしれない。
ふとそんな考えに囚われる。
――あ、あの、その子どもって。
レインは恐る恐る彼女に尋ねる。
しかし彼女はレインの言葉を聞いていなかった。
『安全な場所、というのは。土が豊かで、生き物が成育しやすい場所がいい。私は緑豊かな場所で育ったからな。子どもにもそのような場所で育って欲しいと思っている』
レインの問いにつらつらと答えている。
そこまで分かっているならば、どうしてレインなどに頼むのだろうか。
レインはいぶかしく思う。
レインに頼むくらいならば、リタ・ミラ自身が子どもを連れて行けばいい。
どうしてそうしないのだろうか。
わざわざレインに頼むより、自分で子どもを連れて行ったほうがよほど簡単だろうに。
『もちろん、子どもの世話はお前に頼みたい。そのために、お前をこうしてここに呼んだのだからな』
彼女は話し続ける。
――へ?
レインは驚いて、目をしばたたかせる。
子どもの世話をする話など、一言も聞いていない。
そもそも未成年で学生のレインに、子どもの世話をすることなどできない。




