一章十話目
――う、うん。そうだと思うけど。
それから考え直し、慌てて首を横に振る。
――って、僕は違うよ。僕は庭師見習いだから、まだ正式な庭師とは認められてないよ? 確かに庭師になるための修行は、していたけど。
最後の方になればなるほど、弱気になっていく。
彼女は気にした様子もなく、淡々とレインの頭に語りかける。
『そうか。ならば、話は早い。鈴牙人の庭師見習いの少年よ。その温室の中から、私とその子どもを探せ』
とっさに彼女の言っている意味がわからなかった。
――え?
レインは首を傾げる。
――大地母神リタ・ミラと、その子ども? このちっぽけな温室の中にいるの?
レインはガラス張りの温室を見上げる。
どこからどう見ても、ただの温室だ。決して警備が厳重とか、特別に大きい建物ではない。
そんな場所にかつて大地母神として崇められていたリタ・ミラと、その子どもがいるとは、とても思えなかった。
一瞬、聞き間違いとも思ったが、彼女の声は同じ言葉を繰り返す。
『そうだ。人間達に無理矢理ここに連れてこられたのだ。この温室の中に私と、その子どもがいるはずだ。それを探し出し、ここから連れ出して欲しい』
――う~ん。
レインは腕組みをして考え込む。
大地母神と呼ばれるリタ・ミラを学校関係者に黙って連れ出すなど、自分に出来るのだろうか。
それこそ無理な話だ。簡単に捕まって、連れ戻されてしまう。下手をすると、レインの身にも危険が及ぶ。
――うう~ん。
しかしここで彼女の申し出を拒否すると、レイン自身どうなるかわからない。
それこそレインが想像した通り、強力な法術で真っ二つにされてしまうかもしれない。
レインは無意識のうちに、辺りの様子を伺う。
運のいいことに温室の周囲には誰もいない。
もしかしたら、リタ・ミラが法術で結界を作っているのかもしれない。
法術感知が得意ではないレインには、よくわからない。
レインはぱっと顔を上げ、大きくうなずく。
――わかった。