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第28話 決着

イラスト

https://52564.mitemin.net/i1279771/

「外から駄目なら」


ミゼリアの視線がルシエラへ向く。


「中はどうなんだろうね」


そのまま歩き出した。


「来るな!」


エイルが前へ出る。


ミゼリアが《絶対防御領域》へ足を踏み入れた瞬間、エイルが剣を振るった。


横薙ぎの一閃。


ミゼリアは上体をわずかに反らした。


剣先が胸元を通り過ぎる。


エイルが踏み込み、そのまま二撃目へつなぐ。


ミゼリアは半歩ずれた。


三撃目。


今度は身体を沈める。


どれも当たらない。


「入るだけなら平気なんだ」


「ロディオ!」


「分かってる!」


横からロディオが入る。


二本の短剣でミゼリアの進路を挟む。


だが、ミゼリアはその間をするりと抜けた。


ロディオが振り返った時には、もうエイルの横にいる。


ミゼリアの短剣が動く。


エイルの脇腹へ刃が走った。


「――っ!」


避けきれない。


確かに当たった。


だが、何も起きなかった。


服も裂けない。


血も出ない。


ミゼリアが自分の短剣を見る。


「へえ」


今度はロディオへ。


ロディオも反応したが、間に合わない。


刃が腕を捉えた。


やはり傷はつかなかった。


「中からでも駄目なんだ」


ミゼリアが少し離れた。


片手を上げる。


エイルの目の前に、小さな水の刃が生まれた。


放たれる。


何も起きない。


続けて風の刃。


これも消えた。


「本当に攻撃は通らないんだね」


ミゼリアの視線が、エイルからロディオへ。


メルディア。


クラウス。


そして最後にルシエラへ向く。


「じゃあ」


一瞬で距離を詰めた。


ルシエラの手首を掴む。


「え?」


そのまま引いた。


ルシエラの身体が一歩前へ動く。


ミゼリアの目が少し開く。


「これは動くんだ」


もう一度引く。


「ルシエラ!」


エイルが肩を掴んだ。


ロディオも反対側から腕を支える。


クラウスまで加わる。


ルシエラの足が草の上を滑った。


それでも、今度は止まった。


ミゼリアが少し力を込める。


三人の身体まで引かれる。


「結構重いなあ」


「離せ!」


「はいはい」


ミゼリアはあっさり手を放した。


後ろへ跳ぶ。


そのまま《絶対防御領域》の外まで距離を取った。


エイルがすぐにルシエラの前へ戻る。


「大丈夫か?」


「はい」


ルシエラは掴まれた手首を見る。


痛みはない。


それでも、確かに身体を動かされた。


ロディオも同じことに気づいていた。


「斬るのは駄目でも、掴んだりするのはできるのか」


「そうみたい」


メルディアが答える。


ミゼリアは少し離れた場所で、楽しそうに笑っていた。


「面白いね、それ」


短剣をくるりと回す。


「じゃあ、もう一つ試してみようか」


風が動いた。


先ほどまでとは違う。


ミゼリアの周囲を何重もの風が回り始める。


赤い髪が舞い上がった。


足元の草が円を描いて倒れていく。


次に、水が集まった。


空中で細長く伸びる。


一本。


二本。


さらに増える。


五本。


十本。


それでも止まらない。


水の刃が、ルシエラたちを囲むように浮かんだ。


「多い……」


ルシエラが周囲を見る。


今度は水刃の間で空気が歪んだ。


風の刃。


正面。


右。


左。


背後。


斜め上。


逃げ道を埋めるように配置されていく。


メルディアの目が忙しく動く。


「全部こっちを向いてる」


ミゼリアはまだ準備を続けていた。


身体の周囲へ風がまとわりつく。


水のような薄い光が腕と脚を走る。


短剣にも魔力が集まる。


一つ。


また一つ。


自身にも次々と強化を重ねていく。


「今までのは試しだったから」


ミゼリアが短剣を構えた。


周囲には無数の水刃と風刃。


正面には、それらとは別にミゼリア自身がいる。


少し楽しそうに笑う。


「四天王の全力でも、耐えられるかしら」


エイルの表情が変わった。


ルシエラがその横顔を見る。


「……エイル?」


「分からない」


「え?」


エイルは剣を構えたまま、周囲に浮かぶ刃を見回した。


「俺たちだって、四天王の全力攻撃なんて受けたことがない」


ルシエラの指に力が入る。


「今までと同じように防げる保証はない」


エイルの肩には傷が残っている。


ロディオの脚にも血が滲んでいた。


メルディアもクラウスも、すぐ近くにいる。


その全員へ。


あらゆる方向から刃が向けられている。


ルシエラは杖を握り締めた。


「でも……」


「領域を解くな」


エイルが言う。


「これしかない」


「……はい」


ミゼリアの周囲で、さらに風が強くなった。


「じゃあ、最後にこれも」


赤い光が灯った。


ミゼリアの身体を包んでいく。


足元へ風が集まり、周囲の草が一斉に伏せた。


「《風走》」


ロディオが目を細める。


「まだ何かあるの?」


「これを使うとね」


ミゼリアが腰を落とす。


「普段の三倍くらいで動けるの」


「三倍……?」


ロディオの顔が引きつった。


エイルも何も言わなかった。


周囲には水刃と風刃。


正面には、いくつもの強化を重ねた四天王。


そして。


その本人が、今までよりさらに三倍速くなる。


ルシエラの呼吸が浅くなった。


エイル。


ロディオ。


メルディア。


クラウス。


みんな、ここにいる。


全員を守らないと。


絶対に。


ミゼリアが地面を蹴ろうとした。


その直前。


ルシエラの胸元が淡く光った。


《地護りのペンダント》。


ミゼリアの視線が一瞬だけそこへ向く。


そして。


地面を蹴った。


赤い光が前へ走る。


はずだった。


消えた。


「え?」


ルシエラの声だけが残った。


さっきまでミゼリアがいた場所には、誰もいない。


同時に。


周囲の水刃が動いた。


風刃も。


全方向から一斉に殺到する。


轟音。


水が弾けた。


風が地面を切り裂いた。


《絶対防御領域》の外側で草と土が吹き飛ぶ。


内側には何も届かない。


だが、それで終わらなかった。


一瞬遅れて。


空気そのものが破裂した。


鼓膜を叩く轟音。


地面が揺れる。


草原を、目に見えない壁のような衝撃が走った。


古びた柵が一気に折れる。


土と小石が巻き上がる。


草が地面へ押しつけられた。


「っ――!」


エイルが踏ん張る。


ロディオが腕で顔を覆う。


クラウスが杖を地面へ突く。


メルディアの身体も大きく揺れた。


ルシエラにも猛烈な風圧がぶつかった。


身体が押される。


その瞬間。


胸元の石が強く光った。


淡い緑色。


足元に力が戻る。


ルシエラは一歩下がっただけで踏みとどまった。


《絶対防御領域》も維持されていた。


領域の外。


三人の魔族は、まともに衝撃を受けた。


最初に吹き飛んだのは、双短剣の男だった。


「――っ!」


避ける暇すらない。


身体が地面から浮いた。


横へ弾き飛ばされる。


一度。


二度。


三度。


草地を跳ねる。


途中で短剣が手から飛んだ。


十数メートル先。


身体がようやく止まる。


起き上がろうと腕をつく。


崩れた。


片脚が動かない。


隊長格の男は、咄嗟に両腕で身体を庇った。


だが受け止められるような衝撃ではなかった。


足が地面から離れる。


背中から落ちた。


そのまま何度も転がる。


最後に肩から地面へ叩きつけられた。


「がっ……!」


息が詰まる。


短剣が手から落ちた。


最後の一人だけが、一瞬早く反応した。


両手を前へ出す。


「《障壁》!」


魔力の壁が広がった。


その直後。


衝撃波がぶつかる。


障壁が大きく歪んだ。


表面に亀裂が走る。


「なっ――」


砕けた。


防壁ごと身体が押し流される。


地面へ叩きつけられた。


さらに数メートル滑る。


杖が手から離れた。


三人とも倒れた。


しばらく。


誰も動かなかった。


土と枯れ草だけが空から落ちてくる。


隊長格の男が、震える腕で身体を起こそうとした。


顔を上げる。


「ミ……ミゼリア様……?」


周囲を見る。


いない。


さっきまで正面にいたミゼリアが、どこにもいない。


双短剣の男も、苦しそうに顔を上げた。


「消え……た……?」


魔法使いの男がルシエラたちを見る。


五人とも立っている。


ルシエラの胸元では、まだ淡い緑の光が残っていた。


「何の……攻撃だ……!」


隊長格の顔が強張る。


「聖女……お前たち、何をした……!」


「俺たち?」


ロディオも呆然と周囲を見る。


「今の、何?」


メルディアが答える。


「分からない」


本当に分からない。


ミゼリアが突っ込んできた。


消えた。


その直後に、何かが爆発したような衝撃が来た。


それだけだった。


エイルは三人の魔族を見た。


三人とも立てない。


武器も落としている。


一人は脚が動かない。


一人は呼吸すらまともにできていない。


もう一人も杖まで手が届いていない。


「今だ!」


その声と同時に三人が動いた。


エイル。


ロディオ。


メルディア。


それぞれ違う相手へ走る。


「退け……!」


隊長格の男が短剣へ手を伸ばした。


エイルの方が速い。


拾い上げかけた刃を剣で弾く。


男の腕が開く。


「《ブレイク》!」


剣が叩き込まれた。


男の身体が崩れ落ちる。


動かない。


ロディオは双短剣の男へ向かっていた。


相手も逃げようとした。


片脚を地面につく。


その瞬間。


力が抜けた。


膝から落ちる。


「くそ……!」


残った一本の短剣を振る。


ロディオが身体を沈めた。


刃が頭上を通り過ぎる。


一歩で懐へ入る。


短剣を突き込む。


男の身体が止まった。


そのまま前へ倒れた。


最後の一人。


杖へ指を伸ばす。


指先に魔力が集まりかける。


だが、形にならない。


先ほどの障壁で力を使い切っていた。


顔を上げる。


すでにメルディアの杖が向いていた。


「《フレイムランス》」


炎が走った。


魔族が咄嗟に作った小さな障壁を突き破る。


直撃。


身体が後ろへ倒れた。


炎が消える。


静かになった。


エイルが剣を構えたまま周囲を見る。


ロディオも振り返る。


メルディアは杖を下ろした。


三人の魔族は、もう動かなかった。


ルシエラは《絶対防御領域》の中央に立ったままだった。


胸元の光がゆっくり消えていく。


周囲には、抉られた地面。


倒れた柵。


吹き飛ばされた草。


そして三人の魔族。


けれど。


どこまで見渡しても。


ミゼリアの姿だけは、なかった。


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