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第27話 四天王ミゼリア

イラスト

https://52564.mitemin.net/i1279768/

翌朝、ギルドから宿へ一通の手紙が届けられた。差出人の名前はない。


エイルが封を開き、全員で中を見る。文章は短かった。


今朝、リューベルを南へ出たギルドの伝令を預かった。


生かして返してほしければ、五人だけで南西の旧放牧地へ来い。


衛兵やギルドの人間を連れてくれば、伝令は殺す。


しばらく誰も話さなかった。


最初に口を開いたのはロディオだった。


「罠だね」


「うん」


メルディアも即答する。


ルシエラが二人を見る。


「そんなにはっきり?」


「この前のことがあったばかりだよ」


ロディオが手紙を指す。


「俺たち五人だけで町の外に来いって書いてある。あの三人以外に誰がやるの?」


メルディアも手紙を見る。


「人質を捕まえた証拠もない」


クラウスが立ち上がった。


「伝令について確認しましょう」


五人はギルドへ向かった。


◇


伝令が出たのは事実だった。


今朝早く、魔族潜入の件をリゼル側へ伝えるため、一人が南門を出ている。年齢、服装、出発した時間まで、手紙に書かれた情報と一致した。


受付の職員も険しい顔になる。


「まだ到着を確認できる時間ではありません」


「追いかければ?」


ロディオが聞く。


「今から別の者を出すことはできます。ただ、途中で何が起きているかは……」


ルシエラが手紙を見る。


ロディオが言った。


「まだ捕まってるって決まったわけじゃないよ」


「はい」


「俺はほぼ罠だと思ってる」


「私もそう思います」


ロディオが一瞬黙った。


「思ってるんだ」


「はい」


ルシエラは手紙を握った。


「でも、本当だったら?」


メルディアが答える。


「可能性は低い」


「ゼロではないですよね」


「ゼロではない」


「だったら行きたいです」


迷いのない返事だった。


メルディアはルシエラを見る。


「罠でも?」


「はい」


ロディオが頭を掻いた。


「こういうの、ルシエラに効きすぎるなあ」


「分かってます」


「分かってて行くの?」


「捕まってる人が本当にいたら、待っていられませんから」


エイルが全員を見る。


クラウスも止めようとはしなかった。


「行こう」


エイルが言った。


「五人で。ただし、向こうの話を全部信じて動くのはやめよう」


「僕たちが戻らなければ動いてもらえるよう、ギルドには伝えておきましょう」


クラウスの提案に全員が頷いた。


◇


旧放牧地は、街道からかなり外れた場所にあった。


低い草が風に揺れ、昔使われていたらしい柵がところどころに残っている。その先には広い草地が続いていた。


ロディオは先頭を歩きながら、何度も左右を確認する。


「人の気配は?」


エイルが聞く。


「まだ」


メルディアも周囲を見ている。


しばらく進む。


小高い丘を越えたところで、ルシエラが声を上げた。


「いました!」


草地の先。


一人の男が座らされていた。


手を後ろに回されているように見える。


ルシエラが駆け出しかける。


ロディオが腕を掴んだ。


「待って」


「でも」


「足跡がない」


ルシエラが止まる。


男の周囲を見る。


確かに、そこまで誰かを運んだ跡がない。


風が吹いた。


草が大きく揺れる。


男の服だけが動かなかった。


メルディアが言う。


「偽物」


次の瞬間。


男の姿が薄くなった。


そのまま空気へ溶ける。


「正解」


女の声がした。


五人が振り向く。


少し離れた草地に、一人の魔族が立っていた。


赤い短髪。


前方へ大きく湾曲した二本の角。


黒と赤を基調にした軽装。


腰には細身の短剣。


その後ろから、三人の魔族が現れた。


ロディオの顔が変わる。


「この前の三人」


白い粉を角にかけられた男もいる。


女が三人を見る。


「うちの子たちがお世話になったみたいね」


ルシエラが一歩前へ出た。


「人質は?」


女がルシエラを見る。


「いないよ」


ルシエラの肩から力が抜けた。


「……よかった」


「え?」


女が少し目を丸くする。


「怒らないの?」


「誰も捕まってないなら、その方がいいです」


女は数秒ルシエラを見た。


やがて笑う。


「あなた、面白いね」


エイルが剣を抜いた。


「誰だ?」


三人のうち、隊長格の男が答えた。


「ミゼリア様だ」


クラウスの表情が硬くなる。


「ミゼリア……四天王の」


「知ってるんだ」


ミゼリアは楽しそうだった。


「話が早くて助かる」


ロディオも短剣を抜く。


「俺たちをどうするつもり?」


「うちの潜入を見つけられちゃったからね。そのまま放っておくのも困るし」


ミゼリアの視線がルシエラへ移る。


「それと、あなたの防御。ちょっと見たかった」


ルシエラがクラウスの後ろへ下がる。


ミゼリアは三人へ目を向けた。


「まず、やってみて」


隊長格の男が短剣を抜いた。


残る二人も構える。


エイルが剣を正面に向ける。


「来るぞ!」


ルシエラが両手を合わせた。


「《光と闇の祝福》!」


戦闘が始まった。


◇


最初に動いたのは双短剣の男だった。


速い。


一直線にロディオへ向かう。


「また俺?」


ロディオも飛び出した。


刃がぶつかる。


一度。


二度。


三度。


ロディオが下がる。


相手の方がわずかに速い。


横からもう一人がエイルへ入った。


エイルが剣で受ける。


金属音。


相手は力で押さず、そのまま剣の外側へ滑る。


短剣がエイルの肩へ走った。


エイルが身体を捻る。


刃先が服を裂いた。


「エイル!」


「浅い!」


背後から風が飛ぶ。


クラウスが杖を上げた。


「《プロテクション》!」


透明な防護がエイルを包む。


その横を炎が抜けた。


「《フレイムランス》」


メルディアの炎が、後方にいた三人目を狙う。


魔族の姿が二つに分かれた。


炎が片方を貫く。


消える。


「幻」


本体は横へ動いていた。


だが、その移動先へロディオが短剣を投げた。


魔族が避ける。


その一瞬。


エイルが踏み込む。


「《薙ぎ払い》!」


大きく薙いだ剣が、前衛二人をまとめて下がらせる。


ロディオも間合いを取り直した。


「三人なら、いける!」


「油断するな!」


エイルが言う。


双短剣の男が再びロディオへ入る。


ロディオは正面から付き合わない。


一歩引き、斜めへ抜ける。


そこへエイルの剣が入った。


男が身を反らす。


刃が服を裂く。


隊長格がすぐにエイルへ詰め、攻撃を止める。


今度はメルディアの炎が飛んだ。


後衛の魔族はかわしきれず、炎が脇腹を掠める。


「っ!」


初めて、三人の側から声が漏れた。


ミゼリアは少し離れたところで見ていた。


腕を組んでいる。


「へえ」


エイルたちには聞こえなかった。


「ちゃんと戦えるんだ」


◇


双短剣がロディオの右脚を掠めた。


血が散る。


ロディオはそのまま《疾駆》で距離を外す。


クラウスがそちらを見る。


「ロディオ!」


「まだ平気!」


エイルも肩から血を流している。


それでも三人を押し返していた。


人数の差がある。


誰かが一人を止めれば、別の誰かが横から入れる。


隊長格の魔族の腕にも、エイルの剣が浅く入った。


後衛の魔族はメルディアの炎で服の一部を焦がしている。


ミゼリアが手を上げた。


「そこまで」


三人が同時に下がった。


エイルたちも追わない。


ミゼリアが前へ出る。


「今度は私」


ロディオが息を整えながら言う。


「四人で来るんじゃないんだ」


「それでもいいけど」


ミゼリアが笑う。


「まず自分で見たいから」


短剣を一本抜いた。


エイルが構える。


ミゼリアの姿が消えた。


ように見えた。


「――!」


エイルが剣を振る。


空を切る。


横。


ミゼリアがいた。


短剣の腹で剣を押す。


それだけで軌道がずれた。


エイルが振り返る。


もういない。


「右!」


ロディオの声。


エイルが向く。


ミゼリアが目の前にいた。


蹴り。


エイルが腕で受ける。


身体が草の上を滑った。


「エイル!」


ロディオが横から入る。


短剣を突き出す。


ミゼリアは半歩だけ動いた。


刃が胸元を通り過ぎる。


ロディオの腕を掴む。


体勢を崩す。


地面へ投げる。


「ぐっ!」


メルディアが杖を向ける。


「《フレイムランス》!」


炎が走る。


ミゼリアの前に水が広がった。


炎とぶつかる。


蒸気が弾けた。


メルディアが次を撃とうとする。


その時には、ミゼリアが目の前にいた。


短剣の先が杖へ触れる。


「遅い」


軽く押された。


メルディアが数歩下がる。


クラウスが前へ出た。


ミゼリアは追わない。


少し離れる。


五人を見る。


首を傾げた。


「……思ってたより普通だね」


エイルが起き上がる。


「それ、褒めてないよな」


「うん」


あっさり答えた。


ロディオも立ち上がる。


右脚から血が流れている。


ミゼリアはルシエラを見る。


「報告だと、もっと変なのかと思った」


ルシエラが杖を握る。


「変?」


「戦った跡はすごいし、下層にはどんどん潜るし」


ミゼリアは短剣を回した。


「でも、戦ってみたら普通に弱い」


エイルの顔が引き締まる。


ミゼリアは笑った。


「私から見れば、だけどね」


風が動いた。


ミゼリアの周囲に、水が浮かぶ。


細い刃の形へ変わった。


一つ。


二つ。


数が増える。


さらに風がそれぞれを包む。


ロディオが構え直した。


「来る!」


水刃が飛んだ。


エイルが一本を弾く。


別方向から二本目。


ロディオがかわす。


さらに後ろから軌道を曲げた刃が来る。


メルディアも避ける。


クラウスが防護を張る。


数が多い。


角度も違う。


五人それぞれへ同時に飛んでくる。


「ルシエラ!」


エイルの声。


全員が動いた。


ルシエラの周囲へ集まる。


「《絶対防御領域》!」


水刃が届いた。


消えた。


続けて風刃が飛ぶ。


ルシエラたちの横を通ったものは、地面を深く切り裂いた。


五人へ向かったものだけが何も残さない。


草も。


土も。


服も。


傷一つつかなかった。


ミゼリアの笑みが消えた。


じっと見る。


「……本当なんだ」


もう一度、手を動かす。


一本だけ水刃を飛ばした。


領域へ入る。


何も起こらない。


今度は地面へ向けて風を叩きつける。


領域の外側で土が弾けた。


内側の草は揺れているだけだった。


ミゼリアが少し近づく。


エイルがルシエラの前へ立つ。


「近づくな」


「大丈夫。今は見てるだけ」


ミゼリアは領域の縁を眺めた。


右へ歩く。


少し考える。


また左へ。


ルシエラの周囲。


六メートルほど。


そこだけが、攻撃から切り離されている。


ミゼリアの口元に、ゆっくり笑みが戻った。


「外から駄目なら」


視線がルシエラへ向く。


「中はどうなんだろうね」


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