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第23話 重なる異変

翌朝、五人は再びダンジョンへ入った。


上層はほとんど足を止めずに抜け、中層もこれまでに通った道を選んだ。


何度か魔物の気配はあったが、進路を変えられるものは避けた。今日は素材を集めに来たわけではない。


前回見つけた下り道へ着いたのは、昼を少し過ぎた頃だった。


石の通路が斜め下へ続いている。


ロディオが先を覗き込む。


「行く?」


エイルが頷いた。


「行こう」


ロディオを先頭に、五人は下り始めた。


途中から壁に残された目印が減り、足元の擦れも少なくなった。誰かが休んだ跡も、魔物を解体した跡も見なくなる。


ロディオの歩く速度が少し落ちたが、誰も急かさなかった。


しばらくして傾斜が終わった。


そこから先は、再び平らな通路になっていた。


◇


最初に止まったのはロディオだった。


手を上げる。


少し先の岩陰。


細い脚が見えた。


続いて、大きな鎌。


一体が通路へ出てくる。


さらにもう一体。


「ブレードマンティス」


メルディアが言った。


エイルが剣を抜く。


「ルシエラ」


「はい。《光と闇の祝福》!」


淡い光が広がる。


その直後。


二体が左右へ分かれた。


「速い!」


エイルが一体へ身体を向ける。


追おうとして、すぐやめた。


距離が縮まらない。


もう一体にはロディオが走る。


こちらは追いついている。


短剣と鎌がぶつかった。


甲高い音が響く。


エイル側の一体は、そのまま後ろへ抜けようとしていた。


「《薙ぎ払い》!」


剣を大きく振る。


刃は届かない。


だが、進路へ入った。


ブレードマンティスが横へ跳ぶ。


「メルディア!」


火球が飛んだ。


さらに横へ避ける。


そこへエイルが踏み込んだ。


剣を振る。


また避けられた。


「こいつ、かなり速い!」


ブレードマンティスが反転する。


今度は向こうから来た。


鎌。


一本目を剣で逸らす。


二本目。


エイルが身体を捻る。


肩口を浅く切られた。


「っ」


「エイル!」


ルシエラの声。


「大丈夫!」


ブレードマンティスが離れる。


エイルは追わなかった。


剣を構えたまま待つ。


再び近づいてくる。


鎌を避ける。


もう一本も外へ流す。


今度は近い。


踏み込んだ。


剣が胴へ入る。


ブレードマンティスが大きく崩れた。


「そこ」


メルディアの火球が直撃する。


一体目が倒れた。


すぐ横でロディオの声が上がる。


「こっちはまだ!」


もう一体がロディオへ鎌を振るっていた。


一撃。


二撃。


ロディオは避ける。


三撃目。


少し深い。


「《疾駆》!」


一気に横へ抜けた。


空振りしたブレードマンティスへ、エイルが入る。


今度は間に合った。


剣が脇腹へ食い込む。


ロディオも戻る。


左右から攻撃を受け、二体目も倒れた。


しばらくして、ロディオが息を吐いた。


「そっちの、やっぱり速かったな」


エイルが肩を押さえながら頷く。


「全然違った」


「俺の方は追えた」


メルディアが倒れた二体を見比べた。


「今回は差が大きかった」


「見た目じゃ分かんないのが面倒だな」


ロディオが言った。


クラウスがエイルへ近づく。


「肩を見せてください」


「浅いよ」


「見れば分かります」


傷を確認する。


本当に浅かった。


クラウスが少し考え、ルシエラを見る。


「下は思ったより消耗しそうですね。ルシエラさん、お願いしてもいいですか?」


「はい」


ルシエラがエイルの肩へ手を添えた。


「《ヒール》」


柔らかな光が傷を塞いでいく。


エイルが肩を回す。


「ありがとう」


「どういたしまして」


クラウスは自分の杖には触れなかった。


ロディオが先を見る。


「行けそう?」


「まだ大丈夫」


エイルが答える。


五人は先へ進んだ。


◇


次の敵は、姿を見るより先に仕掛けてきた。


ロディオが急に止まる。


「待って」


全員が足を止めた。


ロディオは床を見ている。


小さな石が僅かに転がった。


「下――」


メルディアの足元が盛り上がる。


本人が横へ跳ぶ。


直後。


石床が弾けた。


巨大な爪。


その後から、灰色の巨体が飛び出す。


グレイヴモール。


爪がメルディアのローブの裾を裂いた。


「怪我は?」


エイルが走る。


「ない」


グレイヴモールは地面へ戻ろうとしていた。


だが、動きが遅い。


ロディオが先に回り込む。


短剣。


前脚へ入った。


グレイヴモールの身体が止まる。


エイルも追いついた。


剣を振る。


メルディアの火球が頭部へ当たる。


もう一度潜る前に、ロディオが横へ回る。


ほどなく魔物は動かなくなった。


ロディオが床を見た。


「潜ってる間の方が面倒だな」


メルディアは裂けた裾を持ち上げている。


「出たら遅い」


「次は振動見ればいいか」


「今よりは」


エイルが周囲を見る。


「怪我ないなら行こう」


メルディアが頷いた。


「大丈夫」


五人は再び歩き出した。


◇


そこからしばらくは何も出なかった。


道が広くなる。


何本もの岩柱が見え始めた。


その先に、大きな空間がある。


壁や床の一部から、青白い結晶が露出していた。


ロディオが足を止める。


「いる」


奥。


結晶の近くに、大きな影が伏せている。


四本脚。


長い尾。


背中から首へかけて、青白い結晶。


クリスタルドレイクが頭を上げた。


視線がこちらへ向く。


「起きたな」


エイルが剣を抜いた。


ドレイクの背中が光った。


「来る!」


光弾。


エイルが横へ跳ぶ。


後ろで大きな音がした。


振り返ると、壁が抉れている。


「当たりたくないな」


ロディオが言う。


「うん」


エイルも同意した。


「《光と闇の祝福》!」


ルシエラの声。


エイルが前へ出る。


二発目。


身体を沈める。


頭上を光が通った。


そのまま距離を詰める。


剣を前脚へ。


浅い。


「硬い!」


クリスタルドレイクの尾が振られる。


エイルが下がる。


ぎりぎりで避けた。


「《プロテクション》!」


クラウスの声。


身体を淡い光が包む。


反対側ではロディオが走っていた。


クリスタルドレイクの頭がそちらを向く。


光弾。


ロディオが横へ抜ける。


当たらない。


さらに回り込む。


「こっち!」


ドレイクがロディオを追う。


その間にエイルが前脚へもう一度斬り込む。


やはり浅い。


「《ブレイク》!」


剣を叩き込む。


硬い鱗が割れた。


クリスタルドレイクが吠える。


「そこ」


メルディアが杖を向けた。


「《フレイムランス》」


炎の槍が割れた場所へ突き刺さる。


巨体が揺れた。


エイルがさらに近づく。


今度はドレイクが前へ出た。


前脚。


避ける。


すぐに尾。


エイルも見えていた。


だが、戻り切れない。


剣を挟む。


衝撃。


身体ごと横へ飛ばされた。


床を転がる。


「エイル!」


ルシエラが声を上げる。


エイルはすぐに片膝をついた。


「大丈夫!」


腕が痺れている。


立てる。


クリスタルドレイクが追ってこない。


ロディオが横から脚へ攻撃していた。


ドレイクが振り向く。


光弾。


ロディオは岩柱の裏へ入る。


光が柱へ当たった。


石が砕ける。


「結構削れるな!」


ロディオが反対側から出る。


別の光弾。


また避ける。


速さではロディオが上だった。


その間にエイルが立ち上がる。


腕を一度振る。


まだ重い。


だが剣は握れる。


メルディアが別の岩柱の陰へ移動する。


クリスタルドレイクの背中。


いくつかの結晶が同時に光った。


「増えた」


メルディアが言った。


光弾が連続で飛ぶ。


エイルは岩柱へ。


クラウスも別の柱へ走る。


ルシエラもすぐに動いた。


光が床を砕く。


次。


壁。


さらに次。


ロディオが身体を低くする。


石片が腕を掠めた。


「っ」


「ロディオ!」


「平気!」


止まらない。


クリスタルドレイクがロディオへ頭を向ける。


その隙にエイルが柱から出た。


割った鱗へ剣を入れる。


今度は深い。


ドレイクが身体を振る。


エイルはすぐ離れた。


「同じところ!」


メルディアの《フレイムランス》。


さらに傷が広がる。


クリスタルドレイクが大きく向きを変えた。


尾がメルディアのいる岩柱へ当たる。


石が崩れる。


メルディアが離れる。


「そっち危ない!」


ルシエラが声を上げた。


メルディアが走る。


直後、崩れた岩柱へ光弾が当たった。


完全に砕けた。


「長引くと隠れる場所なくなるな!」


エイルが言う。


「分かってる!」


ロディオがさらに外へ回る。


クリスタルドレイクの視線がまた動く。


その瞬間。


エイルが前へ。


傷のある側から斬る。


ドレイクが前脚を振り上げた。


「エイル、下がって!」


クラウス。


エイルが横へ抜ける。


前脚が床を叩いた。


メルディアの火球が顔へ当たる。


クリスタルドレイクが怯む。


ロディオが脚へ入った。


短剣が関節を切る。


巨体が傾いた。


「今!」


エイルが踏み込む。


首元。


剣を振り下ろす。


一撃。


ドレイクがまだ身体を起こそうとする。


ロディオがすぐ離れた。


メルディアが杖を向ける。


「離れて」


エイルも飛び退く。


「《フレイムランス》」


炎の槍が首元へ刺さった。


クリスタルドレイクの身体が大きく震える。


そのまま床へ崩れた。


静かになった。


誰もすぐには近づかない。


ロディオが肩で息をしながら言った。


「……終わった?」


メルディアが少し待つ。


「動いてない」


エイルが剣を下ろした。


「強かったな」


クラウスがすぐに来る。


「エイル、腕を見せてください」


「動くよ」


「動くかどうかだけじゃありません」


その間にルシエラがロディオの腕へ気づいた。


「そこ、切れてます」


「石が当たっただけ」


「見せてください」


ロディオが腕を出す。


クラウスがエイルの状態を確認しながら言った。


「ルシエラさん、そちらお願いできますか?」


「はい」


「《ヒール》」


ロディオの腕の傷が塞がる。


「ありがと」


ルシエラが今度はエイルを見る。


「エイルは?」


「打った方だから、クラウスに任せる」


クラウスが頷いた。


「骨には問題なさそうです。少し休んでください」


エイルが近くの岩へ座る。


腕の痛みは引いてきた。


だが、疲れている。


メルディアも壁際へ座っていた。


杖を膝へ置いている。


ロディオが奥へ続く道を見る。


「まだ行く?」


エイルは答える前に四人を見た。


誰も動けないほどではない。


ロディオも歩ける。


メルディアも魔法はまだ使える。


クラウスにも余裕はある。


ルシエラも同じ。


ただ。


「もう一体、今のが出たらどうする?」


ロディオが奥を見たまま止まった。


クラウスが答える。


「倒せたとしても、その後があります」


帰り道も残っている。


エイルは少し考えた。


「戻ろう」


メルディアがすぐに頷く。


「賛成」


ルシエラも言った。


「私もです」


ロディオが最後に奥を見る。


「じゃあ次だな」


「次だな」


エイルが立ち上がった。


五人は来た道を戻り始める。


帰り道、最初に戦った場所を通った時、ロディオが倒れたブレードマンティスの方を見た。


「次も速いとは限らないんだよな」


エイルが答える。


「遅いとも限らないけどな」


「それが面倒なんだよ」


ロディオは先頭へ戻った。


その後は大きな戦闘もなく中層まで戻り、そこでようやく五人の歩調が少しだけ緩んだ。


下層でも戦えることは分かった。どこまで行けるかは、まだ分からない。


◇


夕方、ギルドへ戻ると受付の職員に呼び止められた。


「今日、下層まで行かれましたよね?」


「はい」


エイルが答える。


「何か変わったことはありませんでしたか?」


五人が顔を見合わせる。


ロディオが先に答えた。


「速いブレードマンティスはいた」


「同じ二体でも、かなり差があった」


メルディアが続ける。


「クリスタルドレイクも強かった」


職員の手が止まった。


「下層でもですか……」


「何かあったんですか?」


ルシエラが聞く。


職員は机の上の紙を見てから、別の紙もめくった。


「今日、中層から似た報告が三件来ています。魔物の動きや攻撃が普段と違った、と。冒険者側の魔法や身体の動きまで、いつもと違ったという話もあります」


エイルが眉を寄せた。


「前から出てた話ですよね」


「はい。最初は中層だけでした」


職員は今書いた下層の記録を見る。


「複数の階層にまたがっているのかもしれません」


ロディオが聞く。


「ダンジョン全体ってこと?」


「まだ分かりません。ですが、こちらでも調べます」


ルシエラは少し心配そうに言った。


「私たちが入った時も敵が強かったですし……何か起きてるのかもしれませんね」


メルディアが頷く。


「可能性はある」


五人が持ち帰った情報も、その日の記録へ加えられた。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


もし作品を楽しんでいただけていましたら、ブックマーク登録や★評価をしていただけると、今後の執筆の大きな励みになります。


これからも『聖女は敵にもバフを掛ける』をよろしくお願いいたします。

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