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第17話 カレナ帰還

カレナの東門が見えてきた頃には、日がかなり傾いていた。


エイルたちの前後には、ドルガから避難してきた人々が続いている。荷車や馬車に加え、家族で歩く者や負傷した兵士の姿もあった。


門の前では、カレナの兵士たちが声を張っている。


「荷馬車は左へ!」


「怪我人は神殿へ回せ!」


「宿が必要な者は広場へ!」


ロディオが大きく息を吐いた。


「戻ってきた……」


「ですね」


ルシエラも肩から力を抜いた。


エイルは後ろを見る。


東の街道に魔王軍の姿はない。


ハインツが言っていた通り、追撃もなかった。


門を抜けると、ギルドの職員が待っていた。


「エイルさんたちですね?」


「はい」


「落ち着いたらギルドへ来てください。ドルガの状況を聞きたいそうです」


エイルたちは顔を見合わせた。


ロディオが言う。


「落ち着く前に行った方が早くない?」


メルディアが頷く。


「どうせ気になる」


「じゃあ行くか」


五人はそのままギルドへ向かった。


◇


「普通の魔族兵まで?」


受付の職員が聞き返した。


「はい」


エイルが答える。


「力も速さも、かなりありました」


「俺、一人と打ち合ったんですけど」


ロディオが割って入る。


「普通の兵だと思って受けたら、普通じゃなかったです」


「他の冒険者からも似た報告があります」


職員は手元の紙へ書き込んだ。


「ドルガから戻った兵士も、同じことを言っています」


メルディアが聞く。


「ガルベルトだけじゃない?」


「その可能性が高そうです」


職員の表情が曇る。


「ガルベルトだけなら、四天王だからで済んだんですが」


ロディオが小さく言った。


「済ませてよかったんですかね、あれ」


誰も答えなかった。


職員は別の紙を見る。


「今のところ、魔王軍本隊がドルガより西へ動いたという報告はありません」


「止まったんですか?」


ルシエラが聞く。


「少なくとも今日は。ドルガに兵を入れて、街道や物資を押さえているようです」


エイルが息を吐いた。


「じゃあ、すぐカレナに来るわけじゃない」


「断言はできません。ただ、こちらも時間は使えます」


職員は五人を見る。


「皆さんも今日は休んでください。前線から戻ったばかりです」


ロディオが頷く。


「賛成」


「早いな」


エイルが見る。


「疲れたんだよ」


「俺も疲れてる」


「じゃあ賛成でいいだろ」


「それはそうだけど」


職員が少し笑った。


「明日以降、カレナ周辺の依頼もお願いすることになると思います」


掲示板を見る。


戦争が始まっても、魔物がいなくなるわけではない。


残っている依頼は多かった。


エイルも掲示板を見る。


「……次に魔王軍と戦うなら」


四人が見る。


「今のままじゃまずいと思う」


ロディオが頷いた。


「それは思った」


メルディアも。


「敵が強くなってる」


クラウスが続ける。


「こちらも準備しておいた方がいいですね」


ルシエラが杖を握る。


「私も頑張ります」


エイルは頷いた。


「まず今の俺たちが、どのくらい動けるか確認しよう」


◇


翌朝。


ギルド裏の訓練場では、エイルが木剣を構え、その少し離れたところにロディオが立っていた。メルディアとクラウスは端から様子を見ている。


ルシエラが杖を握る。


「いきますね」


「頼む」


「《光と闇の祝福》」


淡い光が広がる。


エイルが試しに一歩踏み込むと、思った以上に身体が前へ出た。


「うおっ」


慌てて足を止める。


ロディオが笑う。


「昨日もそれやってたな」


「じゃあお前もやってみろよ」


「いいよ」


ロディオも走り出し、一気に加速した。


「おっ」


そのまま訓練場の端まで行きかける。


「ちょっ――」


慌てて身体を捻り、壁の手前で止まって振り返った。


「……速いな」


エイルが笑った。


「昨日もそれやってただろ」


「戦闘中と訓練じゃ違うんだよ」


メルディアが言う。


「同じ身体だけど」


「そういう話じゃない」


クラウスも自分の手を見ている。


「ここまで体感が変わるなら、動き方も少し変えた方が良さそうですね」


エイルが木剣を握り直した。


「だな」


ルシエラが心配そうに聞く。


「使いにくいですか?」


「逆」


エイルが答える。


「強すぎて、まだ慣れてないだけ」


ルシエラの顔が明るくなった。


「じゃあ、練習すればもっと役に立てますね」


「そうなるな」


「頑張ります」


ロディオがエイルを見る。


エイルも見る。


ロディオが小声で言った。


「なんか、やる気上がってない?」


「いいことだろ」


「そうなんだけど」


「何だよ」


「いや、別に」


二人は訓練へ戻った。


◇


ドルガの外。


ガルベルトは大きな岩の前に立っていた。町からは十分離れ、街道からも外れている。


副官が周囲を確認する。


「ここなら問題ありません」


「よし」


ガルベルトが右手を上げた。


昨日は同じ魔法で、応急防壁とその後ろの建物まで吹き飛ばした。今日の標的は、何もない場所に置かれた岩だけだ。


「《ファイヤーボール》」


飛んだ火球が岩へ当たって爆発し、表面が砕けて石片がぱらぱらと落ちた。


それだけだった。


ガルベルトはしばらく岩を見た。


「……普通だな」


副官も見る。


「普通ですね」


「もう一回やるか?」


「同じ結果かと」


「そうだな」


ガルベルトは自分の手を見る。昨日と何も変わらず、魔力の流れもいつも通りだった。


「俺がおかしくなったわけではない」


「そのようですね」


ガルベルトの表情が少し明るくなった。


「やはり、常に起きるわけじゃないのか」


「何か条件があると?」


「そう考える方が自然だろう」


ガルベルトはドルガの方を見る。


昨日は異常だったのに、今日は普通に戻っている。


「神魔大戦の影響が、何かの条件で表に出る」


副官が頷く。


「あり得ますね」


「調査を急がせろ」


「すでにヴェルナー様が始めています」


ガルベルトは歩き出した。


「行くぞ」


「どちらへ?」


「調査だ」


「ガルベルト様もですか?」


「当然だ」


副官は少しだけ間を置いた。


「……はい」


◇


ドルガ郊外。


ヴェルナーは古い地図を片手に歩いていた。


調査兵たちが周囲の地面や岩を調べている。


ガルベルトが後ろから来る。


「何かあったか」


「まだ何も」


「範囲を広げろ」


「すでに広げています」


「もっとだ」


ヴェルナーが古い地図を見る。


「伝承の範囲自体が広いです。西側にも人を回します」


「昨日の戦場周辺も頼む」


「すでに調べています」


「なら、その外もだ」


ヴェルナーは少し考えてから頷いた。


「分かりました。範囲をもう一段広げます」


その時。


少し離れた場所から声が上がった。


「ヴェルナー様!」


二人が振り返る。


調査兵が丘の斜面から手を振っている。


「こちらを!」


地面の一部が掘られ、土の下から石の角が覗いていた。


ヴェルナーはしゃがみ込んで表面の土を払う。刻まれていた紋様が現れ、その目が細くなった。


「……古いですね」


さらに周囲を掘ると、石は一つではなかった。地中へ続く石造りの壁には、現代のものとは違う細い溝が刻まれている。


少し離れた場所からは、錆びた武具の破片も出てきた。


ヴェルナーが手をかざす。


しばらく黙る。


「魔力も残っています」


ガルベルトがすぐ隣へ来た。


「どの程度だ」


「微弱です」


「残っているんだな」


「はい」


ヴェルナーは石に刻まれた紋様を見る。


「神魔大戦時代の遺構でほぼ間違いないでしょう」


ガルベルトが腕を組んだ。


「……あったな」


「ありましたね」


「神魔大戦の跡が」


「ええ」


「魔力も残っている」


「微弱ですが、残っています」


ガルベルトが頷く。


「昨日は異常。今日は普通」


「はい」


「何か条件がある」


ヴェルナーは遺構と地図を見比べた。


「そう見た方がよさそうですね」


ガルベルトの顔に満足そうな色が浮かぶ。


「かなり繋がってきたな」


ヴェルナーが立ち上がった。


「調べる順番を変えます」


「何からだ」


「場所、時間、人数、使った魔力量。昨日と今日で違う条件を一つずつ潰します」


ガルベルトが遺構を見下ろす。


「それでいけ」


「はい」


「条件が分かれば再現できる」


「そこまで行けば、今後の進軍にも使えます」


ガルベルトが頷いた。


◇


その頃。


カレナの冒険者ギルド。


エイルたちは掲示板の前にいた。


ロディオが一枚の依頼書を外す。


「これどう?」


エイルが覗く。


以前なら、少し迷った難度だった。


メルディアも横から見る。


「今ならいけると思う」


クラウスが頷く。


「訓練だけでは分からないこともありますからね」


ルシエラが嬉しそうに言った。


「私も、もっと祝福を上手く使えるようになりたいです」


エイルは依頼書を受け取った。


「じゃあ、これにしよう」


「決まり」


ロディオが受付へ向かう。


ルシエラもその後を追った。


「頑張りましょう!」


五人は次の依頼を受けに歩き出した。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


もし作品を楽しんでいただけていましたら、ブックマーク登録や★評価をしていただけると、今後の執筆の大きな励みになります。


これからも『聖女は敵にもバフを掛ける』をよろしくお願いいたします。

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