↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/54

第16話 魔王軍本隊

朝になっても、ドルガの東側には焦げた臭いが残っていた。


兵士たちは崩れた城壁の前に荷車を並べ、その隙間へ木材や瓦礫を積んでいる。門はなく、作れるのはせいぜい壁だった。


「次!」


エイルが木材を受け取る。


昨日より人が少ない。


夜のうちにも避難は進み、西門から何台もの荷馬車が出ていった。


残っている住民も、あと僅かだ。


ロディオが東側から走ってきた。


「来た!」


エイルが振り返る。


「魔王軍?」


「今度は本隊!」


近くにいた兵士たちの顔が変わった。


ハインツがすぐに声を上げる。


「作業中止! 戦える奴は持ち場へ! 避難組は西門を急がせろ!」


ルシエラが東の街道を見る。


遠くに上がる土煙は、昨日とは違って横に長く広がっていた。


「……多いですね」


クラウスが頷く。


「本隊でしょう」


近くを走っていた兵士が仲間に声をかける。


「昨日より強くなってたんだろ?」


「ああ」


「今日もか?」


「知るか!」


その声がルシエラにも聞こえた。


昨日。


一発で消えた東門。


さらに強くなっていたら。


ルシエラは杖を握り直した。


「エイルさん」


「ああ」


「皆さんの近くにいます」


「頼む」


東街道の先。


黒い鎧の一団が、ドルガの前で止まった。


◇


ガルベルトは馬上からドルガを見た。


昨日、自分が開けた場所がよく見える。開けたというより、なくした場所だった。


ガルベルトは視線を逸らした。


「全軍に通達」


副官が振り向く。


「はい」


「上位火炎魔法は禁止する」


周囲の指揮官たちが顔を上げた。


ガルベルトは続ける。


「昨日の件がある。土地の状態を確認するまでは、大規模な魔法を使うな」


「承知しました」


「今日は町を取る」


一拍。


「壊すな」


「はっ!」


返事が揃った。


ガルベルトは満足そうに頷いた。


昨日とは違い、今日は慎重にやるつもりだった。ヴェルナーから聞いた神魔大戦の伝承もある。土地の魔力が不安定なら、それに合わせればいい。


「まず俺が試す」


副官が見る。


「何を使われますか?」


「小さいのでいい」


ガルベルトが右手を上げる。


「《ファイヤーボール》だ」


副官が頷いた。


「それなら問題ないかと」


「だろう」


◇


城壁の跡では、兵士たちが武器を構えていた。


エイルも剣を抜く。


ルシエラが周囲を見る。


怖い。


昨日より多い。


ガルベルトもいる。


でも、ここにはまだ人がいる。


「《光と闇の祝福》!」


淡い光が広がった。


エイルの身体が軽くなる。


昨日と同じ。


いや。


「……また強くなってない?」


ロディオが小さく言った。


メルディアが東を見る。


「来る」


赤い光が見えた。


ハインツも気づく。


「魔法!」


ガルベルトの掌に、小さな火球が浮かんでいる。


ハインツの眉が寄った。


「……ファイヤーボール?」


エイルが聞き返す。


「それだけ?」


「たぶん」


火球が飛んできた。


応急的に積み上げた木材と瓦礫へ当たる。


爆発した。


「は?」


木材が吹き飛んだ。


荷車が跳ね上がる。


瓦礫が崩れ、地面が抉れる。


すぐ後ろにあった家の壁まで吹き飛んだ。


爆風が通りへ抜け、窓が一斉に割れる。


ハインツが口を開けたまま止まっていた。


「……」


エイルが横を見る。


「今の」


「ファイヤーボールだ」


「本当に?」


「名前はな」


◇


ガルベルトも止まっていた。


「……」


副官も止まっていた。


二人の前で煙が上がっている。


ガルベルトがゆっくり口を開いた。


「ファイヤーボールだよな」


「はい」


「俺は今、ファイヤーボールを撃ったよな」


「はい」


「ブラストフレアではないな」


「はい」


煙の中で、家の屋根が落ちた。


ガラガラガラ。


ガルベルトはそれを見た。


副官も見た。


ガルベルトが頷く。


「よし」


副官が見る。


「何がでしょう」


「やはり土地だ」


「ああ……」


「ファイヤーボールだぞ」


「はい」


「俺が多少力を入れすぎたとしても、ファイヤーボールはファイヤーボールだ」


「そうですね」


ガルベルトの顔が明るくなった。


「神魔大戦の影響だ」


副官も煙の向こうを見る。


「昨日より、かなり有力になりましたね」


「だろう」


「少なくとも、ガルベルト様の調子だけでは説明できません」


「そういうことだ」


ガルベルトは腕を組む。


「攻撃魔法は禁止」


「全軍ですか?」


「全軍だ」


「魔術部隊も?」


「撃つな」


「承知しました」


「何が起きるか分からん土地で、次々魔法を撃てるか」


副官が頷く。


ガルベルトは改めてドルガを見る。


「歩兵を前へ」


「はっ!」


命令が伝わっていく。


魔王軍が動き始めた。


◇


「来るぞ!」


ハインツの声で、エイルは剣を構えた。


魔族兵たちが瓦礫を越えてくる。


昨日の騎馬隊とは数が違う。


「ロディオ!」


「右!」


エイルが前へ出る。


一人目。


魔族兵の剣が振り下ろされた。


受ける。


ガンッ!


「っ!」


腕が沈んだ。


「重っ!」


相手も一瞬驚いたような顔をした。


だが、そのまま押し込んでくる。


エイルは横へ流して斬り返す。


魔族兵が後ろへ跳んだ。


速い。


「エイル!」


ロディオの声。


横から来た槍を避ける。


その先で、ロディオが別の魔族兵と打ち合っていた。


「こいつら!」


短剣で受ける。


押される。


「普通の兵だよな!?」


「たぶん!」


「たぶんって何だよ!」


メルディアの火球が飛ぶ。


魔族兵が横へ跳ぶ。


「避けるの速い!」


ハインツも剣を交えていた。


一人を押し返す。


すぐに二人目が来る。


「昨日の話……」


剣がぶつかる。


「ガルベルトだけじゃないぞ!」


周囲の兵士たちにも動揺が広がった。


「魔族兵まで強い!」


「何だこいつら!」


エイルはもう一度剣を受けた。


やはり重い。


昨日聞いた言葉が頭をよぎる。


魔王軍が何かしている。


「本当に全体が……」


「エイル!」


クラウスの声で我に返る。


剣が来る。


避ける。


「考えるの後!」


「分かってる!」


◇


「……妙だな」


魔王軍の兵士が呟いた。


隣の兵士が敵の剣を弾く。


「何が?」


「今日、身体軽くないか?」


「俺も思った」


別の兵士が走り抜ける。


「この辺に入ってからだ」


後方にいた副官がその声を聞いた。


ガルベルトを見る。


「ガルベルト様」


「何だ」


「兵から、身体が軽いという報告が」


ガルベルトが眉を上げる。


「兵も?」


「数名ですが」


ガルベルトはドルガを見る。


魔法だけではない。


身体まで。


少し考える。


そして頷いた。


「神魔大戦だな」


副官が一瞬止まる。


「身体能力にも影響が?」


「神と魔族が戦った場所だぞ」


「はい」


「何が残っていてもおかしくない」


「……なるほど」


ガルベルトは腕を組んだ。


「ヴェルナーに報告しておけ」


「承知しました」


ガルベルトは満足そうに戦場を見る。


「かなり有力になってきたな」


副官は何も言わなかった。


◇


西門から、最後の大きな荷馬車が出ていく。


兵士が走ってきた。


「避難完了!」


ハインツが振り返る。


「全員か!」


「確認できました!」


ハインツは東を見る。


崩れた城壁。


増え続ける魔王軍。


残っている兵。


その向こうに、まだ本隊がいる。


「撤退する!」


エイルが見る。


「町を?」


「住民は出た! ここで全滅して何になる!」


ハインツが周囲へ叫ぶ。


「順番に西へ退け! 負傷者を先に!」


「はい!」


エイルたちも動く。


クラウスが負傷兵へ肩を貸す。


ロディオは西側の道を確認する。


メルディアが追ってくる魔族を牽制する。


ルシエラは全員の中央から離れなかった。


エイルは最後に一度、東を見る。


ガルベルトがいる。


その周囲を、魔王軍が進んでくる。


「行こう!」


五人は西へ走った。


◇


夕方。


ドルガの中央広場に、魔王軍の旗が立った。


ガルベルトは周囲を見る。


昨日吹き飛ばした東側。


今日吹き飛ばした応急防壁。


それ以外は、大部分が残っている。


副官が横へ来た。


「ドルガの制圧、完了しました」


「うむ」


ガルベルトは少し満足そうに頷く。


「今回は残ったな」


副官が東側を見る。


煙がまだ上がっている。


「……はい」


ガルベルトもそちらを見る。


少し黙る。


「大部分は」


「はい」


「大部分は残った」


「はい」


ガルベルトは頷いた。


「ならいい」


副官は何も言わなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。