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第1話 誰だ今撃ったのは!

タイトル画像

https://52564.mitemin.net/i1256852/

聖女パーティメンバー

https://52564.mitemin.net/i1257710/

魔王軍メンバー

https://52564.mitemin.net/i1257715/

大陸地図

https://52564.mitemin.net/i1257724/

人間軍と魔王軍が、広い平原を挟んで向かい合っていた。


人間側には、何列にもわたって兵士たちが並んでいる。


剣を持つ者。

槍を構える者。

杖を握る魔術師。


前方には、一般兵とは明らかに違う装備をした戦士たちの姿もあった。


向かい側には魔族の軍勢。


黒い鎧をまとった兵士。

人間よりひと回りも大きな魔族。

空を飛ぶ者までいる。


そのさらに奥には四天王。


そして魔王グラディオ。


人間軍の後列にいた一人の兵士が、ごくりと唾を飲んだ。


これほどの軍勢を見るのは初めてだった。


なのに。


何も起きない。


「……?」


誰も動かなかった。


剣を構えているのに、斬りかからない。


弓を持っているのに、射ない。


魔術師たちも杖を握ったまま、魔法を使おうとしない。


向こうの魔族たちも同じだった。


「なんで攻撃しないんだ……?」


兵士が小さく呟く。


隣にいた年上の兵士が、ちらりとこちらを見た。


「お前、新入りか?」


「あ、はい」


「なら余計なことはするな」


「余計なことって?」


「何もするなってことだ」


意味が分からなかった。


ここは戦場だ。


目の前には魔族がいる。


何もしないのなら、何のためにこれだけの兵を集めたのか。


その時、魔王軍の前方を一体の魔族が横切った。


頭には角。


身につけているのは黒い鎧。


それを見た瞬間、兵士の頭に別の光景が浮かんだ。


燃える家。


崩れた村。


二度と帰ってこなかった家族。


「……魔族」


杖を握る手に力が入った。


「おい」


隣の兵士が気づいた。


「待て。お前、何を――」


「家族の仇だ!」


「やめろ!」


「《ファイヤーボール》!」


杖の先から火球が飛び出した。


初級の攻撃魔法。


魔術師なら最初に覚えるような、ごく一般的な魔法だった。


火球は魔族へ向かって飛んでいく。


だが、狙いは少し上にずれていた。


「あっ」


魔族の頭上を越えた。


そのまま魔王軍の上を通り過ぎ、さらに遠くへ飛んでいく。


見る間に小さくなり、やがて光の点ほどになった。


「……外れた」


兵士が呟いた。


遠くで、白い光が瞬いた。


「え?」


一拍遅れて、大地が揺れた。


凄まじい轟音が平原を走り抜ける。


地平線近くから炎と土煙が一気に噴き上がった。


遅れて届いた風が、兵士たちの髪や服を激しく揺らす。


何人かが反射的に身を屈めた。


兵士は杖を構えたまま固まっていた。


遠くの巨大な土煙を見る。


次に、自分の杖を見る。


もう一度、土煙を見る。


「…………ファイヤーボール?」


「誰だ今撃ったのは!」


怒号が飛んできた。


兵士が肩を跳ねさせる。


「誰だ! 勝手に魔法を使った奴は!」


「撃つなと言われていただろう!」


人間軍のあちこちから声が上がる。


「え……」


命令を無視したことを怒られるのは分かる。


だが、周囲の反応はそれだけではなかった。


「人間ども!」


今度は正面から大声が響いた。


魔王軍だった。


「何をしている!」


「攻撃を止めろ!」


「魔法を使うな!」


兵士の口が開いた。


「なんであいつらまで怒ってるんだ……?」


答えてくれる者はいなかった。


周囲では何人もの兵士が慌ただしく動き始めている。


ただし、攻撃の準備ではない。


「聖女様は!?」


「後方だ!」


「今の爆発を見たか!?」


「見ている!」


「誰かそばにいろ!」


兵士は人の間から後方を見た。


白を基調とした衣装をまとった女性が、遠く立ち上る土煙を見つめている。


ルシエラ。


兵士でも名前くらいは知っていた。


人間軍に同行している聖女だ。


「あんなに大きな爆発……」


ルシエラの表情が曇った。


「あの辺りに、人はいませんでしたか?」


近くにいた者たちの動きが止まる。


「だ、大丈夫です!」


誰かが答えた。


ルシエラがそちらを見る。


「本当ですか?」


「はい!」


「でも、確認した方が――」


「ルシエラ」


若い剣士が彼女のそばへ向かった。


「エイル」


「今はここにいて」


「でも……あんな爆発が起きたんですよ?」


エイルも遠くの土煙を見る。


「分かってる」


「怪我をしている人がいるかもしれません」


「それも分かってるから」


「なら――」


「確認は他の人に任せよう」


ルシエラはまだ心配そうに土煙を見つめていた。


その頃、魔王軍側でも声が飛び交っていた。


「聖女が今のを見たぞ!」


「分かっている!」


「これ以上騒ぎを起こすなと全軍に伝えろ!」


「人間側の聖女だぞ!?」


「だからどうした!」


魔王軍の中央。


グラディオは遠くの人間軍を見ながら、片手で眉間を押さえた。


「全軍に通達」


そばにいた部下が姿勢を正す。


「はっ」


「攻撃禁止だ」


「……人間側が先に撃ってきましたが」


「見ていた」


「反撃は?」


「するな」


部下が一瞬黙った。


グラディオがそちらを見る。


「撃ち返したら次が飛んでくるだろう」


「……はっ」


人間軍側でも命令が飛び始めた。


「魔法使用禁止!」


「弓も使うな!」


「勝手に攻撃するな!」


「聖女様の近くで余計な騒ぎを起こすな!」


最初に《ファイヤーボール》を撃った兵士は、ゆっくり杖を下ろした。


正面を見る。


魔族は攻撃してこない。


横を見る。


味方も攻撃しようとしない。


そして遠くでは、自分が撃ったはずの初級魔法が、まだ巨大な土煙を上げている。


「……何なんだよ、これ」


◇ ◇ ◇


――数年前。


十六歳を迎えたルシエラは、職業授与の日を迎えていた。


神から職業を授けられる。


同年代の者なら、誰もが迎える日だった。


《ファイター》。


《メイジ》。


《プリースト》。


《スカウト》。


どんな職業になるのかは、授けられてみなければ分からない。


ルシエラも、自分の番を待ちながら少し緊張していた。


その頃。


人間からは見ることのできない場所で、一柱の女神が職業授与を進めていた。


「次ですね」


オルディナは、目の前に表示された情報へ目を通す。


適性を確認し、職業を授ける。


いつも通りの仕事だった。


「こちらは……」


別の知らせが入った。


オルディナはそちらへ目を向ける。


「少し確認してきますか」


席を外した。


その直後。


「ん?」


別の女神がやってきた。


フィルネラだった。


目に入った情報を覗き込む。


そこには、一人の少女の姿が映っていた。


フィルネラは少し眺めた。


「この子、聖女向きなんだ」


手を伸ばす。


「じゃあ、これ」


ひとつの職業が少女へ与えられた。


間もなくオルディナが戻ってきた。


「さて、続きを――」


止まる。


ひとつ、処理が終わっている。


目の前にはフィルネラ。


オルディナは処理結果を見る。


フィルネラを見る。


もう一度、処理結果を見る。


「……フィルネラ」


「なに?」


「何をしました?」


「職業をあげた」


「なぜですか」


「聖女向きだったから」


「私の担当なのですが」


「そうなの?」


「そうですよ」


オルディナはため息をつきながら、与えられた職業を確認した。


《光と闇の聖女》。


「これは?」


「私の聖女」


「あなたの職業ですか?」


「うん」


「勝手に授けないでください」


「もうあげちゃったよ?」


「見れば分かります」


オルディナは能力の一覧を開いた。


「《光と闇の祝福》……」


少し変わった名前だった。


能力の説明にも目を通す。


「一定範囲に祝福を与えて、能力を強化する……」


聖女の祝福としては、特に珍しい効果ではない。


ただ、フィルネラが作った職業である以上、一応確認しておいた方がいい。


オルディナは小さな観測器を取り出した。


神力の出力を測るための道具だ。


「念のため、出力も見ておきましょう」


《光と闇の祝福》を測定する。


観測器に数字が表示された。


「一・一倍ですね」


「どう?」


「普通の《祝福》より少し弱いくらいです」


「普通だね」


「ええ。こちらは特に問題なさそうです」


オルディナは観測器を置き、次の能力を見る。


「それより……」


指が止まった。


「《絶対防御領域》?」


「便利だよ」


オルディナは能力の説明を確認する。


「……ずいぶん強い防御能力ですね」


「聖女だから」


「それでこの性能ですか?」


「守れるよ?」


「それはそうでしょうけれど」


オルディナはもう一度内容を見る。


「範囲は狭いですね」


「うん」


「本人を守る能力としては、かなり強力ですが……」


フィルネラは首を傾げた。


「だめ?」


オルディナは少し考える。


聖女は前衛職ではない。


危険な場所で治療を行うこともある。


本人を守る手段があること自体は悪くなかった。


「駄目とは言いませんが、普通の聖女とはずいぶん違いますね」


「私の聖女だから」


「そうですか……」


オルディナは能力一覧を閉じた。


「とにかく、次からは勝手に職業を授けないでください」


「分かった」


「本当ですか?」


「たぶん」


「たぶんでは困ります」


オルディナはため息をつき、止まっていた仕事へ戻った。


こうしてルシエラは、《光と闇の聖女》の職業を授かった。


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