バカップル
カミさんが妊娠中の頃。
理人に颯人から電話が入る。
「ちょっと、オレん家きてくんない?」
理人は仕事から戻って、シャワーを浴びたところであった。
「電話じゃ済まないの?」
「ああ、カミさんが昨日から機嫌悪いんだ。
理由探ってくんない?」
「無理だろ、オレ、あいつの天敵だぜ。」
「空気を変えて欲しい。」
「逆効果じゃね?」
しかし、理人は、颯人に目を覚まさせるチャンスと考え、いそいそと出かけた。
カミさんは、いつも通り愛想がない。
颯人は、カミさんの不機嫌の原因を理人に探らせるべく、席を離れる。
「なんか、機嫌悪い?」
「いつも通り。」
「だよな。でも、呼ばれたからには、役割を果たさないと、何か、腹立つことあったんなら、オレが颯人に改めさせるけど。」
「男同士は信用できない。」
「今のまんまじゃオレが巻き込まれて困る。」
「来なかったら、よかったじゃん。」
「颯人の目を覚まさせるチャンスかなと思って。」
理人は、いつも通りにカミさんに仕掛ける。
「目が覚めたんじゃない?服のポケットにピアスが入ってた。」
いつもなら、抗戦してくるカミさんが、弱気であった。
「もしかして、浮気疑ってんの?
颯人は、あんたにボケてんのに、目覚まして、浮気するくらいになって欲しいよ。」
カミさんは、うつむいたまま言った。
「どうしてこんな女に惚れたんだろって、いつか目が覚める日が来る気がしてた。」
理人にとっても、元気のないカミさんは、物足りない。
戻ってきた颯人に理人は、何も聞き出せなかったとの合図を送る。
カミさんはキッチンに立つ。
「仲直りってどうやるの?」
颯人は、理人に尋ねる。
「窓開けて、大きな声で好きだって叫ぶと、女は感動するらしい。」
理人は、出かける前に見ていたドラマのワンシーンを思い出して話す。
もちろん、冗談のつもりだった。
颯人はスクッと立ち上がり、窓を開け、カミさんの名前を叫び、『好きだ。』と叫んだ。
そして、カミさんが「私も」と言って走って颯人の背中に飛びついた。
バカップルであった。
落ち着いた颯人が言う
「オレのポケットにピアス入ってなかった?
高そうなやつだから、拾って、受付に渡そうと思って忘れてたわ。」
カミさんが、満面の笑みで差し出す。
颯人も、カミさんのご機嫌が悪かったのが、ヤキモチと気付き、満面の笑みを浮かべる。
バカップルめ!
翌日出社した理人が、
「夫婦喧嘩は、犬も食わねぇって、ホントだね。」
と、昨晩の出来事を私に話した。
カミさんが、私と同じように、颯人がどうして自分に惚れたのかわからないで、心細さを抱えていることは意外だった。




