手がかりを求めて
何度も写真を確認する。
笑顔のナギサと思しき少女がひまわり畑で笑っている写真。
さっき本を読んでやった時の顔と重なる。
なんなんだよ、なんでこいつが爺ちゃんと一緒にいたような写真があるんだ?
爺ちゃんはナギサに食われたから死んだ?いや、爺ちゃんは老衰だったはずだ。
死体も記憶より細い以外変わったところはなかったからナギサが食ったわけじゃない。
なんでこの写真にナギサがいるんだ。
答えなどいくら問うても自分が出せるはずがないのに心中でそれを問い続ける。
一回視線をそらして真面目に考えることにしよう。
知っているのは誰だろうか。
爺ちゃんを知ってる人で、
爺ちゃんとナギサが一緒にいた期間をみてた可能性のある人。
そこでふと、思いつく。
爺ちゃんの死亡連絡。病院からされたのは知ってる。
ならば爺ちゃんに救急車を呼んだ人、もしくは病院へ連れて行った人は誰なのだろう、と。
しばらく放置していたスマホを手にとって実家の番号を連絡先から探し出す。
何コールかあった後に聞き慣れたはずの、今では懐かしさすら感じてしまう親父の声がした。
『もしもし。お義父……お爺ちゃんの家で何かあったか?』
声が喉に詰まる。
もし、もしもここで全部ぶちまけてしまえたら親父は俺を、俺たちを殺してくれるだろうか。
健司を喰ったナギサと、二人を喰った俺を。
きっとしないだろうな。
殺してくれるとしたら叔父さんか叔母さんのどっちかだろう。
「…………あのさ、爺ちゃんを病院に運んでくれた人って、わかる?」
『いきなりだな。分かるけどどうかしたか?』
少し困ったような親父の声が電話越しに響く。
いきなり聞くことでもないけど、今は雑談や別の用件を考えられるほど頭が働かなくて、いい感じの言い訳を考える。
「田舎だからさ、健司と爺ちゃんってどうやって病院行ったんだろって話になって、そこから気になって寝れねえんだ」
『あー……まあ気になるよな。先生から聞いただけだが小さい子が倒れてるのに気づいて通報してくれたって……まあ、歳だったし倒れた時点で手遅れだったんだろうな』
小さい子、とは誰だろうか。
僕と健司が外で遊んでた時には同年代はおろか年下も年上も、子供や青少年と呼べる年齢の人間には会っていない。
そもそも近くに学校がないのでここに住んでるはずもないとは思う。
つまり、消去法で爺ちゃんを病院へ行かせたのはナギサということになるわけで。
死にかけてた爺ちゃんを食べずに、爺ちゃんが生き延びられるかもしれない方を選んで、人間に合わせて助けを呼んだわけで。
『もしその子と会っても言うなよ。子供はそういうの引きずるからな』
「わーってるよ。ありがとな」
ナギサはどこまで知ってるだろうか。
もしかして、爺ちゃんは入院でもしてて、その間俺と健司が代わりに家を掃除していたとでも思っているのかもしれない。
『ああ。整理の方は進んでるか?お前と健司くん歳近いからずっと遊んでるんじゃないかと心配でな』
実際遊んでいたので少し気まずい。
でも、皮肉なことに遊び相手がいなくなってもう他にすることがないので遺品整理の方は順調になってきている。
夏休みが終わる頃にはこの家にあるもの全てを把握することも容易いだろう。
「……大丈夫だよ。ちゃんとやってる」
『そうか。何かあったらかけてこい。またな』
「………ああ」
果たして、またはあるのだろうか。
夏休みが終わった時、俺たちはどうなるのだろうか。
電話から耳を離して、部屋の外から聞こえるナギサの鼻歌に俺は遠い夏休みを重ねた。
いつも健司がいて、遊ぶことが、やることが尽きなくて、永遠にすら思えた。そんな夏休みを。
俺はきっと、あの夏も、この夏も、忘れることなく死んでいくのだろう。
この、人喰いと一緒に。




