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東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした  作者: 埴輪庭


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第87話「麗奈②」

 ◆


「では、こちらへ」


 女性隊員の後についていく麗奈。


「ここから先が避難所用のテントが設営されているエリアです」


 転がるコンテナやプラスチックパレットが壁際に積まれ、少し先の敷地にはいくつものテントが並んでいる。


 遠目に見えるテントはまるでレジャー用の簡易テントのようで、どこも人がすし詰め状態だ。


 子どもを抱えたお母さんや車椅子に乗ったお年寄りなどもいて、決して十分な環境とは言い難い。


 麗奈は内心辟易したが、それが表情に出ていたのかもしれない。


 女性隊員はどこか申し訳なさそうに笑い、もう少し敷地の奥を指し示した。


「あちらです。あそこの大型のシェルターテントになります」


「え……あれって」


 麗奈が目を向けると、先ほどとは違ってかなり大きめのテントが見える。


 外壁は分厚い帆布で、上部には換気のための開口部らしきものもあるようだ。


「はい。覚醒者向けということで……。呼び出されるモンスターの中には覚醒者との密なふれあいが必須という種もいますので、ある程度広いスペースを確保しているんです。少し贅沢なようにも見えますが、周囲への影響を考えればこちらが妥当かと」


「はあ……」


 麗奈は正直ホッとした。


 あんな狭いテントに詰め込まれるのは嫌だったし、何よりプライバシーが皆無なのは耐えられない。


 それでもこの状況下で自分だけ少し快適な空間に身を置くことに、うしろめたさを感じなくもない。


「では、中へどうぞ」


 テント入り口の帆布をめくると、中は思った以上に広々としていた。


 床には木製のパレットが敷かれ、簡易マットがその上に広げられている。


 人が立ったままでも天井に余裕があるし、壁際には少しばかりの収納スペースもあった。


「わあ……思ってたより、ずっと過ごしやすそう」


 正直、こんな状況では贅沢は言えない。


 麗奈は素直に安堵する。


 女性隊員は「ここが仮住まいになります」と言って、あらかじめ用意されていた冊子を手渡した。


「中には配給の時間や避難所内の利用規則が書かれています。三崎さんのような覚醒者の方々には、モンスター召喚に関する追加ルールも記載してありますので、よく読んでおいてくださいね」


「はい、わかりました」


 女性隊員はそれだけ伝えると、「何かあれば私たちを呼んでください」と言って去っていった。


 テントの帆布がばさりと揺れ、静かな空気が戻る。


「……はあ」


 麗奈はその場でしゃがみ込み、冊子の表紙を眺めた。


 表紙には「避難所内行動規則(覚醒者版)」と印刷されている。


 ページをめくれば、やれ食事配給の時間だの、禁止行為だの、避難所ネットワークの連絡先だの、小さい文字がギッシリだ。


「面倒くさいなあ……でも読まないとダメだよね」


 聞こえる範囲で何人もの声が行き交っているが、テントの外を出歩く気力はまだ湧かなかった。


 三崎と離れてしまったことの心細さが、一気に押し寄せてきそうな予感もある。


「でも……お兄ちゃんの役に立たなくちゃ」


 呟きながら、ページを一枚ずつめくる。


 避難所の配給時間は朝夕の二回、シャワーは週に二回ほど順番制、洗濯は有志で回しているので要相談。


 そういった雑多な情報に目を走らせるうちに、いつの間にか数分が経過していた。


 すると、不意にテントの外から声がかかる。


「すみませぇーん。どなたかいらっしゃいますかぁ」


 間延びした柔らかい声。


 麗奈は思わず冊子をぱたんと閉じ、立ち上がって入り口へ近づいた。


「はい、いますよ」


 麗奈が顔をのぞかせると、そこには一人の女が立っていた。


「隣のテントの者なんですけど……あ、こんにちはぁ」


 肩までのクセっ毛が茶色っぽく、全体的にふんわりした雰囲気がある。


 ぽってりした唇と少し垂れ気味の目、そして首から下がやたらと豊満な女。


 ──同い年くらいかな


 毒気のないポワポワとした雰囲気が印象的だ。


「えっと……こんにちは」


 麗奈が会釈をすると、相手の女性は「わあ、かわいい……!」と目を輝かせて言う。


 思わぬ言葉に、麗奈はどう返していいか一瞬戸惑う。


「ごめんなさい、急にお邪魔しちゃって。私、隣のテントにいる間中まなか 一穂かずほっていいます。呼び方とか何でもいいんで、とりあえず挨拶だけでもって思って」

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ここ数日で書いた短編もいくつかあるので、よかったらそっちもよろです


異世界恋愛。下級令嬢が公爵令嬢の婚約を妨害したらこうなるってこと
毒花、香る

異世界恋愛。タイトル通り。ただ、ざまぁとかではない。ハピエン
血巡る輪廻~テンプレ王太子とお人よし令嬢、二人とも死にました!~

現代恋愛。ハピエン、NTRとあるがテンプレな感じではない。カクコン10短編に出したけど総合33位って凄くない?
NTR・THE・ループ


他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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