表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした  作者: 埴輪庭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/110

第55話 A公園へ

 ◆


 三崎たちはビル内での短い休息を終えたあと、すぐに移動の準備に取りかかった。


 荒廃した街のあちこちには血の跡や砕けたコンクリートの破片が散乱している。


 周囲を警戒しながらも、いつまたモンスターの大群が押し寄せるか分からない状況ではここに長居はできない。


 自衛隊の生存者たちも同意見だった。


 彼らはすでに多くの仲間を失い、残された弾薬や医療品も限られている。


「A公園を目指そう」


 年配の自衛隊員が言うと、若い自衛隊員が深い息をついて頷いた。


「上からの連絡でもそこに覚醒者が集まり始めているって話でしたし……僕らだけで踏破するには危険が大きすぎますが、合流できればまだ道はあるかもしれません」


 麗奈は少し疲れた顔をしながら、その場に腰を下ろしている。


 先の激戦や逃走の連続で、体力だけでなく精神的にも疲弊しているのだ。


 ちなみに、麗奈のアーマード・ベアはクールダウン中で呼び出せない。


 うつらうつらとする麗奈を、三崎は肩を掴んで抱き寄せて自身の脚を枕にして寝かせた。


「……ちょっとでも休んどきな」


 三崎が声をかけると、麗奈は小さく頷いた。


「うん……」


 小さく返事をするなりすぐに寝入る麗奈を見ると、三崎としても申し訳ない気持ちが湧いてくる。


 あるいは自宅で籠城していた方がよかったのかという想いもあるが、すぐにそれを否定した。


 それはこの状況を作り出した者が誰であれ、安全な場所へ引きこもっている事を良しとするかと考えたからだ。


 答えは否だった。


 結界を張り巡らせ、 "挑戦し続けること" を強制してきている。


 それはつまり──


 ──あのまま家に残っていれば、きっと僕らは詰んだと思う


 何かしらの妨害があったはずだ。


 例えば分かりやすく言えば膨大な数のモンスターがあらわれ、家々を荒らし回るだとか。


 霧が家の中に入り込み、そこからモンスターが生まれるだとか。


 そんな確信が三崎にはあった。


 ◆


 暫く休憩をした後、自衛隊員の一人が、外の様子をうかがうように窓から顔を出す。


 割れたガラス越しに覗く街並みには、まだ霧が漂っていた。


 先ほどまでの戦闘によって一時的に落ち着いているようだが、遠くから不気味な呻き声が聞こえる時もある。


「いつまた湧くかわからない。急ぎましょう」


 ・

 ・

 ・


 全員でビルを出発し、三崎と自衛隊員たちは山手通り方面を東へ進む。


 半壊した建物や車両が路肩に折り重なるように放置され、悪臭が風に乗って鼻をつく。


 麗奈は負傷兵らと一緒に列の中央に入り、警戒の目を周囲へ巡らせる。


「……霧、ちょっと薄い気もするね」


 そう呟いた麗奈の声はどこか心細げだったが、確かに視界は先ほどよりは開けているようだった。


 歩きやすさは増しているが、敵からも見えやすくなるということでもある。


「弾薬が少ないんだ。大規模な戦闘は避けたい」


 先頭を行く自衛隊員が、後方へ向けて声を張り上げる。


 きりりと引き締まった表情の彼だが、迷彩服のあちこちには血や埃がこびりつき、色濃い疲労の色も滲んでいた。


「少しでも複数の敵の気配があったら、迂回しましょう」


 無理な戦闘はしない──それがその場の者たちの共通認識だった。


 ほどなくして、何かの音が聴こえてくる。


 連続する乾いた音と、低く唸るような声。


「モンスターかな……」


 麗奈が表情を強張らせ、嫌そうに息を飲む。


「君たちは何か見えるか?」


 自衛隊員が三崎を見た。


 "覚醒者" がモンスターの情報を視る事が出来るのは自衛隊員らも知っている。


「……もう少し近づいてみないとわかりません──」


 三崎がそういった矢先だ。


「ん、えっと……『ルー・ガル―』? っていうモンスターと、あとはなんか色々いるみたいだけど……」


 と麗奈が言う。


「え、見えるの?」


 三崎が問うと、麗奈は得意そうに頷く。


「はっきりとは見えないけれどね。あれ、お兄ちゃんは見えないの?」


 三崎は答えず、麗奈のおでこをつついた。


 ・

 ・

 ・


「誰かが戦っているなら、放っておけない。モンスター同士の争いかもしれないけど、覚醒者や生存者がいる可能性が高い」


 自衛隊員の一人がそういった。


 すでに松浦をはじめ、多くの仲間を喪ってきた。


 それでもなお、見過ごすことで助けられる命を捨てることはできない。


「……どうするの? お兄ちゃん」


 麗奈の問いに、三崎は頷いて答える。


「もちろん行くよ。ただ、麗奈はだめだ」


「え、なんで!?」


「アーマード・ベア……あー、くまっちのクールダウンが終わっていないからね。どこかに隠れて貰う感じになるとおもう」


 麗奈はぐぬぬという言葉が似合う表情を浮かべるがしかし、素の自分に何が出来るのかという話でもある。


 魔石を使ってクールタイムを完全に消化という手もないではないが、アーマード・ベアという強力なモンスターが対象だからか、要求量が非常に多いのだ。


 魔石から得られるエネルギー……魔力を数字とした場合、例えば三崎のゴブリンであるなら1のエネルギーで済むところが、アーマード・ベアの場合は100を優に超えてくる。


 この状況下で魔石は文字通り命綱だ。


 なるべく節約をするという選択肢は間違ってはいないと三崎は考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここ数日で書いた短編もいくつかあるので、よかったらそっちもよろです


異世界恋愛。下級令嬢が公爵令嬢の婚約を妨害したらこうなるってこと
毒花、香る

異世界恋愛。タイトル通り。ただ、ざまぁとかではない。ハピエン
血巡る輪廻~テンプレ王太子とお人よし令嬢、二人とも死にました!~

現代恋愛。ハピエン、NTRとあるがテンプレな感じではない。カクコン10短編に出したけど総合33位って凄くない?
NTR・THE・ループ


他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ