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東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした  作者: 埴輪庭


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第50話 魔樹を巡る攻防

 ◆


 三崎たちが魔樹へ続く道を切り開こうとしている間、自衛隊も公園の外周で奮戦していた。


 だが、彼らが直面している状況はまさに地獄そのものだった。


 濃い霧の中からは、蟲の群れやゾンビ、その他正体不明のモンスターがひっきりなしにわいて出る。


 シムルグが悠々と空を旋回するたびに、その影に紛れるようにして霧の向こうからモンスターが押し寄せるのだ。


 しかも敵はモンスターだけではない。


 公園一帯の自然環境全てが変容してしまい、蔦や枝が赤黒い触手のようにうねりながら自衛隊員たちを襲う。


 三崎たち自身も植物の残骸を取り除くのに苦戦しているようだが、自衛隊の戦線もまた限界に近づきつつあった。


「押し返せ! すぐ後ろには味方がいるんだぞ!」


 指揮官である松浦の声が凄惨な戦場を駆け抜ける。


 けれど、その声には以前ほどの力がこもっていなかった。


 血まみれの包帯を腕に巻いたまま、彼は必死に部下たちへ指示を出しているが、弾薬は尽きかけ、兵士たちも体力が底を突きはじめている。


 モンスターを撃退したあとですぐに次の襲撃が来て、また何人かが斃れる。


 そういう悲劇がずっと続いていた。


 霧の奥でうねる影は一向に絶えない。


 小銃を構えていた若い隊員が、恐怖で顔面を蒼白にしたままつぶやく。


「まるで際限がない……」


 それを聞いた別の隊員が狂気染みた笑みを漏らす。


「ひひっ……映画の中かよ、こりゃ……」


 笑いながらも、彼は弾切れ寸前の銃を手放そうとしない。


 周囲には、破壊された装甲車の残骸がいくつも転がっている。


 無数のひしゃげた鉄片が地面に散乱し、血と油が混じり合って臭気を放っていた。


「クソ鳥が上空に戻った!」


 誰かが叫ぶと、全員が一斉に空を見上げる。


 公園の中央付近をぐるりと大きく旋回する黒い怪鳥。


 その翼は相変わらず頑丈で、どれだけ射撃を浴びせられても傷ひとつ負わないかに見える。


 しかし、それでもシムルグの動きは先ほどよりやや重くなっているようだった。


「何度も暴れ回って、さすがに疲れが出てきたのか……」


 松浦の隣で銃を構える隊員が汗まみれの額をぬぐいながら言う。


「しかしやつはまた魔樹の実を食いに行くだろう。そうやって体力を回復されちゃ、こっちの被害は増す一方だ」


 指揮官である松浦は唇をかみしめ、苦々しい表情を浮かべていた。


 三崎たちが提示した作戦に望みをかけたいところだが、その三崎たち自身も変異した植物の処理に手間取っているらしい。


 一方、自衛隊側はすでに死傷者が膨れ上がり、残存戦力は見る影もない。


「こんなに早く、こんなに大勢が……」


 松浦の視線の先には、うずくまる若い兵士の姿があった。


 左脚は変異した枝に刺されたようで、そこから紫色の液がじわじわと染み出している。


 もう立ち上がることはできそうにない。


 周囲には彼の仲間が数名いたが、皆そちらへ駆け寄る余裕すらなかった。


 さきほどからシムルグの下につき従うように霧の奥からわらわらと現れたモンスターと、交戦を続けるだけで手いっぱいなのだ。


「松浦隊長!」


 慌てた声が響き渡り、負傷した隊員を抱えた兵士がよろけながら近づいてきた。


「救護班の車両は……もうほとんど動けないんです! こっちの装甲車も故障して、エンジンがかからなくなりました」


「わかった……今使える武器は何が残ってる?」


「軽機関銃が一丁、グレネードランチャーが二本……ただ弾薬はあとわずかです」


 松浦は歯を食いしばって「くそっ」と短く呟いた。


 それでも周囲の兵士たちは、自分たちがやらなければならないことをわかっているのだろう。


 できる限り気力を奮い起こし、死に物狂いで応戦を続けている。


 モンスターを一体撃破するたびに、小さなガッツポーズをつくる者もいれば、泣きそうな顔で笑う者もいた。


 松浦もそんな彼らの姿を見て、何度も鼓舞するように叫んだ。


「もう少しだ! 彼らが魔樹を叩いてくれれば、形勢は変わる!」


 しかし本当に変わるのか。


 正直、松浦自身にもわからなかった。

更新月水金

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ここ数日で書いた短編もいくつかあるので、よかったらそっちもよろです


異世界恋愛。下級令嬢が公爵令嬢の婚約を妨害したらこうなるってこと
毒花、香る

異世界恋愛。タイトル通り。ただ、ざまぁとかではない。ハピエン
血巡る輪廻~テンプレ王太子とお人よし令嬢、二人とも死にました!~

現代恋愛。ハピエン、NTRとあるがテンプレな感じではない。カクコン10短編に出したけど総合33位って凄くない?
NTR・THE・ループ


他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

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鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
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