表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東京魔圏~この危険な東京で、僕はゴブリンを頼りに生き残る。最弱魔物かと思っていたけれど、実は最強でした  作者: 埴輪庭


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/110

第38話 渋谷へ⓷

今日はこの時間更新で

 ◆


「お兄ちゃん! 数が多すぎるよ! このままじゃ……」


 モンスターの数はどんどん増えていき、戦況は次第に悪化していく。


 麗奈の叫びを聞きながら、三崎は再びかく乱役のゴブリン2体との"繋がり"が断たれたのを感じた。


 ──またやられたか。


 再召喚はすぐにできるとはいえ、先ほどからそのサイクルが短くなってきているのを感じていた。


 ──どうする? ここで魔石を使ってゴブリン・ジェネラルかもしくはタイガー・ゴブリンを出すべきか? 


 三崎が決断しきれないのは継戦能力を気にしてのことだ。


 渋谷まではまだ距離があり、これが最後の襲撃というわけでもない。


 魔石はなるべくとっておきたいという思いがある。


 それにそもそもだが、タイガー・ゴブリンやゴブリン・ジェネラルは多対1の戦闘には向いていないのだ。


 タイガー・ゴブリンは、その名の通り虎の特性を色濃く受け継いだ強力なモンスターだ。


 強靭な肉体と鋭い爪、そして牙を持ち、その動きは俊敏。


 単体相手であれば格上相手でも善戦できるだろう。


 しかし、その反面、一度に複数の敵の攻撃を受け止めるような芸当は得意ではない。


 一方、ゴブリン・ジェネラルは、タイガー・ゴブリンよりも更に圧倒的な戦闘力を誇るモンスターだ。


 しかし、多くの敵を一気に攻撃する手段というものは持たない。


 大勢の敵を相手取ってもやってやれないことはないだろうが、魔石の事を考えると簡単に切れる手札ではない。


 だが悩んでいる暇は余りないようで、霧に紛れる黒い影の数が増えてきた。


「くまっち! 囲まれないように気をつけて! 私の近くを離れちゃだめだよ。円を描くように動いて、あいつらを薙ぎ払って!」


 麗奈がアーマード・ベアに叫ぶ。


 アーマード・ベアは唸り声を上げ、その巨体を揺らしながら指示通りに動き始める。


 鋭い爪が空を切り、周囲のモンスターたちを切り裂いていく。


 しかし、敵の数はあまりにも多く、アーマード・ベアの奮闘も焼け石に水だった。


 ──範囲攻撃が出来るモンスターが喚べればいいんだけど


 三崎の中で、状況を打破するための "解答" は既に出ているが、それを手繰り寄せる手段がない。


 今必要なのは、多数の敵を一度に攻撃できる範囲攻撃能力を持ったモンスターだ。


 三崎は必死に思考を巡らせる。


 だが、思考の迷宮に囚われかけた三崎の意識を、突如として響いた声が引き戻した。


 ──『レア度3/卑術を紡ぐ者ゴブリン・キャスター/レベル1の召喚が解除アンロックされました』


 それは三崎の脳内に直接響く、無機質で感情を一切感じさせない声だった。


「……え?」


 三崎は思わず呆けた声を漏らす。


 アンロック? ゴブリン・キャスター? 


 それは三崎がまさに求めていた、範囲攻撃の能力を持つモンスターに違いない。


 だが、なぜ今になって? 


 いや、そんなことはどうでもいい。今はこの状況を打開することが先決だ。


 三崎は掌を掲げ、頭の中に浮かび上がってくる姿を強く想う。


 するといつもの召喚の様に、緑色の光の粒子が舞いはじめ──


 やがて眩い光を発したかとおもえば、一体のモンスターが現れた。


 身長は他のゴブリンたちとさほど変わらない。


 しかしその体つきは明らかに華奢で、手足も細長い。


 というより、はっきりと老いていた。


 ローブを纏い、ねじくれ曲がった木製の杖を携えている老ゴブリン。


 まるでそれは、年老いた魔法使いを思わせる佇まい。


「……ゴブリン・キャスター」


 三崎は、目の前のモンスターの名を呟く。


 すると老ゴブリンは黄ばみ、汚れた歯をむき出しにしながらヒッヒッヒと嗤った。


 ◆


 ここではないどこかに、卑族と呼ばれる者たちが集まる集落がある。


 卑族とは一種の蔑称で、本来の名があったはずなのだが長い年月の間にそれは喪われてしまった。


 なぜ卑族と呼ばれるのかといえば、一言で言えば弱く、醜いからである。


 "彼ら" は小さく、そして非力だ。


 だがそんな卑族の中にも勇士や英雄といったものたちがいないでもない。


 自身を獣の化身と見立て、素早く雄々しく戦う者


 神鳴る音をその身に宿す卑族の猛将


 そういった者たちのほかにも知恵者だっている。


 例えばグルコスという名の老人。


 老い、腕力こそないが知恵を身に着けた卑族の老賢者。


 グルコスは "新たな世界" を見たくはないか、未知なる世界に触れてみたくはないかという "声" に答え──


 ・

 ・

 ・


「ヒッヒッヒ」


 老ゴブリンは再び嗤い、懐から小袋を取り出して宙へ舞わせた。


 そして手に持つ杖の先で、トンと地面を一突き。


 すると──


 ◆


 霧のあちこちで爆竹を鳴らしたような音が連続して響き渡る。


 三崎は感覚的に、それが老ゴブリンの "火花" と呼ばれる術であることを理解した。


 それはゴブリン・キャスターが操る、魔術の一種だ。


 "火花" は音だけではなく威力も相応にある様で、周囲には頭を吹き飛ばされたゾンビやら腕が片方ないバンシィやらが倒れ、あるいは倒れていなくても明らかに動きが鈍っているモンスターが多く見られた。


「おじいちゃんすごーい!」


 麗奈が嬉しそうに言う。


 無邪気な賞賛の言葉だった。


 しかしそれを聞いたからだろうか、アーマード・ベアが不満げに唸り声を上げる。


 まるで自分も褒めてほしいとでも言いたげな、拗ねた子供のような声だった。


 麗奈は苦笑しながら「くまっちだっていつも頑張ってるよ、ありがとう」と優しく声をかける。


 アーマード・ベアはその言葉に満足したのか、先程より幾分か機嫌よく動き始めた。


 巨体を揺らし、鋭い爪を振るって周囲のモンスターたちを薙ぎ払っていくが、先ほどよりもダイナミックというか、躍動感があるように思える。


「くまっち、おじいちゃんのサポートよろしくね。あっちから来る敵を優先して、おじいちゃんに近づけちゃだめだよ」


 麗奈はアーマード・ベアに指示を飛ばす。


 アーマード・ベアはその言葉を理解したのか、力強く一声吠えた。


 戦況は持ち直した──しかし、それでも多勢に無勢という状況が覆るには至らない。


「……でも、 "穴" は空いたな」


 三崎が呟く。


 その言葉通り、三崎達を取り囲む包囲網は歪に乱れている。


 何よりも、ビルが立ち並ぶ方向へ逃げる事が出来そうだというのが良かった。


「皆! こっちだ!」


 三崎は叫び、先導するように走り出す。


 幸い相手はゾンビやバンシィだ。動きはそこまで機敏ではない。


 ゴブリン・キャスターの攻撃によって生まれたモンスターの包囲網の "穴" をくぐり抜け、とあるビルの方向へと逃げていく。


 三崎の視線の先には、一際目立つ洗練された外観の高級マンションがそびえ立っていた。


「麗奈、あそこの二階部分へよじ登れるかな?」


 三崎は走りながら、マンションの二階部分にあるベランダを指差して尋ねた。


「くまっち! あそこへよじ登れる?」


 麗奈がアーマード・ベアに尋ねると、アーマード・ベアは力強く吠えた。


 一気に速度を上げ、高級マンションへと突進していく。


 モンスターたちも追ってはくるが、アーマード・ベアの方が遙かに速い。


 アーマード・ベアはマンションの外壁に到達すると、その鋭い爪を壁面に突き立てた。


 まるでロッククライマーのように巨体を器用に操り、壁面をよじ登り始める。


 そしてあっという間に、アーマードベアは二階のベランダへと到達した。


 ──不法侵入になるのかな? まあ緊急避難ってことで……


 そんな事を思いながら、三崎は一つ大きく息をつく。


 下を見るとモンスターたちはマンションの一階部分に殺到し、ガラスを叩き割ろうとしているが──


「……入ってこられないみたいだね」


 麗奈が言う。


 高級マンションのエントランスは、防犯の観点から通常のガラスより強靭な素材で作られていることが多い。


 さらに、オートロックシステムが標準装備されているため、モンスターたちが勝手にドアを開けることはできない。


 だがそれもいつまででもとは言えない。


 所詮はガラスなので、遠からず破られてしまうだろう。


 三崎はぼんやりと空を見上げながら、次はどうするかを考える。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここ数日で書いた短編もいくつかあるので、よかったらそっちもよろです


異世界恋愛。下級令嬢が公爵令嬢の婚約を妨害したらこうなるってこと
毒花、香る

異世界恋愛。タイトル通り。ただ、ざまぁとかではない。ハピエン
血巡る輪廻~テンプレ王太子とお人よし令嬢、二人とも死にました!~

現代恋愛。ハピエン、NTRとあるがテンプレな感じではない。カクコン10短編に出したけど総合33位って凄くない?
NTR・THE・ループ


他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ