表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/110

第2話 覚醒

 ◆


「逃げろ!」


 その言葉がどこからか飛んできたが、誰もその指示に従わない。


 逃げろといってもどこへ逃げればいいと言うのだ? 


 複数のゴブリン、コボルドが次々に生徒たちを手に掛けている。


 無作為にと言う訳ではなく、逃げ出そうとする者を優先して襲い掛かっているらしい。


 ゴブリンもコボルドも、その醜悪な顔には愉悦、嗜虐の笑みが揺蕩っている。


 三崎は焦っていた。


 絵里香が守ってくれた事は嬉しかったが、それも結局死を少し先に引き延ばしただけではないのか? 


 そんな思いがある。


 絵里香が呼び出した美女は小鬼相手に優勢に戦っていたが、そこまで大きな戦力差があるわけではないらしい。


 自分にも何か出来る事はないか、と思う三崎だが──


「や、やばっ……」


 獰猛な顔をしたコボルドの一体が、三崎ににじり寄ってきていた。


 爪や牙は如何にも鋭そうだ。


 三崎 "何とかしなければ、出来る事をしなければ" と妙に冷えた頭で考える。


 すると、三崎の手が不意に熱くなった。


「うわっ……!?」


 見下ろすと、手が緑色の光を帯びている。


 何かが体内から溢れ出してくる感覚。


(なる、ほど……これは多分、瀬戸や陣内みたいな "力" なのかな?)


 三崎はその光を、掌に湛えた水を零す様にぽたりと教室の床に落とした。


 すると緑色の光が形を成し──


「ゴブリン……?」


 三崎の目の前に立っていたのは、レア度1の緑色のゴブリンだった。


 ──『レア1/卑しき尖兵のゴブリン/レベル1/同時召喚限界数1/2』


 小柄で、武器も持っていない。


 頼りない姿に思わず顔を顰めてしまう。


「これじゃあ、流石に……」


 だが、今はそれしかない。


 三崎はゴブリンに向かって叫んだ。


「行け……! そいつを止めてくれ!」


 ゴブリンは何も答えないが、即座にコボルドに向かって突進していった。


 素早く接近し、拳を振り上げてコボルドと格闘を始めた。


 だが、それもほんの数秒だけ。


 コボルドは圧倒的な力でゴブリンを引き裂き、ゴブリンの体はすぐに緑色の光の粒子となって散っていった。


「くそ……!」


 三崎は歯噛みする。


 自分の召喚したゴブリンでは、あのコボルドに太刀打ちできない。


 絵里香のサキュバスもゴブリンとコボルドの連携攻撃を受けて打ち負かされ、桃色の粒子となって消えてしまった。


 絵里香は掌をしきりにゴブリンとコボルドへ向けて何か叫んでいるが、何も起こらない。


「召喚クールタイム:6時間……?」


 三崎は彼女の頭上に表示された数字を見て、彼女がすぐに新たな魔物を召喚できないことを悟った。


 つまり絵里香は今、完全に無防備だ。


 あのコボルドが再び襲いかかってくれば、絵里香は──


「だめだ……!」


 三崎は再び手をかざした。すると、また緑色の光が現れ新たなゴブリンが召喚された。


 先ほどと同じレア度1のゴブリンだが、そんなことはどうでも良い。


 三崎は無我夢中でそのゴブリンに命じた。


「もう一度行け! 絵里香を守るんだ!」


 ゴブリンは再び突進し、今度はコボルドと互いに組み合った。


 だが、力の差は歴然としている。


 三崎のゴブリンは一瞬で押し倒され、再びコボルドによって引き裂かれた。


 粒子へと戻る姿を見て、三崎は拳を握りしめた。


「なんで……なんでゴブリンなんて……!」


 絶望の暗雲が、胸の中で膨れ上がっていく。


 しかし次の瞬間、三崎はふと気づいた。


 自分はゴブリンを連続して召喚できていることに。


 これは、他の誰にもできていないことだ。


 絵里香は一度召喚したらしばらくは使えない様だ。


 なのに自分だけは──


「そうか……僕は何度でも……!」


 その時、三崎は自分の力にわずかながらも希望を感じた。


 繰り返し召喚できるのならば、やり様はあるのかもしれない。


 レア度1だろうと、数で勝負すれば──


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここ数日で書いた短編もいくつかあるので、よかったらそっちもよろです


異世界恋愛。下級令嬢が公爵令嬢の婚約を妨害したらこうなるってこと
毒花、香る

異世界恋愛。タイトル通り。ただ、ざまぁとかではない。ハピエン
血巡る輪廻~テンプレ王太子とお人よし令嬢、二人とも死にました!~

現代恋愛。ハピエン、NTRとあるがテンプレな感じではない。カクコン10短編に出したけど総合33位って凄くない?
NTR・THE・ループ


他に書いてるものをいくつか


戦場の空に描かれた死の円に、青年は過日の思い出を見る。その瞬間、青年の心に火が点った
相死の円、相愛の環(短編恋愛)

過労死寸前の青年はなぜか死なない。ナニカに護られているからだ…
しんどい君(短編ホラー)

夜更かし癖が治らない少年は母親からこんな話を聞いた。それ以来奇妙な夢を見る
おおめだま(短編ホラー)

街灯が少ない田舎町に引っ越してきた少女。夜道で色々なモノに出遭う
おくらいさん(短編ホラー)

彼は彼女を護ると約束した
約束(短編ホラー)

ニコニコ静画・コミックウォーカーなどでコミカライズ連載中。無料なのでぜひ。ダークファンタジー風味のハイファン。術師の青年が大陸を旅する
イマドキのサバサバ冒険者

前世で過労死した青年のハートは完全にブレイクした。100円ライターの様に使い捨てられくたばるのはもうごめんだ。今世では必要とされ、惜しまれながら"死にたい"
Memento Mori~希死念慮冒険者の死に場所探し~

47歳となるおじさんはしょうもないおじさんだ。でもおじさんはしょうもなくないおじさんになりたかった。過日の過ちを認め、社会に再び居場所を作るべく努力する。
しょうもなおじさん、ダンジョンに行く

SF日常系。「君」はろくでなしのクソッタレだ。しかしなぜか憎めない。借金のカタに危険なサイバネ手術を受け、惑星調査で金を稼ぐ
★★ろくでなしSpace Journey★★(連載版)

ハイファン中編。完結済み。"酔いどれ騎士" サイラスは亡国の騎士だ。大切なモノは全て失った。護るべき国は無く、守るべき家族も亡い。そんな彼はある時、やはり自身と同じ様に全てを失った少女と出会う。
継ぐ人

ハイファン、ウィザードリィ風。ダンジョンに「君」の人生がある
ダンジョン仕草

ローファン、バトルホラー。鈴木よしおは霊能者である。怒りこそがよしおの除霊の根源である。そして彼が怒りを忘れる事は決してない。なぜなら彼の元妻は既に浮気相手の子供を出産しているからだ。しかも浮気相手は彼が信頼していた元上司であった。よしおは怒り続ける。「――憎い、憎い、憎い。愛していた元妻が、信頼していた元上司が。そしてなによりも愛と信頼を不変のものだと盲目に信じ込んで、それらを磨き上げる事を怠った自分自身が」
鈴木よしお地獄道



まだまだ沢山書いてますので作者ページからぜひよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ