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HOLY WORLD  作者: (仮)
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魔女狩りのメシア⑬

赤城は、陸軍基地内で起こった惨事の報告を受けるなり、情報収集を始めさせた。

基地内の被害状況、テロリストの破壊工作の手段を調べさせ、残っていた監視カメラの映像の解析などを行った。

飛騨の意識が戻った翌日には、陸軍内務官に飛騨の口から事の詳細を聞き出した調書を作成させた。


ひとつひとつの小さな手掛かりから、やがて『魔女狩りのメシア』の正体を突き止め、今回こうして飛騨の元に訪れた訳である。


「姿を自在に消すことのできるウィザード。

 自称『魔女狩りのメシア』。

 この女の本名はグエン・ティ・フォン・ジュエン。

 十八歳のベトナム人だ」

赤城はベトナム政府から受け取っていた資料の、アルファベットで記載されていた少女の名前を日本語の発音で読み上げる。

「……やはり、中国人ではありませんでしたか」

天井を見上げながら、飛騨が呟いた。

この時期に日本軍基地の破壊を狙うとしたら中国軍だろう、とは最初誰もが予想した。

しかし、そうではなかった。

「ああ。お前が聞いた女の言語。

 単語の響きや訛り方から、ベトナム語だろうと推測がたってな。

 ベトナム政府に監視カメラに映った女を調べてくれと頼んでみたら……。

 予想は的中。少女が去年、高校を修了した時に取った卒業写真を貰ったよ」

赤城はプリントアウトした写真を飛騨に見せる。

そこには修了証書を掲げて笑う少女の姿があった。

その笑顔は、ごくごく普通の少女らしい明るい笑顔で、先日、飛騨を襲った時の激情に歪んだ表情とはかけ離れていた。

複雑な心境を極力表には出さず、飛騨は冷静に赤城に返答する。

「……はい。俺を襲ったのは、確かにこの者です」

顔の造りは正真正銘、あの時の少女と同じものだ。

ただ、こんな風に柔らかい笑みを浮かべる事など無かったから、同じ顔をした別人のように見えてしまう。

「ベトナム政府も、彼女が魔法の素質を持っていることは知らなかった。

 女は自分が魔女であると名乗りを上げず、田舎町でひっそりと暮らしていたらしい」

今や世界中の国がウィザードが自国民の中に居たりはしないかと、躍起になって探している。

魔女の力は国にとって大きな価値を持つ存在。

それはベトナムも同じで、国政や軍事に積極的に協力するウィザードには、惜しみない報酬を約束していた。


だが、ジュェンは田舎町で普通の人間として生きていくことを選び、自分が魔女であることを誰にも名乗ってこなかったのだろう。


「赤城閣下。

 何故、彼女がこんな大罪を犯したのか、心当たりはありませんか。

 こんな普通の少女が、どうしてテロリストなどに……」

飛騨は首を少し横に向け、赤城の顔を見る。

少女の身の上を聞き出そうとする飛騨と目が合ってから、赤城はしばらく沈黙した。

そして少し間を置いてから話し始める。

「……さあな。それは本人に聞いてみるしかあるまい。

 この女はベトナムで暮らしている間も、市民団体や政治活動家といった類のものには一切関わっていなかったようだ。

 ベトナム政府側からの資料では女の考えている事まではわからん」

「そう……ですか……」

釈然としない表情で、顔の向きと視線を赤城から病室の天井に移し、不俱戴天の仇とばかりに飛騨を睨むジュェンの瞳を思い出す。


重い空気の中、赤城は話を切り替えた。

「飛騨。お前が対峙した時に見た、この魔女の力の詳しい話を聞かせてくれないか」

陸軍からの報告でざっくりとした概要は赤城も、瑞岐も知ってはいた。

しかし、直接飛騨と会話し受け答えをしている間に、何か別の視点が浮かび上がってくるかもしれない。

「この魔女の能力が自分の姿を隠すこと、というのは既に閣下もご存じでしょう」

「ああ、聞いている」

「これは俺の推測である部分も多いのですが……。

 手品のように、単純にその場から姿を見えなくする、というだけではない。

 完全にその場から存在そのものが消える。

 身を隠している間は、彼女の発する足音も、服に染み付いた灯油や血の匂いも消え去った。

 彼女の発する音、匂い、気配といったもの、全てが消えた。

 それでいて、姿を消している間にも、彼女本人は周囲を見る力、音を聞く力は健在のままのようでした」

まるで亀が首や手足を出し入れするように、すぐに現れては消え、消えては現れた。

飛騨はその光景を思い出す。


「あ……、あの!」

やや緊張した高い声で震田が手を上げる。

「なんだ?」

「その件に関して、陸軍の内務の者から新しい報告が入っているのですが」

「なるほど。聞こうじゃあないか」

海軍元帥の鋭い眼光と真正面から合った震田の目が泳ぐ。

「練馬陸軍基地内のセキュリティの復旧が今朝終わりまして。

 カードキー入室記録等が閲覧できるようになりましたっ!」

「……それで?」

別段、赤城としては威圧しているつもりは無いのだが、その強面と地に響く低い声は、震田の背筋を凍らせるだけの威力を秘めていた。

下っ端ごときは赤城の眼光の重圧だけで押し潰されそうである。

「飛騨の……飛騨中将のいた事務棟の入り口はカードキーでの施錠解除と、人感センサーによる録画を行っています」

引きつる震田の横で、午雷がアシストする。

「件の魔女が、誰かのカードキーを使って扉のロックを解除したのなら、その時の記録が。

 誰かがロックを解除した時に、姿を消したまま同時に入室したのであれば、人感センサーの録画で人数分の記録が残るようになっているんです」

「事務棟は有事の際、飛騨中将が寝泊まりすることもあって、人の出入りの記録は厳しく管理されています。

 あそこの人感センサーは通るものの体温を感知して録画するシステムなので……」

「あの魔女は身を隠したら、セキュリティセンサーにも反応しなくなる、ということか。

 しかし正面の扉以外から侵入したとしたら?」

「恐らくそれは無いと思います。一階の全ての入り口はカードキー無しでは通れないし、

 窓は全階すべて外から割ったら警報が鳴り響くようになっています。

 非常階段の扉も、開けたら管理室に連絡が入り、記録にも残るようになっています」

震田と午雷は互いに確認し合いながら、赤城に基地のセキュリティの説明をする。

「……なるほど。電子機器の記録やセンサーにもかかることのない消える魔女、か。

 暗殺やスパイにうってつけな能力だな。

 しかし、惜しい事だ。

 妙な思想など持ってなければ是非、うちで諜報員として雇いたかった」

赤城は少し上を見上げながら溜め息をつく。

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