041 帝江
そこは陰鬱な空気に満ちていた。
打ちっ放しのコンクリートの壁と床。
頼りなげに点滅する蛍光灯が照らす長い廊下を、少女は一人歩いていた。
少女の歩みと共に、少女の両手首の鈴が連なる腕輪が鳴る。
同じような鉄の扉がいくつもある中から、目当ての扉を見つけ立ち止まる。
扉に設けられた、目の高さにある鉄格子の覗き窓。
そこから中を確認して、扉を開く。
重たい扉の先には若い女性が一人、手足をベッドの足に拘束された状態で寝かされていた。
彼女は酷くやつれており、息も絶え絶えであった。
扉が開き誰かが入って来た気配に気付き、女性は取り乱す。
体を大きく揺らし、大きな声で泣き叫ぶ。
少女は、彼女に向かって穏やかな声で問いかける。
「あなたが、わたしのお母さん?」
泣き叫ぶ彼女は錯乱し、その問いに答えられない。
構わず少女は話を続ける。
「あなたも『わたし』を生んでくれたのね」
少女は両腕の鈴をチリンと大きく鳴らす。
「だから、これはお礼」
少女は歌う。
女性と少女の母国の童謡、子守歌。
少女の歌声が女性の、耳に、脳髄に響く。
女性の脳内でシューシューと何かが流れるような音がする……気がした。
暴れていた手足の力が抜け去り、ぽかんと開いた口から涎が流れ、瞳は虚空を彷徨う。
次に笑いが込み上げてくる。何故か愉快で堪らない。
女性は笑い狂いながら、己の思想を叫ぶ。
「兇漢たる王浩然に災いあれ!!」
少女が歌い終わってもなお、女性は笑い続ける。
それを見て満足そうに少女は部屋を後にする。
陰鬱な廊下を抜けると、少女は警備員に呼び止められる。
「李花!こんな所で何をしているんだ!」
明るい部屋の光に照らされて、少女の身に着けたチャイナドレスが白く輝く。
長い黒髪を結い上げ、チャイナドレスの留め具とお揃いの髪飾りをつけている。
「歌を歌ってあげていたの」
「な……無暗に能力を使うなといつも王先生が仰ってるだろう!」
「だってあの女の人、もうすぐ死んじゃうんでしょう?
最期は楽しい気分で死なせてあげたかったの」
「警備の人間が聞いたらどうする!
他の収容人員にも聞こえたら影響が出るだろう!」
「……ごめんなさい」
始終無表情で無感情に受け答えする少女に、警備員は狼狽する。
「あのひとの産んだ子はどこ?」
「うん?それなら今はラボだと思うが」
「ありがとう」
少女は……李花は鈴を鳴らして踵を返し、出口へ向かう。
その一時間後、警備員は収容所の独房で
舌を噛み千切り果てた女の遺体を発見することとなる。




