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HOLY WORLD  作者: (仮)
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039 泥人形⑨

 赤城と別れた後、隼翔はホテルの中へ、自分に割り当てられた部屋へ向かった。


 昨日泊まったホテルと違い、ツインルームしか用意できなかったようだ。

 どうせ赤城と班目、綾小路兄弟が同じ部屋で、自分は瑞岐と相部屋だろう。

 そんなことを考えながら個室のドアを開ける。


 隼翔の目に飛び込んできたドアの先の光景。


 二つのベッドの狭間で千歳と千代の巨体にのしかかられ床を這う瑞岐と、

寒空の中ベランダで女児用スクール水着のみを着用し、独り黄昏る班目。


「なんなんだ、この地獄絵図は」


「ハヤト、良い所に来た!助けてくれ!!」

 ドアの前に立つ隼翔を見つけ、瑞岐が希望に目を輝かせる。

 千歳と千代の腕からほふく前進で抜け出そうとあがくが、両者の腕はびくともしない。

「お前はなんで自分のボディーガードに襲われてんだ」

 守るべき対象に襲いかかるとは、なんと斬新なボディーガードか。

「違うのだ、高山の兄貴。これには訳がある」

 千歳は首を横に振りながら弁明する。

 ちなみに腕相撲勝負の一件から、千歳と千代は隼翔のことを『兄貴』と呼び出した。

「今宵の部屋割りは二人一組。赤城閣下と班目中佐が同室として、

 残る二部屋、どちらが成瀬大佐と寝るか、高山兄貴と寝るかの話し合いの最中だっただけである」

「どっちも嫌だって言ってるだろ!!」

 淡々と現状の説明をする千代と、その太い腕の下で暴れて抗議する瑞岐。

 随分と手荒な話し合いである。

 隼翔は兄弟をさっくりと簀巻きにして隣の部屋に放り込み、戻ってくると窓の外の不審者に呼びかけた。

「てめーはてめーで何やってんだ、班目」

「ん?ああ、帰って来たのか少尉」

 考え事をしていた班目は、隼翔の声に気付き部屋の中に戻ってくる。

「いや、今日の出来事があまりにショッキングで……。

 ストレス発散しないと気が狂いそうだったものでね」

 現在の恰好こそ狂人そのものなのだが。

「どーでもいいけど、もうすぐ赤城が戻ってくるぞ」

 絶対に逆らえぬ上司の名前を聞いて、班目はおとなしくスク水の上からスーツを着込んだ。


「ハヤト、閣下に失礼なことしてないだろうな」

「してねーよ。オレがそんなことする風に見えんのか」

「そうにしか見えないから聞いてるんだろ」

 二つのベッドの奥、ベランダの手前にある一人掛けのソファ二つに瑞岐と班目が座り、隼翔はベッドに腰かけた。

「赤城閣下はなんて?」

「……オレから言うことじゃねーよ」

 瑞岐の問いに少し不機嫌そうに返事をする。


 神妙な顔のままの班目が、腕を組み右手で顎を撫でながら二人の表情を伺う。

「成瀬大佐、高山少尉。……これは例えばだ。

 仮にタイラー女史の、アメリカ側の提案を我が国が受け入れたとする。

 近い将来、我が国はどう変化すると思う?」

 うーん、と少し考えてから隼翔が答える。

「ミズキの子供が、日本中にうじゃうじゃとできる」

「……うわあ……」

 自分そっくりの子供で溢れかえる街を想像して、瑞岐はげんなりする。

 班目は変わらぬ調子で続けた。

「成瀬大佐や陸軍の飛騨中将の遺伝子を受け継いだ子供が大量に生まれたとする。

 そして日本のウィザード保有数が増えたとする。

 では、その後は?」

 隼翔も瑞岐も考え込む。


 ウィザードが増えることによって、軍備は増強される。

 彼らは人間であるため維持費はほぼかからない。

 つまり軍事費が減り、浮いた経費は他の財源として日本に良い結果をもたらすだろう。


「成瀬大佐と飛騨中将の子が溢れ、さらにその子たちがウィザードの力を求めて

 ウィザードのDNAを持つ者との交配を望んでいったとする。

 そしてその次の代、次の次の代でもウィザードのDNAを追い求めたら。

 それはつまり近親での交配を重ねるということだ」


 近親交配を重ねることの危険性。

 班目はそれを危惧した。


「こんな事例がある。

 中世スペイン、ハプスブルク朝。

 血統と財産を守る為に何世代も血族内での婚姻を繰り返し続けた王家だ。

 従兄妹同士で結婚だとか、叔父と姪で結婚だとかね。

 しかし代が進むほど誕生する子が先天的な病気や障害を持って産まれるようになり、

 そうした虚弱な子は皆幼いうちに亡くなってしまった。

 近すぎる血縁同士での交配を繰り返すと、やがて遺伝子に異常をきたす」

 班目は眼鏡を押さえ、隼翔と瑞岐を交互に見る。

「それでも近親での婚姻を続けた結果、ハプスブルク家は断絶に至った」

「日本がそうなる可能性があるっていうのか?」

「まあ、極論ではあるがね」

 肩をすくめて班目はため息をつく。

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