013 国津神②
「ん?おお…、オレがどうかしたか?」
彼女は再び、ぱあっと笑顔に変わる。
「あなたが高山少尉さん!
すごいパイロットさんだって、瑞岐から、よく聞いてます!」
「ミズキが?」
隼翔は、瑞岐にほめられた記憶がない。だから意外な言葉に驚いた。
嫌味や小言を言う瑞岐はすぐに想像できるが、自分に対して素直に労いの言葉をかける顔が思い浮かばない。
「ええ!頼りになるパイロットが来てくれたって、楽しそうに言うんです。
高山さんが来てから飛行機の修理代がかさんで困る、とか」
「…悪口じゃねえか」
「あっ、そ、そんなことないです!ごめんなさい!」
笑ったり困ったり忙しい女性に、隼翔も笑う。
「瑞岐ね。いつも大人っぽくて冷静な艦長さんを演じて、自分のことを抑えてるんじゃないかなって思ってたんです、私。
瑞岐は今まで、自分の仕事とか周りの人のこととか話さなかった。
高山さんと仲良くなってから、瑞岐がちょっと変わったんだと思います」
仕事の話って言っても当たり障りない範囲でですけど、と付け加える。
「人を変えるだとか、オレはそんな大層なこたしてねえよ。
あんたこそ、よく見てんだな、あいつのこと」
「はい!私、瑞岐のこと大好きだから!」
とびきりの笑顔で答えた。
自分のことではないとはいえ、直球で好意を口にする彼女に、隼翔は動揺した。
しかし、そんな彼女も、すぐに不安げな表情になり、隼翔の手を両手で掴んで懇願した。
「高山さん、これからも瑞岐のこと守ってください。
瑞岐になにかあったら、私……」
初対面の可愛いらしい女の子に突然手を握られ、隼翔は狼狽した。
が、すぐに我に返る。
「ハヤト。お前、僕の姉さんに何してる。爆撃するぞ」
目一杯ドスを効かせた声がして、振り向くとそこには、今まで見た中で一番の怒りを身に纏い仁王立ちの瑞岐がいた。
「あっ!瑞岐、お仕事はやかったのね!」
「は…?ねえ…さん?」
瑞岐は、手を握り合ったまま話しかける二人の間に割って入ると、隼翔の手をはたいた。
「痛ぇな!オレじゃねえだろ、今のは!」
「姉さん、こいつに何か変なことされてない?こいつは野生のゴリラだ。近づくと危ない」
「誰が野生のゴリラだ!」
「もう瑞岐ってば。私は高山さんと話してただけなのに」
ころころと笑いながら、隼翔に向き直ると彼女は言った。
「あっ、申し遅れました。私、瑞岐の姉の、成瀬瑞穂です!いつも弟がお世話になってます!」
隼翔はスッと真顔になった。
あの胸のトキメキも一瞬で消え失せた。
「でも、そうね!
もし私と高山さんが結婚したら、瑞岐のお兄さんになって、三人でずっと一緒にいられるね!」
姉の瑞穂は少々天然なところがあるらしく、さらりとこんなことを言ってのける。
隼翔と瑞岐は呆気にとられる。
「…僕は死んでも嫌だぞ、こいつを兄と呼ぶのは」
瑞岐は何故か隼翔を睨みつける。
「うるせー。てめーみたいなクソガキ、こっちこそお断りだ」
隼翔は舌打ちで応戦する。
そんな二人を前に、瑞穂はニコニコ笑っていた。




